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フランクフルト・ブックフェア 2024

版権売買が盛んな証拠にLitAgには過去最高の540テーブルが並んだ

フランクフルト・ブックフェア開催の直前、韓国の作家ハン・ガンがノーベル文学賞を受賞しました。韓国初、そしてアジア人女性初のノーベル文学賞受賞となり、ブックフェア会場でも改めてアジア発の文学に注目が集まっていた気がします。今回も、現地で見聞きした情報や、現地で配布された情報誌から主だったニュースを抜粋してご紹介したいと思います。

世界の出版社トップ50

世界で人気、”Japanese healing novel”

「猫」「書店」「コンビニ」「コーヒー」等がキーワード、あるいは題材となった日本の小説が世界各国で翻訳出版され、ブームはまだまだ続きそうだ。関係者に訊くと、Japanese healing novelが読者の支持を得ているそうで、英語圏のみならず、アジア各国でも次々と翻訳出版されている。不安定化する世界情勢を背景に、日本の「癒し系」小説が求められているのかもしれない。

Orion Fictionもこうしたブームの中、初めて日本や韓国のタイトルを英訳出版することになった。

貫井徳郎の『Scream(慟哭)』、町田園子の『The Convenience Store by the Sea(コンビニ兄弟シリーズ)』、そして韓国のペク・ヒソンのデビュー作『Where the Light Leads』の翻訳版を獲得した。

筆者とマレーシアのBiblio Pressの創業者でCEOのKiridaren Jayakumar氏。
Jayakumar氏は積極的に日本の小説をマレー語で翻訳出版している。
Biblio Press社から刊行された太宰治、有川浩、八木沢里志、川口俊和らの作品のマレー語版
ドイツの書店Hugendubelに並ぶ日本の書籍の翻訳版の数々

また、海外での日本の小説の人気を背景に、小社は日本の出版社から小説のサンプル英訳の依頼を数多くいただいているが、最近は作家からも小説の英訳を依頼されることも増えてきた。国内外の出版社任せにせず、自ら翻訳を管理して能動的に海外展開に関与したいといった気持ちがあるようだ。

小社がこれまで築いてきた英訳者とのネットワークや、作品ごとの英訳の品質管理のノウハウが、日本の作品の海外展開に貢献できるのであれば大変嬉しい。

筆者とHarperViaのTara Persons氏。HarperViaは創設5年で数々の翻訳書を刊行しており、日本の作品では三浦しをんの『風が強く吹いている』(RUN WITH THE WIND/Yui Kajita訳)や、夏川草介の『本を守ろうとする猫の話』(THE CAT WHO SAVED THE LIBRARY/Louise Heal Kawai訳)等がある。

さらなる可能性を秘めるオーディオブック市場


筆者とJohn Marshall MediaのRobin Lai氏。同社は25年以上にわたりペンギンランダムハウス、グーグル、アマゾン、スコラスティック、マグローヒル、その他多くの企業のためにオーディオプログラムを制作してきた実績を持つ。21のスタジオを持ち、1,000人以上のナレーターと声優を抱え、 Lai氏によると、今後はマンガのオーディオ版にも進出する計画があるそう。

アメリカではついにオーディオブックの売上げが電子書籍の売上げを上回り、イギリスのオーディオブック市場は直近の10年間、毎年+30%の増加率で成長している。中国では昨年、100億元(約15億ドル/2150億円)を超える規模に成長するなど、出版社とオーディオブックを提供するプラットフォーマーの技術革新も伴って、オーディオブックの売上は世界中で伸び続けている。

世界のオーディオブック市場は、2023年の約70億ドル(1兆700億円)から、2024年には87億ドル(1兆3300億円)に達すると予想されている。スウェーデンでは現在オーディオブックが出版社の収益の35%、販売部数の64%を占めるまでに至っている。

また、スウェーデンの最近の調査によると、リスナーを大きく3つのグループに分類することができた。リピーター(同じ本を何度も聴く)、スワッパー(多くの本を試聴してから決める)、スーパーユーザー(大量のコンテンツを消費する)である。

