無題

クラシック音楽業界を目指す方へ①(プロオケ事務局ほか)採用への道しるべ。

私は、とある一般中堅私立大学出身で、一般企業などを経て、現在とあるプロ・オーケストラ事務局で「企画営業」の仕事をして8年目になる者で現在アラフォーです。不定期採用かつ未経験で、この業界に入りました。

■このコラムでは、私の仕事(プロオーケストラ事務局)を通して得た、
(1)採用の勝ち取り方、今後の業界の課題、働く際の考え方
(2)この業界の「具体的な仕事内容」
など、有益な情報を中心に記述したいと思います。

クラシック音楽に携われる仕事を考える方は、一定数いらっしゃると思います。私の場合はプロオケ事務局なので主にこの仕事に携わりたい方向けですが、この仕事への採用は、音大出身でなくてはならないか?
音楽知識に優れていなくてはならないか?必ずしもそんな事はありません。皆にチャンスがあります。

私の場合は書類送付の段階で、自分なりの必勝法を構築し、他の人と差を付ける事が出来たのだと思います。しかしこれは、誰でも出来る事です。
また、他のクラシック関係企業でも使える手ですのでオケ事務局以外に就職をお考えの方もご覧ください。

もうひとつ、体系的な情報が少ないこの業界の仕事の具体的内容、この業界の課題・働くに当たっての考え方なども一気に公開します。オーケストラ事務局の仕事の中身も網羅しておりますので、是非読んでみて下さい。

(1)【採用に関すること、業界の課題、考え方】

ここでは私のプロフィール・そして転職例と採用のコツをお伝えし、より確実な就職の手助けになる事が主目的です。
この業界は一般業種と違い、「どうやったら潜り込めるのか」といった方法論のようなものも「どんな仕事なの?」といった部分はネットにも体系立てて存在せず、各々の工夫と努力と運にかかっている所があります。    つまり、情報が少ないのです。私も、これには参りました。独力で情報を集め、考え方を構築し、採用に至った次第です。

毎年、数多くの音楽業界志望の皆さまと同じく、若い頃は悩み、どのようにすれば、好きな音楽を仕事に出来るか、携わる事が出来るかを考えてきました。

私が面接に来られる方を見て思うのは、クラシックの知識は抜群でも人間的に暗かったり、性格的に明るくても業界の研究や見識が不足している方であったり、ちょうど良いバランスが取れている方は、意外と少ないように思います。あくまで「仕事である」意識を持てるようにする事は大事です。
そして採用側も、その募集の時々により欲しい人材が時節にもよって変わる事があり「必ず採用されるか」という問いには、100%とは申し上げられません。しかし、ここに書いてある情報を参考にして実践頂きましたら、採用には近くなる事は、お約束します。

出来るだけクラシック音楽業界の情報を開示し、今後の就職(転職)活動のお力になれましたら、幸いです。

まずは私が、一般大学・企業出身で音楽業界経験のなかった転職組ながらも、約30倍以上の倍率を潜り抜け、プロオケ事務局で働くようになった経緯、そして仕事の中身の概要をお伝えしたいと思います。

【私のプロフィール】

音楽に縁のない家庭でした。ただ母所持のレコードを聴いた事により、幼少期はクラシックは割と好きだったので、のちの親和性の下地はあったように思います。しかしそれ以降は、クラシックを特に詳しくもならず。
中学時代に2年半中学校の吹奏楽部でホルンを吹いたものの特にハマらず、
中・高は寧ろロックに傾倒するなどクラシックとはさほど縁のないまま、関西地方のある一般中堅私大に入学しました。
楽器さえ出来れば良いかと、何故か「交響楽団」に入部。
理由は、勧誘された部活の中で、一番ハジけて楽しそうな濃い先輩率が当時たまたま高かったから。
オケへの拘りはなく、希望楽器を聞かれて真面目に「サックス」と答えたので、吹奏楽とオーケストラの違いすら、分かっていない状態での入部です。

ところが、この大学の部活動が運命を変えます。オーケストラとホルンの魅力にハマってしまいました。何とか音楽関係の仕事ができないか、と思うようになりました。
部活に漬かってしまい、6年かかって大学を卒業(苦笑)
同時に、友人たちと常設のアマチュア市民オーケストラを立ち上げました。(ここでの運営や集客に頭を悩ませ課題を考えた経験が、のちのプロオケの面接に役立ちました。)
大学卒業時に「楽器」の実力では仕事に携われないと思いました。
(仕事選びの選択肢としては、一般的な他業界、/音楽関係では楽器屋・楽譜屋・楽譜出版社・レコード会社・オーケストラ事務局・コンサートホール[文化振興財団]・PAエンジニア・サウンドエンジニア…などでした)

