
不適切なピザのこと:トーキョーエイリアンブラザーズ
ネットに放った感想が著者の方に届く、という経験をこの2年間で何度かして、だから言葉選びには気を付けないといけない、と、そらおそろしくなっているのだけど。
率直に言おう。『トーキョーエイリアンブラザーズ』、すっごく面白かった!とは言えなかった。なんだろう、少しずつ惜しい気がしたのだ。
母が作ってくれたピザに似ているかもしれない。敗因はわからないが、中途半端に生地がぶ厚くなってしまった、ピザ。我々はそいつを赤道からぎこぎこ切って、北側にはピザソースを、南側にはジャムを塗って食べた。うわものの力を持ってしても生地ののっぺりテイストは消えず、どれだけ食べても終わらないように思われた。「もう、ピザなんて作らない!」と母は言った。たしかに、おいしくはなかった。
頻繁に思い出すエピソードではない。
でも愛しいのだ。
そこが、似ている。
主人公は、宇宙人の兄弟。地球を乗っとることが可能かを偵察しに、人間の形に化けて、東京で暮らしている。
先にやってきた弟の冬ノ介は、大学生(に扮している)。モデル並みのルックスとユーモアのセンス、ちょっとした天然ぶり(実は天然ではなく地球の風習がわからないだけ)で、モテまくっている。東京の大学生として、完全に馴染んでいる。
一方の兄・夏太郎はどこまでもどんくさい。
笑顔はぎこちないわ、女の子の胸元に頭からつっこむわ、車にぶつかるわ、おい、しっかりしろ!そんなんじゃ侵略できんぞ!と、侵略される側からエールを送りたくなってしまう。
…そうなのだ。エールを送りたくなってしまうのだ。不器用な兄の「人間らしさ」に心ひかれる女の子もあらわれ、それに弟も嫉妬し(え、こっちも人間ぽくなってる?!)、うまく馴染めますように、でもそしたら地球は侵略されちゃうのかしら、って、めくるめくアンビバレント・ナイトがあなたに…
…届かない。めくるめかない。
最後に妙に歪なリズムでイベントが大放出されるのだが、この物語のほとんどは、ゆるりとした日常描写でできている。お茶飲んだり、たこ焼きパーティしたり、犬の散歩をしてみたり。
おい、ちゃんと、もっとドラマみたいな恋をしたまえよ!せっかく遠路はるばるきたんだからさあ。そんな、なんで好きなのかよくわからない女の子の、即席の好意で、懐柔されないでさあ。
ピザはちゃんとしたのが一番おいしいんだよ、適切な生地の。それは揺るがない事実なんだよ。恋愛だって、人生だってそうだよ!一番面白いのは、スラムダンクで言う試合のところなんだから!
…なんてね、ほんとは知ってるよ。疲れた夜に、疲れた頭で思い出すのは、不格好でもそもそした、あの生地の、あのピザのことなんだよね。なんでなんだろう。
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