ただ、ヨーロッパの他の地域を見てみると、ドイツは比較的オーディオブック市場が確立しているが、その他の国はまだこれからのようだ。

ブラジルや日本も読書スタイルが劇的に変わるにはまだ時間がかかるかもしれない。

米国や英国のようなオーディオブックの市場が確立された地域では、今後、コンテンツ配信の強化と収益化の革新に焦点が当てられる。

Spotifyが2023年10月に米国と英国でオーディオブックのストリーミングサービスを開始した際、膨大なユーザーベースとデータ駆動型の推薦アルゴリズムを活用して、新しいリスナーにアプローチし、ユーザーのリスニングパターンに基づいて書籍を推薦することも始めた。

AIの急速な進化はイノベーションにも拍車をかけている。

Spotifyは、コンテンツの発見と推薦のためのAIアプリケーションを最適化しようとしている。AudibleはMavenと呼ばれるAIを搭載した検索ツールを導入し、顧客が特定のタイトルを見つけられるようにした。また、スウェーデン企業のStorytelは、リスナーが好みや気分に合わせてナレーターを変更できるVoiceSwitcher技術も導入したばかりだ。

アメリカ出版市場動向:ロマンタジーが引き続き好調、オーディオブックの売上が電子書籍を上回る

アメリカの2024年上半期の一般書の売上は、フィクションが11.3%増、ノンフィクションが1.6%と、ともに増加。

デジタル・オーディオの売上は同期間に20.4%急増し、4億3500万ドル(660億円)となり、3.9%増で4億3240万ドルの電子書籍の売上をついに抜いた。

この2つのデジタルフォーマットを合わせると、成人の売上高の30.6%を占め、前年の29.3%から増加。

ハードカバーとトレードペーパーバックの売上はそれぞれ4.5%、7%増加。

アメリカでは2023年頃からTikTok上でおすすめの本を紹介するコミュニティ“BookTok”を通じてロマンタジー(romantasy)という、ロマンスとファンタジーを組み合わせた新ジャンルが爆発的な人気を博している。

ロマンタジーの代表例は、戦時下の危険な軍隊学校を舞台に若いドラゴン使いと恐ろしい教師の恋物語を惜しみなく描いた『Fourth Wing』(日本語版:『フォース・ウィング-第四騎竜団の戦姫/上・下』早川書房)。

出版業界のパラドックス:デジタル革新は脅威であると同時にビジネスを強化もする

2年前にOpenAIがChatGPTを発表して以来、新しいスタートアップの数が爆発的に増えている。

アメリカではこの2年間で、約320のスタートアップが立ち上がり、ほぼすべてがAI関連。現在1763社のスタートアップが登録され、そのうち1183社が現在も営業中で、580社が閉鎖。

これらには、出版社社内のAI事業は含まれていない。 ビッグ5の各出版社は、社内のAIプロジェクトを目立たないように隠している可能性が高い。出版社はビジネスを合理化するために社内でAIを導入する一方、出版されたコンテンツをAI企業にライセンス供与し、出版社が確実に補償を受けられるようにするための新たなモデルを導入しなければならないと真剣に考えている。

今年の10月初旬の時点で、OpenAIの企業価値は1570億ドル(24兆円)と評価され、これは全世界の出版業界が1年間に生み出す収益とほぼ同じ。

OpenAIは今年の売上を37億ドル(5600億円)と予測しており、2023年に世界最大の出版社であるペンギン・ランダムハウスが稼いだ49億2000万ドル(7600億円)に迫っている。

AIからの収益は指数関数的に成長する可能性を秘めている一方で、出版は、少なくとも紙媒体では残念ながらそうではない。

しかし、オーディオブックにはまだ大きな成長の余地が残されている。オーディオブックの技術革新は進行中であり、その多くは、国内で販売される書籍売上の64%をオーディオブックが占めるスウェーデンが牽引しているというから驚きだ。