大学卒業時に就活はせずに1年間フリーター、その後に昼のバイトをしながら2年制の音楽専門学校夜間主へ進学(音楽的な試験は無かった)。
「サウンドエンジニア専攻」という事で、レコーディングスタジオでミキサーを弄り、研修で各地のホールに行き音響裏方の研修を受けていました。

しかし仕事となると時には20時間以上ぶっ通しで音を聴き続けての、人工的に音を弄るような作業。これが性に合わなくなり、生音がいいなと思い挫折したのです(ダメ人間)

また、仕事内容がかなり不規則な割にお給料は10万代前半。試用期間もアルバイト扱いで、生活を考えた時に(回り道して27歳になっていた私は)一度「音楽業界」は諦めました。
ある程度の厳しさはリサーチで分かっていたとはいえ、現実にレコーディング業界の職人の実情を突きつけられると、覚悟が決まらず。今思えば、認識が甘かった。

結局私は、大卒の履歴も活かし、一般の業界をターゲットにしました。
そして専門学校の「新卒」として27歳にして、コピー機やパソコン等の事務機器の販売商社に営業職として就職、そこで2年勤務しました。
エリアにあるビルの会社を片っ端から飛び込みつつ、元々の顧客を回るルート営業の仕事です。

転職戦線は当時30歳がひとつの転機。最後のチャンスだと「やれる仕事」から「やってみたい仕事」への挑戦をしようと29歳にして退職し、音楽業界への求人募集を見ながら平行して、他の一般業界の就活もしていました。

結果、他の一般業界で勤務も数社経験して、32歳にして現在のプロオケの事務局の仕事に採用される事になり、今に至ります。

(大学卒業→フリーター→音響専門学校→商社→数社経験→プロオケ事務局)

一般業界での仕事は大変でしたが、同僚の仲は良く、今だに当時の同僚と良好な関係です。そこでの経験は、のちの人生にも大変役に立っています。
音楽大学卒業後、直接今の私の業界に就職される方もいらっしゃいますが、一般の会社で働いた経験は我々の業界では貴重だし、武器になるでしょう。

以上、プロフィールです。

説明が長くなりましたが、これだけ遠回りしながら一般大学出身で業界未経験の人間が、不利な条件から何とかクラシック音楽業界で職を得て、今は精神的には満たされた生活を送っております。仕事は大変ですが 笑。
やり甲斐はあります。

どのように仕事を得るようになるか、これを読んでおられる方は、何らかのヒントを得られればとお考えでしょう。

下記はあくまで私の例であり、必ず採用に繋がるかの保証はしません。
結局求職者さんの人間を判断される事なので、そこはご了承下さい。
しかし、知る事・ポイントを押さえる事で、採用には近くなる事は保証いたします。
(私の知り合いにも下記内容を伝え、ある程度は実践されたようで、その後別のプロオケに採用されました。)


■面接・採用にあたり、抑えておきたいポイント、私が行った行動、そして働くにあたって必要な事などを列挙致します。

※この文章は、面接に関しての「身だしなみ」や「自己紹介」などと言った、最低限の社会的常識を身に着けておられる事を前提に進めます。
面接に関して必要なマナー、などは、どの業界に関わらず同じですので、クラシック業界でも何ら特別な事はございません。

【面接前に、事前に抑えておきたいポイント 6つ】

①オーケストラの、音楽的にマニアックな知識はそこまで重要視されない。
受けるからには、一般人程度にはクラシックは好きだし知っているだろう、という前提が採用側にもあり、あまりマニアックな知識を会話の流れに関係なく語り始めるのは、マイナス。
質問されたらある程度の知識を答えるくらいで十分。
クラシックやオーケストラを知っている事に越した事はありませんが、それが採用に直結はしません。知識のない方でも採用実績が、実はあります。
私の時は、せいぜい「作曲家や曲は誰が好き?」とか「過去にウチの演奏会聴きに来た事ありますか?」くらいで、そこまで深く掘り下げた質問はありませんでした。
知識が深くなくても採用事例は結構ありますが、採用後に覚える努力はしないと苦労はするので、勉強する姿勢は必須です。
あと、やはり知識はあった方が、仕事中「これはマズいのではないか?」「これは大丈夫だ」という勘は働きます。そういう時に音楽の知識に詳しいと、何かと役立つでしょう。
しかし、私個人の経験で言えば、採用段階においてはアマチュアオーケストラ所属時に知っている程度のクラシック知識があれば、十分だと感じています。
※但し、通常の就活と同じですが、いくら詳しくないといっても全く調べもせずに受けても駄目です。常識として、受ける職場やクラシック・業界について少しくらいの下調べや知見を身に付けておく事はお願いします。

