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已己巳己のみずうみ


 母と妹とこうして出かけるのはいつぶりだろうか。かつて旅した北欧の雰囲気を懐かしむべく、私達は埼玉県の飯能駅からメッツァへと向かうバスに乗り込んだ。

 目的地に降り立つと、そこには冬らしい装いの小山と穏やかな波をつくる湖があった。きりりと澄んだ空気をゆっくりと味わうように歩いてみる。

 背の高い枯木が道につくる影、青空みたいな色合いをした木の家、背も髪型もそっくりな母と妹の背中。数歩後ろでそれらを眺めているうちに、ふと目に涙がたまっていることに気づく。想像以上にここは北欧の思い出が重なる場所だ。

 私の結婚を機に、三人での遠出はしなくなった。最後の旅の記録はフィンランドのヘルシンキ。あれから数年経ったのに、こうして母と妹の背を追いかけていると、こういう瞬間が明日も明後日も続くのだと勘違いしそうになる。

 日が沈み、夜空と同じ色をした湖に別れを告げながら、いつかまた三人で来ようねと、約束を交わした。





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とらみな(寅三奈)|体調良くないので更新頻度低めです
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