スウェーデンの企業の中で、2023年10月に英語のオーディオブック市場に参入したSpotifyほど市場にインパクトを与えているプレーヤーはいない。

ハーパーコリンズの親会社であるニューズ・コーポレーションのロバート・トムソンCEOは、Spotifyをオーディオブック市場の「ゲーム・チェンジャー」と繰り返し呼び、Spotifyの市場参入の結果、自社のオーディオブックの売上が2桁成長したと言っている。

Spotifyは自費出版作家にも影響を与えており、Spotifyのインディーズ・クリエイター向けサービス「ファインダウェイ・ヴォイス」の利用者は、印税が約2倍に。

さらに、Spotifyはもうひとつの巨大テック企業であるティックトック(TikTok)と同様、若い視聴者を引き寄せることに成功している。 SpotifyもAIを導入しており、ユーザーが音楽を聴く習慣によって好きそうな本を予測し、プレイリストと一緒に宣伝している。

スウェーデンのイノベーターはSpotifyだけではない。Storytelは、ユーザーがオーディオブックのナレーターをその場で切り替えることができるAIを搭載した「ボイス・スイッチャー」を発表し、NuanxedはAIを使って文芸翻訳を迅速化し、本を数年ではなく数週間で完成させることができると自信をのぞかせる。

どちらのサービスも、通常であれば人間が行う仕事をAIを使って行っているが、各社とも、最終的には市場を拡大し、ナレーターや翻訳者の機会を減らすのではなく、より多く創出すると主張している。

AIツールを活用することで、他の方法では採算が合わなかったかもしれない書籍の出版や翻訳を、よりコスト効率よく行えるようになりつつあるのは事実。その利益から最終的に誰が利益を得るのかーー本の成功に貢献した人々なのか、それとも顔の見えない株主なのかーーは、最終的には経営陣次第であろう。

イタリアの出版市場動向

イタリアの出版業界の2023年の売上高は、前年比1.1%増の34億3900万ユーロ(5700億円)だった。 インフレ率を差し引いたイタリアの市場規模は、同国が初めてゲスト・オブ・オナーに選ばれた1988年と比較すると2倍以上となった。

パンデミック前と比較して最も大きな伸びを示したのはコミックで、2019年の売上3600万ユーロから2023年には9870万ユーロに増加した。 同期間、エロティカとロマンスの分野では2710万ユーロの売上が6090万ユーロに、SF、ファンタジー、ホラーは3400万ユーロから4730万ユーロに増加。

イタリアは現在、ヨーロッパで第4位、世界で第6位の規模である。

国内には3000以上の書店と5184の出版社があり、年間8万タイトル以上(2023年は8万5192タイトル)の書籍が刊行され、他の欧州諸国に権利を売却する契約が65.8%を占める。

欧州における英語版の販売

ヨーロッパ全土で、英語版書籍の人気が高まっており、それが現地の翻訳版の売れ行きに影響を及ぼしている。

英語版の売り上げを押し上げている要因はいくつかある。第一に、英語版の権利のほうが翻訳権より先に販売されるのと、翻訳版の刊行には時間がかかる。第二に、BookTokの台頭により、ヨーロッパ各国のソーシャルメディア・スターたちが、英語圏のBookTokerと同じ英語版を動画で紹介したがること。 第三に、多くの若者が英語で読む(ひいては英語で書く)ことにも自信を持ちつつあること。

YAや一般小説、特にロマンスやファンタジーが最も大きな打撃を受けているが、スリラーやノンフィクションはそれほど影響を受けていない。

北欧諸国や、バルト、ドイツ、オランダは4冊に1冊が英語版で売られている状況にあるが、スペインやイタリアなどの南欧諸国は、まだそれほど英語版の影響が大きくはない。

人々が英語で本を読む理由は、(現地の言語の翻訳で)すべてが手に入るわけではないのと、翻訳版が出るまで待ちたくない、あるいは英語の習得のため原語で読みたいと考えている読者が増えているのと、例えばオランダ語版の本には定価があり、外国語の本には適用されないから安く手に入るのも理由に挙げられる。

