【旅行記6-1】サイコロきっぷで行く隠岐の旅〜出雲の国編〜
1. サイコロきっぷ
それは,「日々旅にして,旅を栖とす」る異常旅行者の欲望を叶える夢のようなきっぷ
旅先を選べないギャンブル要素と引き換えに,5,000円という破格の値段で提供されるそのきっぷは,多くのZ世代の若者の注目を集め,支持されたといえるだろう(主観)
サイコロきっぷは,前回の記事で触れた「旅くじ」と,行き先を選べない代わりに少し安く旅行ができるという点で共通している.しかし,その割引率を見てみるとサイコロきっぷに軍配が上がる.
きっぷが設定された期間は旅行需要の落ち込むいわゆる「閑散期」と呼ばれる時期(※休前日・休日は通常期).鉄道好きの方なら,200円安く座席指定できる時期としてお馴染みだろう.提供座席に余裕があるその時期に新幹線,特急に乗ってもらおうと企画されたのだろうか.
その結果何が起こったか.特急やくもは連日満席.山口・湯田温泉に至っては臨時の普通列車を増発と,「閑散期」とは全く言えないような盛況をみせたそうだ.
そんな夢の溢れるサイコロきっぷに,いち異常旅行者の私も魅せられて,運命のサイコロを振ることとなった…
出雲市.一般人ならこう思うだろう.
「出雲大社お参りして,宍道湖のしじみでも食べて,玉造温泉入りたいな」
しかし私は逸般人.出雲大社も宍道湖も玉造温泉も行ったことがあるしすでに興味はない.
(あ,そういや玉造温泉入ったことないや)
私が目を付けたのは出雲市から日本海に出て北に進んだところにある隠岐諸島.
こうして私は,神々が住むと言われる出雲の地を離れ,かつて流刑地だった隠岐にセルフ島流しされることとなった.
2. 出雲の国への道のり
島流し当日.旅は新神戸から.サイコロきっぷは大阪発だが,経路途中からの乗車は認められている.
始発のみずほ601号に乗ってまずは岡山へ.九州の8000番台だっただろうか.車内チャイムが豪華なので九州車だとテンションが上がる.また,7000,8000番台の指定席は2+2の4列シートで,座席もふかふかで豪華な造りをしており,「乗り得」な指定席として名高い.
岡山からは381系特急やくもに乗り換え.381系は新型車両273系の投入に伴い近々引退する予定だ.「ゆったりやくも色」と呼ばれる暖色系の塗装に包まれた国鉄随一の自然振り子電車.振り子車両特有の大きな車体傾斜で乗り物酔いする客も少なくないそうだが,土讃線で鍛えられた私にとってはどうってことはない.
岡山駅を出発した特急やくもは,右前に陣取ったカップルの痴話喧嘩とともにモーター音を響かせて,山陽本線を西に進む.岡山第2位の都市・倉敷を過ぎると進路を北にとり,いよいよ伯備線に入る.カップルの喧嘩は彼氏がなだめてなんとかおさまったようだ.
伯備線をしばらく進むと,井倉洞で有名な井倉地域に入る.この辺りまで来ると雪が積もっている.
列車は新見を通過すると,いよいよ県境の峠に差し掛かる.特急やくもでは,瀬戸内海と日本海を隔てる分水嶺があるとの放送がこの付近で流れる.観光放送が終わると列車は国境の長いトンネルに入り,出るとそこは曇天の雪国であった.
曇天どころか,雪が降ってきている.
根雨駅では,対向の特急やくも8号と行き違いのため運転停車.特急やくも8号は国鉄色に復刻されている.前面の貫通扉は道中の雪で白くなっている.
列車は山陰本線を西に進み,終点の出雲市に到着.少し前にはサンライズ出雲号が出雲市駅に到着しており,特急やくも1号と一瞬横に並ぶ.しかし,すぐに西出雲に回送されていった.
出雲市駅の滞在時間は僅か.すぐに一畑電車に乗り換えて松江に向かう.特急やくもが少し遅れたので,乗り換え時間に余裕がなかったのだが,同じ列車から降りてきた乗客で券売機は大行列.電車の出発時間が迫っていたので改札で配られていた乗車駅証明をもらって急いで乗り込む.
