#34【奇経八脈】陰蹻脈の流注、生理作用、治療について。
この「整体マガジン」ですが、こっそり「鍼灸整体マガジン」に名前を変えてます。今後は鍼灸に関する内容も投稿していこうと思います。
一つ断っておきますが、私はまだ鍼灸学生の身ですのですぐに現場で使える実践的な内容にはなりにくいかと思います。
ただこのマガジンのテーマは「ヒントになる記事」ですので、それくらの記事なら書けそうだなということで書いていきます。
自分の勉強にもなるしね。
で、いきなり奇経八脈について書き始めます。正経脈について書いてもあまり面白くないしね。
同じ鍼灸学生の方も鍼灸師の先輩方もご拝読いただけると幸いです。
1.奇経八脈とは
奇経八脈とは、正経十二経脈とは別に気血津液を身体に流している経絡(ルート)という理解でいいかと思います。
高野耕造先生によれば、奇経八脈は腎の生理作用を補完しているという前提のもと考えるのが重要だということです。これは中国医学において、「奇経八脈は腎に属する」と言われているからです。
私もひとまずはこの前提のもとに考えていこうと思います。今後の長い鍼灸人生で変わってくるかもしれませんが・・・
ちなみにこの記事は、多くを高野先生の著書を参考に書いています。最後に参考文献として載せてますので、興味のある方は是非手にとって御覧ください。
情報量と値段がまったく釣り合っていないすごい本です。もちろん褒め言葉です。
2.陰蹻脈の流注と経穴
陰蹻脈は奇経八脈の一つで、「腎の別脈」と呼ばれています。その流注は足少陰腎経と類似しています。陰蹻脈に含まれる経穴は、腎経の然谷・照海・交信と膀胱系の睛明です。
然谷から始まった陰蹻脈は下肢内側の腎経ラインを通り、腹部は同様に腎経ラインを登っていって、最終的に睛明まで伸びています。
腎経とほとんど同じラインを通っているので、「腎の別脈」と呼ばれているのですが、腎経が鎖骨の辺りで終わっているのに対して陰蹻脈は目(睛明)まで伸びているというところがポイントです。
3.陰蹻脈の生理作用
陰蹻脈の生理作用を理解する前に、腎の生理作用について確認しましょう。
腎は「作強の官」とも呼ばれ、この作強というのは精神力や体力が旺盛である様子を表しています。そして腎精が充実していることが、体をたくましく保つためには重要です。
腎精が不足すると足腰が弱るというように言われているのは、まさにこの作強の働きが失われているからです。
腎がなぜ足腰と関係があるのかというと、腎の経筋は体幹部において重要な腸腰筋や傍脊柱筋、下肢内側の筋を含んでいるからです。年を取るとこれらの筋が弱り腰が曲がってくるというのは想像できますよね。まさにこれらの筋を滋養しているのが腎経というわけです。
腎の作強について確認しましたが、ここで問題があります。腎経の流注は下肢の内側を上行した後、腹部を通っていきます。腹部に経穴があるので腹部の表層を通っていることが想像されます。
しかし腎経筋である腸腰筋や傍脊柱筋は体感の奥深くを通っており、腹部の表層を通っている腎経脈がこれらの筋を滋養しているとは考えにくいのです。
そこで陰蹻脈の出番です。奇経八脈は腎の作用を保管している経脈でした。そして陰蹻脈の「蹻」という字には、足という字がついておりこれは下肢の運動に関与していると考えられます。
つまり陰蹻脈が腎経脈だけでは届かない腎経筋を滋養することで作強の働きを補完し、足腰を強くしているということです。
また陰蹻脈は「足従り目に至る」と言われています。そこから目の開閉や睡眠にも関わっていると言われています。
腎精がしっかりしていると、黒目がはっきりすると言われています(黒目には腎精が宿る)。しかしこれもやはり腎経脈は鎖骨(喉)までしか伸びていませんので、目を滋養することができません。
ではどうやって腎精を目に届けているかと言うと、やはり陰蹻脈のルートを使っているのです。さらに陰蹻脈は目から脳まで入り髄海まで滋養しています。腎が髄海と関連が強いのもこの陰蹻脈が繋がっているからというわけです。
ということで、陰蹻脈は腎経筋を滋養することで足腰を強くする作用があります。また目や脳にも繋がっていると言われており、腎精を流すルートとして陰蹻脈は作用します。
4.陰蹻脈の治療
生理作用について理解すると、陰蹻脈を使った治療もイメージできてくるのではないでしょうか。
例えば腰が曲がって足腰が弱っている高齢者などは、この陰蹻脈の働きがうまくいっていない可能性があります。老人姿勢は腎経筋の働きが弱くなっている結果だと考えると、腰を丸めたような姿勢やそこから起こる腰痛などに効果を発揮するかもしれません。
また目に力が無い方や睡眠に問題がある方も陰蹻脈への治療が効果を発揮する可能性があります。具体的には、不眠の方に陰蹻脈を使うと良いと言われています。
「陰蹻脈に気が満ちれば目をつむる」と言われており、夜の寝つきが悪いというような場合は陰蹻脈の気が不足しているのかもしれません。
取穴としては陰蹻脈の経穴である照海や交信が良いでしょう。照海は八脈交会穴ですし、交信は陰蹻脈の郄穴でもあります。
流注で考えれば睛明を同時に刺激するのも良いと考えられます。
流注のスタートとゴールを刺激することで経絡の流れを促すようなイメージでしょうか。
5.終わりに
いかがだったでしょうか。
奇経八脈なのでちょっとマニアックな話になってしまいましたが、面白いと思いませんか?
奇経八脈について学ぶことで正経十二経脈についても学べるので一石二鳥感があって勉強していて楽しいです。
残念なのは実際に患者さんに鍼を刺したりできないことですね。こればっかりは資格を取らないといけないので、今は指で押すだけで我慢します。
ちなみになぜ陰蹻脈を最初に取り上げたかと言うと、「腎経筋を滋養している」ということなので筋を狙う整体の施術にも活かせるんじゃないかと思ったからです。
今後少しずつ施術の中にこの陰蹻脈の考え方を取り入れて、治療効果にどう現れるかを見ていきたいと思います。これが楽しいんですよね。
参考図書・記事
◯高野耕造 臨床に役立つ奇経八脈の使い方 東洋学術出版社
◯伝統鍼灸一滴庵ブログ 不眠の原因を東洋医学的にどうとらえるか?その3(https://ittekian.com/blog/%E4%B8%8D%E7%9C%A0%E3%81%AE%E5%8E%9F%E5%9B%A0-3/)