
#11【鵞足炎】鵞足炎の詳しい評価と治療について
前回は鵞足炎についてごくごく一般的な話を書きました。
今回は鵞足炎を治療する際に重要な、力学的な評価と治療方針について書いていきます。
腸脛靭帯炎同様、鵞足炎も真の原因を見極めて治療できるようになりましょう。
1.鵞足を構成する筋の伸張評価
鵞足を構成する筋は3つあります。3つの筋のうちどの筋が最も鵞足炎の原因になっているかを評価しましょう。
3つの筋をそれぞれ個別に伸長させる方法がありますので、それで疼痛が再現されるかどうかをチェックしていきます。
この方法で原因となっている筋を同定できる場合があります。当然ですが、疼痛が再現されない場合もありますので注意しましょう。
1-1.縫工筋
患側を上にして側臥位になります。患側の膝を屈曲位のまま股関節を伸展・内転・内旋させ、そこから膝を伸展させていきます。
疼痛が再現されれば、縫工筋の伸長負荷が原因です。
1-2.薄筋
仰臥位で膝屈曲位のまま股関節を最大外転させます。そこから膝を伸展させていきます。疼痛が再現されれば、薄筋の伸長負荷が原因です。
1-3.半腱様筋
仰臥位で、膝屈曲位のまま股関節を屈曲させます。そこから膝を伸展させていきます。疼痛が再現されれば、半腱様筋の伸長負荷が原因です。
2.力学的な評価について
縫工筋・薄筋・半腱様筋は、大腿骨内側上顆の後面から回り込むようにして脛骨粗面の内側に付着しています。

ですので、これらの筋は下腿を内旋・内反方向に引っ張っているということになります。
ということは、膝関節の内旋・内反のモーメントが強くなるとこれら3つの筋への負荷が強くなり鵞足炎の発症に繋がります。内旋・内反モーメントが強くなるということは、下腿が外旋・外反方向に持っていかれているということです。
力学的な評価では、下腿の外旋や外反に繋がる要因がないかを評価していきます。今回は2つの要因を挙げています。
2-1.踵骨の内反
運動連鎖では、踵骨が内反位にあると下腿が外旋すると言われています。踵骨が内反位というのは、立位を後ろから観察した際に、踵骨の軸が地面(水平面)に対して外側に倒れているということです。
踵骨が内反すると踵骨に乗っている距骨が外旋しますので、下腿も距骨と共に外旋位になってしまい、膝の内旋モーメントを増大させる要因となります。
2-2.股関節の過度な内旋
意外と盲点になっているかもしれませんが、下腿が外旋しているというのは大腿骨との相対的な位置関係によります。ですので、下腿がまっすぐだとしても大腿骨が過度に内旋している場合、大腿骨に対して下腿は外旋していることになるので、膝の内旋モーメントが増大していることになります。
立位で膝を見た際に、膝蓋骨が内方を向いている場合、大腿骨の過度な内旋があると考えられます。「スクインティングパテラ」と呼ばれます。股関節の外旋制限などが潜んでいる可能性がありますので、股関節の評価も同時にしていきましょう。
治療方針
基本的には①鵞足を構成する筋の柔軟性・滑走性の獲得と、②内旋モーメント増大の原因となっている足首や股関節への治療の2本柱で治療を行います。
①については積極的なストレッチングと、筋の揉捻などで改善を図ります。個人的には、原因となっている筋への施術よりも、根本となっている力学的な要因を改善するほうが重要だと考えています。
足首の過度な内反については、下腿三頭筋が短縮し、背屈制限が強く出ていることが予想されます。下腿三頭筋のストレッチングも積極的に行うべきでしょう。
股関節の内旋については、外旋筋の筋力低下、もしくは股関節後面の組織の短縮がその原因として潜んでいる可能性があります。殿部の筋の筋力トレーニングやストレッチが効果的です。
以上が鵞足炎の詳しい評価と治療についてでした。
腸脛靭帯炎同様、力学的な評価を現場で実践するのは難しいです。評価の目的などをしっかり理解して、少ないチャンスを物にできるよう日頃から準備をしておきましょう。
私も頑張ります。