定刻より1分遅れで電鉄出雲市駅を出発した電車は,出雲大社参拝客と見られる乗客を大量に乗せて北上する.出雲大社への乗り換え駅となる川跡(かわと)駅で参拝客は一気に降りて,車内は空席が目立つようになった.
電鉄出雲市から乗り込んだ車両は元京王5000系を2014年にリニューアルしたもの.島根県産の木材が使用された暖かみのある内装に生まれ変わった.
かつて都内の通勤電車だったとは思えないような内装.
電車は宍道湖の湖北を東へ進み,車庫がある雲州平田駅に停車.ピンク色に彩られ,しまねっこのイラストが入った元東急1000系電車は「ご縁電車しまねっこ号Ⅱ」として運用されている.左奥には,5000系電車の姿が見える.
電車は一畑薬師の最寄り駅となる一畑口駅に到着.かつてはさらに北に伸びて一畑駅が存在したのだが,戦時中の鉄材供出により休止され,結局廃止された.「一畑」を冠する鉄道会社なのに,一畑薬師まではアクセスできない.一畑口駅からはバスが運行されているが,1日3往復しかなく,参拝客輸送としては貧弱である.
電車は一畑口駅から進行方向が変わる.登坂目的のスイッチバックを除いて,1本の列車で進行方向が変わる普通列車は数少ない.(JR花輪線・十和田南駅,JR石北本線・遠軽駅など)
列車は方向転換し,松江に向けてさらに東へ進む.車窓にはしじみ漁で有名な宍道湖が見える.「八雲立つ出雲」と言われるように,出雲の国はどうも曇天が多い.
列車は宍道湖畔に建つ秋鹿町(あいかまち)駅に停車.島根県民しか読めない難読駅だろう.
電車はさらに湖畔を進み,奥には松江の市街地が見えてきた.宍道湖と中海に挟まれた松江の街は「水郷」として知られた城下町だ.
電車は終点の松江しんじ湖温泉駅に到着.行先幕は旧駅名の「松江温泉」表示となっている.かつては「北松江」駅だったが,温泉が湧出したため1970年に改称され,2002年に現在の駅名に改称された.ちなみにJRの松江駅からは2kmほど離れており,徒歩でのアクセスには30分程度を要する.
駅舎は2001年に建てられており比較的新しい.
ぱっと見の印象だが,群馬県・上毛電鉄の中央前橋駅とよく似た駅舎だ.こちらは2000年に建てられており,建築時期もほぼ同じである.
松江しんじ湖温泉駅(名前長いな…)から少し歩き,駅近くの蕎麦屋に入って昼食を取ることにした.松江市街地は平地の割に雪が多く積もっていた.実はこの数日前に強烈な寒波が到来しており,大雪が降ったばかりだった.
出雲名物・割子そばを注文.小さい器を縦に重ねて提供される割子そばは,つゆと薬味を入れながら食べていき,余ったつゆを下段に入れて食べ進めていくスタイルだ.
そしてもう1杯.こちらも名物の釜揚げそば.釜揚げうどんと同じように茹でたそばが茹で汁とともに提供される.割子そばに使ったつゆをかけて食べるスタイルで,つけだしスタイルの釜揚げうどんとは少し違う.
私は蕎麦屋を後にして,松江城へ向かうことにした.その道中の施設では,島根県の各市町村のPRがされていた.右手前にある「吉賀町」は以前noteでネタにした「パトカー代行輸送」の舞台となった町である.興味がある方はぜひご一読を.
島根県庁前の広場に出てきた.左の像は,かつての松江藩を治めていた松平直政の像.中央の建物は島根県庁.右には松江城が見える.
もう少し城に近づくと内濠が見えてきた.雪で白く染まった石垣はこの時期ならではで美しい.
城内に入ってまず目にしたのは,城内には似合わない洋風建築.こちらは興雲閣といって,明治時代に天皇の行在所として造られたのだそう.
奥に進むと天守が姿を現した.松江城天守は現存12天守のひとつで,江戸時代に建てられてから現在に至るまで保存されており,国宝にも指定されている.今回は時間の都合で中には入らなかったが,次に訪れた際には中も見学してみたい.