どの業界でもある程度当てはまる事ですが、
例えば車のメーカーさんなど、そういった会社での面接で「車好き」ばかりアピールされても採用側はゴマンとそういう人を見ているので、あまり心に響きません。
その人の持っている「この業界に対する見方、感じている課題、意見」「合うかどうかの持っている雰囲気」「元気さ、明るさ」の方が大事です。
例えクラシックの知識がそこまで無くても、直前の業界研究・クラシックの初歩的な知識で、採用されるケースも有り得ると思います。
(但し、クラシックを全く知らないと、同程度の評価の方がいらっしゃる時に不利にはなる可能性があります。)

②クラシックやオーケストラに、一定の距離感を持った視点は絶対必要。
ですが、心からオケを愛していないと長く続かないかもしれない。
深い愛情と同時に「客観視」が必要です。バランス感覚です。
(例えば、一般のお客様、日本、諸外国における一般人は、オケに対してどういうイメージを持っているのか、オケはどう見られているのか。そしてどうすればクラシック界の課題を改善できるのか考える…など。
シビアに見る事が出来ないと、仕事として客観的な判断が出来ないです。

オケ団員も指揮者も皆「芸術家」なため、時には言った者勝ちのような人や、非常にクセの強い方も居ます。舞台の現場裏方系もそうでしょう。
その方々と対峙しても、嫌になったりしないだろうか。
受験者は、ただのファン目線でも、オケが好きすぎても、「オケが嫌いになってしまう」可能性があります。
そこはご自身の性格を良く考えて受けましょう。憧れだけで務まるほど甘い世界ではありません。

ある意味、オーケストラ事務局員は「ツアコン」や「救急隊員」のような部分があります。誤解を恐れず言えば、クセの強い"大きな子供”を如何に諭して、言う事を聞いてもらえるか、時には奏者やカスタマーに厳しい事を言わねばならない、、、など精神面でのタフさは求められます。
次から次へと、細かく様々な難題に遭遇するでしょう。
代わりに、一般人では味わえない舞台裏や色んな場所に仕事で行けて、テレビで見るような有名人と仕事を行う事もあります。
また、自身が演奏会を企画する事も多く、自分が組んだ曲・公演案に指揮者や楽団員がGOサインを出し、それが実際世に流れる訳です。なので、公演も大変感動が味わえます。
トータルとしてこの業界は皆優しい人が多く、パワハラのような事はほぼありません。また、社会的地位も肩書的にはそれなりにあります。
(給料とのバランスが…という感じですが)

③『業界の事を詳しく研究し、アンテナを張る』事は月並みですが重要。
私はプロオケ面接なのでクラシック音楽業界が主だし、例えばホール管理の文化振興財団等ならアートマネジメントについてなどを、事前に出来るだけたくさんの下調べをして正確な知識を身に着けること。
そこで自分なりに感じる業界の課題、解決方法をひとつでも具体的に言えるようになると、一気に好感度が増します。

この業界の求人は普通は就活サイトには載りません。
全国の、気になる各プロオケのHPを「お気に入り」に登録するなど、常日頃求人募集がないか、直接チェックしアンテナを張っておきましょう。
不定期採用のため、グズグズしていると、チャンスはすぐに逃げます。

また、「ネットTAM」という芸術関係系のリクナビというべき求人サイトhttps://www.nettam.jp/ があるので、そこは常に見て情報を得ておくべきでしょう。ネットTAM内には、オーケストラ事務局に関してのコラムもあるので、是非一読しておいてください。


④暗い、オタク的雰囲気は論外ですが、元気過ぎて体育会系的な雰囲気は出しすぎなくて良い
です。
この業界は、ステージマネージャー等一部人間を除けば、あまり現場系のオーラがある事務局の方々は居ません。
自然に、落ち着いて朗らかに前向きな回答をする事が出来れば、好感を持たれやすくなります。話す内容重視です。


⑤英語・他言語の習得は有利な材料になるが、絶対条件ではない。
私は、日本語しか駄目ですし、他言語の試験も言語力も問われませんでした。私は比較的ラッキーな例ですが、他のオーケストラでも、言語能力はそれほど問われない所も多いですので悲観する事はありません。
但し、他言語能力などが必要な求人も有るので、最低限英語くらいは習得しておくと損にはならないです。勉強中、でも良いでしょう。
他言語習得は、オケよりは寧ろ「アーティスト・マネジメント事務所」系の求人で、必要とされる事が多いです。


⑥採用に関して、一般業界の人事担当のような、いわゆる「採用のプロ」というレベルの人は、ほぼ存在しない。緊張しなくて良い。
一般的な会社[ある程度の中堅以上の会社]では、新卒の人には「研修」等を通じ、社会人の基礎の部分を社費を負担して教育します。
しっかりそういうプログラムが用意されていて、人事の方も「人を採用すること」のスペシャリストになるべく、時には人事用の研修や勉強会なども通じて、会社に還元することでしょう。
SPIでもそうですし、何度も面接し、会社に合うか、期待できるか、の部分を面接や科学的に判断する部分など、比較的体系だてて採用をしています。