英語版書籍の輸出はアメリカとイギリスの出版業界にとっては「不可欠」だが、欧州の書籍市場にとっては「大きなダメージ」になりうる。

また、長期的に見れば、著者の印税が低くなり、エージェントの収入も減り、ヨーロッパの出版社の収入も減ると予想されている。オランダと北欧諸国ではすでに "大打撃 "を受けているといえるが、今後、ヨーロッパで最も大きな市場であるドイツでも "大打撃 "が出始めたとき、アメリカやイギリスでも悪影響が出てくることが予想される。

一つの解決策は世界同時出版である。 これには費用と時間がかかり、すべての英語版出版社が翻訳が完了するまで出版を待てるとは限らない。 同時出版は、出版が遅れる可能性があるだけでなく(特に著者が原稿を送るのが遅れることがあるため、翻訳を急がなければならなくなる)、ヨーロッパでの英語版売上を圧迫することにもなる。

他の解決策としては、英語以外の言語の小説を探すこと、原著者がヨーロッパのブックフェスティバルに参加して翻訳版を宣伝すること、翻訳本には限定コンテンツを掲載して付加価値を付けたりすることなどが考えられる。

ある関係者は、「今後5年間、ヨーロッパ市場の存続は本当にこの問題にかかっている。 ヨーロッパの出版社の多くは組合を結成する必要があると思う。そうしなければ、多くの東欧諸国やドイツの出版社にとって破滅的な事態を招くことになるだろう」と指摘する。

著者、出版社、翻訳者の市場を拡大する新しいAI支援翻訳サービス

人工知能と翻訳の未来は、2024年フランクフルト・ブックフェアで注目のトピックとなった。

国際的な文学市場間の書籍のやり取りを迅速化するために2021年に設立されたストックホルムを拠点とするNuanxedのサービスは、ポストエディティング(PE)として知られ、AI翻訳ツールの使用と人間の編集・校正を組み合わせている。

「Nuanxedの共同設立者でCEOのロバート・カールバーグ氏は、9月にニューヨークで開催されたInternational Summit of Audio Publishers (ISAP)で「日本語からオランダ語など、全部で69の言語の組み合わせに取り組んできました」と述べた。

Nuanxed社はこれまで主に商業小説を扱ってきたが、Nuanxed社を設立する前はStorytel社でリージョナル・マネージャーを務めていたカールバーグ氏。Nuanxed社は主にノンフィクションを手掛けているが、今後はフィクションの翻訳にも前向きだ。

一般的な300ページの本の翻訳(AI翻訳+人間の編集・校正の組み合わせ)には、開始から終了まで平均3カ月かかるが、シリーズものの場合、1冊目以降はAIが登場人物や設定、テーマに慣れるため、翻訳スピードが上がり、2~3週間で翻訳が完了することもあるという。

「これによって、本を素早くリリースすることができ、SpotifyやStorytelのような多くのグローバルプラットフォームの配信を通じ、一度に10カ国語で本をリリースすることで、ほぼすべての読者にリーチできる可能性が出てくる」とカールバーグ氏は語る。

Nuanxedは、プロの言語学者、翻訳者、編集者、校正者のネットワークと協力しているという。 「熟練した経験豊富な言語学者と仕事をすることに重点を置いており、彼らが翻訳する書籍の本質、スタイル、トーンを確実に捉えることができます」とカールバーグ氏は説明する。 「私たちが構築したのは、ワークフローとプロジェクト管理システムであり、品質を損なうことなく生産性を向上させるために、すべてのレベルで最適化されています」。

カールバーグ氏によれば、このサービスは従来の翻訳サービスよりも速いだけでなく、安価で効率的であることが多いという。 また、一部で懸念されているように、翻訳者から仕事を奪うのではなく、「翻訳者の仕事を増やすことができる」とカールバーグ氏は言う。