松江城内も積雪が残っており,少し歩きにくかった.郵便バイクも積雪で運転しにくそうに進んでいた.
内濠に出てくると晴れ間が見えてきた.松江城の内濠では遊覧船が運航されているのだが,客は乗せていないようだった.この日は月曜日.さすがに観光客の姿はまばらだ.
3. セルフ島流し
もしかしたら読者の皆様は忘れているかもしれないが,この旅のメインは隠岐である.ここで話題を隠岐に戻すことにしよう.
出雲市から松江に出て,松江観光を楽しんだのちに,歩いて20分強かけて向かったのは附属学園入口バス停.このバス停からは,隠岐行のフェリーが運航されている境港へ向かうバスが運行されている.
バスに乗り込み,車窓を眺めていると中海が見える.
しばらくするとバスは中海を貫く海中道路に入った.前面の写真は撮れていないが,中海の中を通り抜ける感覚は新鮮だった.
海中道路を抜けて江島に入ると,前面には壁のように聳え立つ坂が現れる.以前車のCMで「ベタ踏み坂」として登場し,名が知られるようになった江島大橋である.この橋を境に,バスは鳥取県境港市に入る.
バスは終点の境港駅に到着.隠岐へ向かうフェリー乗り場は駅のすぐ隣の建物からアクセスできる.
今回の旅行では「おき得乗船券」というものを使って旅行をした.この乗船券は,隠岐諸島で1泊し,観光体験を1つ体験すると,帰りの運賃がタダになるという破格のきっぷである.隠岐までは片道3,510円するので,かなりお得になる.
ここで本土と隠岐を結ぶ隠岐汽船について説明しておく.隠岐汽船は本土側に七類港(松江市)と境港(境港市)の2つの港があり,1〜2月は各港に1往復ずつ運航されている.隠岐諸島内の寄港地は,西郷港,別府港,菱浦港,来居(くりい)港の4つがあり,菱浦と来居は一部の便は寄港しない.
この日,私は来居港がある知夫里(ちぶり)島に宿泊する予定だった.しかし,この日は海上が荒れており,午前の便は来居港を抜港(※寄港予定だった港を通過すること)したようで,無事に寄港できるかどうか怪しかった.乗船券を買う際にも,係の人から抜港する可能性について知らされていた.
無事に知夫里島に辿り着けるかどうかドキドキしながら,いよいよフェリーに乗り込む.フェリーが想像以上に大きくて驚いた.船体にはゲゲゲの鬼太郎のイラストが描かれていた.作者の水木しげるさんが境港の出身ということで描かれているのだろう.
船内にもゲゲゲの鬼太郎のイラストが描かれていた.
隠岐汽船の乗船券は硬券だった.鉄オタとして硬券なのは嬉しいが,乗船券は基本的に持ち帰りができないので撮影だけしておいた.
おき得乗船券を購入すると.特典でエコバッグがもらえる.こちらのエコバッグも隠岐汽船のフェリーさながらに大きかった.
船は境港を出港すると,日本海を北上する.目的地の知夫里島へは約2時間半もかかり,意外と遠い.しかもこの日は海上が荒れており,船内は大きく揺れていて,外のデッキにも出られなかった.せっかくなら外のデッキから日本海を眺めようと思っていたのだが,それは叶わなかった.
結局船内では2等室で寝転んで過ごした.船内は意外と人が多く,私が乗船した時には寝転ぶスペースはほぼ占領されており,空きスペースを確保したものの,のびのびするには狭かった.船は上に下に大きく揺れ.全く寝付けることなく,携帯に保存しておいた動画を見ながら過ごした.
日本海の荒波に2時間以上に渡って揺られて,私は軽く船酔いしていた.頭痛が少しあり,寝転んでもその気持ち悪さが残るくらいだった.
抜港の可能性もあったのだが,フェリーは無事に来居港に到着した.このフェリーでは最初の寄港地で,来居港を出ると,別府港,西郷港の順に寄港する.
来居港にはすでに民宿の送迎が来ていた.私は乗ってきた船の写真を撮ったのちに,送迎の車に乗って民宿に向かった…
つづく