しかし、この業界はそういった「新卒向け」の研修制度は存在しません。
基本的に新卒者も転職者も実地[OJT]で、仕事やマナーなどを身に着けていく事になります。人事もハッキリ言って、その道の「プロ」ではありません。要は面接で[感じが良ければOK]なのです。
しかし音楽業界とは言え、必要とされる社会人スキルは一般業界の他社と変わりません。(時折社会人としておかしい人も居ますが、それはこの業界の特殊性もあるのかも…)
後で苦労しますので、一度、一般的な会社に就職して基本的な社会人マナーを身に着けた上でこの業界に就職するのをお勧めするのは、このあたりにもあります。
[しかし私の知り合いで、新卒で働いている方もいらっしゃいますので、新卒も無理ではありません。]

また、バイトや仕事などで"サービス業"や"営業"をしていらっしゃった方、専門職で何らかの実績を上げた方も、他の企業と同じように、期待値が上がります。この仕事は「営業」や、サービス業の要素があります。
そこに、企画力やオケ(クラシック)への愛が入ってきます。
語弊を恐れず言うと、オケはお客様にとっては"エンタメ"でもあるのです。サービス業の要素がある事はご理解下さい。

また、あまりに体育会系のイケイケそうな雰囲気の人も、好かれ辛い傾向にあるようです。オケは改革の必要性を感じていながらも、最初からバリバリ「改革だ!」の勢いの人も、あまり好かれないからかと。
これはオケに限らずクラシック寄りの音楽業界全体に言える事です。
(ただ、保守的っぽ過ぎてもインパクトが弱いし、難しい所ではあります。)
色んな個性の方が居たり、システムがある程度構築されている業界でもあるので、「いきなりスグ」大改革なんて、大風呂敷であると見抜かれるからです。実質、無理です。ずば抜けた力を持つごく一部の人以外は、改革は時間をかけて、周囲を巻き込み徐々に出来ていくものとなるでしょう。

一番お勧めするのは、
適度なオーラで、職務に対しての「すごく前向き」さをPRした方が無難です。前向きな姿勢のその中でも、『外から見ていて「こう変わっていけば良いと思っている所がある。○○していきたい。」そうなるために、貴社の力になりたいと強く思っている』という感じのプレゼンですね。

【どのようにして合格したか】

◎私は、時期は違いますが、計2つプロオケ事務局の求人に応募し、履歴書等書類審査では落とされなかったです。
志望動機の所は、「幼い頃からクラシックが大好きで、延長上でアマチュアのオケを立ち上げ、そこでの運営に頭を悩ませた経験から、クラシック業界について深く考えるに至り、この仕事に骨を埋めるつもりで、志望しました」云々…というような事を書いていたように思います。

30歳の頃に、1回目の老舗のプロオーケストラを受験し、面接で落選。
その時は緊張で、余りちゃんとした事を答えられなかった気がします。
しかしそこのオーケストラでは「履歴書」と「職務経歴書」提出と共に、受験者に事前の「課題」提出を求められました。
その「課題」を同封し、オケ求人担当宛に書類を郵送した訳です。

その「課題」のタイトルは『オーケストラについて考えること』です。A4用紙1枚、800文字相当の課題でした。
その事が、より深くこの業界を考えるキッカケになり、次のオーケストラ求人の際、自信を持って受けられる事になりました。

2つ目のオーケストラ(現職場)を受験の時、実は私は失敗していて、〆切日ギリギリに求人に該当オケのHPで気付きました。急いで履歴書と職務経歴書を送りましたけど、間に合ったのかどうか、未だに謎です。

2つ目のオーケストラで提出を求められたのは、「履歴書」と「職務経歴書」のみです。
しかしここで私は、最初のオーケストラ面接で同封を求められた『オーケストラについて考えること』課題文の改訂版を、同封する事を思い付きます。

求められていませんが、それだけ熱意のアピールになるし、他に受験者が多い場合、他の人と同じ事をしていても、これまで音楽関係で働いた事がなく、音大卒でもない自分の経歴だと埋もれてしまうと思ったからです。

狙いは、当たりました。書類到着時に〆切は恐らく過ぎていたと思いますが、内容を見て、認めて頂く所があったのだと思います。
現職場から電話がかかって来て、明日すぐ面接来れますか?となりました。

その時、私が同封した「オーケストラについて考えること」の文章を、個人が特定される事は伏せて、下記↓に公開致しますので、こういうものを是非参考にして下されば幸いです。

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【オーケストラについて考えること】 201〇年〇月〇日
〇〇〇〇

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