出版業界が翻訳プロセス、特に文芸翻訳の分野でのAIの統合に取り組む中、カールバーグ氏は、著者と出版社がより幅広い世界中の読者にリーチできる可能性は大きいと主張する。 特に、読者数が少なく、翻訳者の数も限られている言語との間で翻訳を行う場合、Nuanxedを世界中のより多くの読者にリーチするための有効な選択肢と考える出版社はますます増えていくだろう、と確信している。

カールバーグ氏は、一部の出版社や翻訳者が同社に対して懐疑的だったことを認めている。 しかし、最終的には納得してもらえるとカールバーグ氏は付け加えた。 「通常、著者や出版社、翻訳者と話を始めると、いつも同じような話になる。 その後、私たちはもう一度会話をし、私たちのやり方を説明すると、彼らは“わかった、やってみよう”と言う。 そして、“もう1回やってみるよ”となる。 そして、最終的には “本当に、本当に気に入った”と言ってくれるんだ」。

中国のオーディオブック事情

新華社通信が最近発表した白書によると、中国のオーディオブック市場は近年大きく拡大しており、2015年の19.6億元(430億円)から2023年には100億元(2150億円)を超える規模に成長。 中国の消費者は昨年、平均8.8冊のオーディオブックを聴き、米国で報告された数字を上回った。

しかし、オーディオブックの人気が高まっているにもかかわらず、中国の出版社は、持続可能なビジネスモデルを見つけるのに苦労している。原因は主に、多額の投資コスト、過当競争、一流のナレーターとの契約の金銭的負担、無料コンテンツに対する消費者の慣れ等によるものだ。

中国では現在、Ximalayaが市場の70%以上を占め、月間アクティブユーザー数は3億4500万人、次いでQingTing、Lizhiなどが続く。

これらのプラットフォームは4つの主要収益モデルを採用しており、有料コンテンツ(サブスクリプションと1回限りの購入)が収益の51%を占めている。 広告が重要な副次的収益源。

これらのプラットフォームの多くは、無料試聴セッションと無料コンテンツを提供しているため、これらの無料素材をプレミアムとして利用し、強力なリスナーベースを構築している。

中国のオーディオブック出版社は、有名人のナレーターの人気を利用して、ライブ放送も提供したり、ヘッドフォンやスマートデバイスなどのブランド化されたハードウェアも販売している。

リスナーの多くは24歳から40歳の男女で、フィクションが約60%を占める。親の半数以上がオーディオブックを子供と聴いており、82%のリスナーが友人と情報を共有している。

ヨーロッパ各国の翻訳出版事情

イギリス市場ではここ数年、翻訳小説の売上が順調に伸びており、ニールセンの「Total Consumer Market」を通じた2023年の統計によると、2022年と比較して12%増加すると推定されている。 特に日本の翻訳作品はこの成長を後押ししており、川口俊和の『コーヒーが冷めないうちに』(Geoffrey Trousselot英訳)はその年のトップセラーとなった。

この傾向はヨーロッパ市場でも見られるのだろうか? ニールセン・ブックデータとGFKが管轄しているヨーロッパ12地域の成人向け小説・グラフィックノベルのトップ100タイトルの売上を、2024年1月から8月末までの期間で調べた(印刷書籍のみ)。

これら12の地域はすべて、トップ100に少なくとも1つの翻訳タイトルが入っている。 アイルランドは前述の『コーヒーが冷めないうちに』の1タイトルだけだったが、フランス領スイスは原語の多様性が最も高く(10)、イタリアは「ユニークな」原語の数が最も多く、他のどの国でも見られない言語から翻訳されたタイトルが2本あった。(Eshkol Nevo’の『Legami』(Raffaella Scardiによるヘブライ語からの翻訳)と、Milan Kunderaの『L'insostenibile leggerezza dell'essere』(原題:Nesnesitelná lehkost bytí、Antonio Barbatoによるチェコ語からの翻訳)。

オランダは日本の2作品(『コーヒーが冷めないうちに』と八木沢里志の『森崎書店の日々』、Eric Ozawa英訳)、ポルトガルはポルトガルの名作『I Have More Souls than One』(フェルナンド・ペソア著、ジョナサン・グリフィン訳)の英語版である。

ヨーロッパ以外の言語で最も多く翻訳されたのは日本語で、多くのマンガ作品と、『コーヒーが冷めないうちに』が9つの地域で5つの言語に翻訳されたことが貢献した。

TikTokロマンス(およびロマンス・ファンタジー)の人気作家Colleen Hoover、Ana Huang、Rebecca Yarros、犯罪とスリラーの作家Frieda McFadden、ホラーとファンタジーの旗手スティーブン・キング、そして死後に出版された『En Agosto nos vemos(8月まで)』の偉大なる故ガブリエル・ガルシア・マルケスである。

さらに、ロマンス作家のHannah Grace、犯罪作家のJoël Dicker、文芸作家のHanya Yanagiharaが5カ国語で続く。Yanagiharaの『A Little Life』は、原書(英語)とStephan Kleinerによるドイツ語訳の両方で、ドイツ・スイスのトップ100に二度ランクインした。ちなみに『A Little Life』は2015年のブッカー賞の候補となっている。

BookTokの影響で世界のフィクションの売上げが増加

ニールセン・ブックデータは、世界的な傾向として、「フィクションは好調、ノンフィクションは減少、価格上昇の鈍化」「BookTokがフィクションの売上げにますます重要な役割を果たしている」と解析している。

最も伸びている小説ジャンルは犯罪小説とスリラー小説で、調査対象国の4分の3で売上が伸びており、その増加幅はワロン地方(ベルギー)の+3%からポルトガルの+56%にまで及んでいる。

SFとファンタジーはさらに好調で、軒並み2桁の伸び率を記録。調査によると、TikTokコミュニティBookTokは、Freida McFadden(The Housemaid series)、Rebecca Yarros(The Empyrean series)、Colleen Hoover(It Ends with Us/It Starts with Us)などの作家に注目を集め、これらや多くの小説ジャンルを牽引する重要な役割を果たしている。

一方でノンフィクションの落ち込みは顕著で、昨年多くの地域で大量に売れたハリー王子の伝記『Spare』のようなベストセラーの不在が一因。そんな中、健闘しているのがJames Clearの『Atomic Habits』。これは13の地域でノンフィクションのベストセラー上位5位に入っている。 しかし、パンデミック後の回復を謳歌していた旅行分野など、多くの分野は衰退しているなか、歴史書やライフスタイルガイドは比較的堅調のようだ。

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さて、ざっと世界の出版市場を観察してみましたが、面白いのは、ChatGPTをはじめ、AIツールが今のところ最も苦手とするのは、まさに出版業界が最も得意とする「ストーリーテリング」であり、人間の感情には、ストーリーを最もうまく伝え、売り込む強みがあるということです。

フランクフルト・ブックフェアの存在理由もそこにあるのかもしれません。対面での権利関係の打ち合わせをビデオ会議に置き換え、ディールメーキングを自動化しようとする試みはコロナ禍以降、数多くなされてきましたが、成功した例はほとんどききません。 

出版社やエージェントたちは、小さなテーブルで30分刻みで会話を交わし、互いを物語で惹きつけます。ブックフェアに参加する理由はセレンディピティと驚きを体験することであり、AIが提供できるものとは正反対のものなのかもしれません。

翻訳出版プロデューサー 近谷浩二

【取材協力】
John Marshall Media / Robin Lai氏
Biblio Press / Kiridaren Jayakumar氏

【参考文献】
The Bookseller October 16 2024

The Bookseller October 17 2024

The Bookseller October 18 2024
Publishers Weekly Show Daily October 16 2024
Publishers Weekly Show Daily October 17 2024
Publishers Weekly Show Daily October 18 2024


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