#17【歩行分析】理想の歩行とは。股関節、膝関節、足関節の関係から考える。
今回の記事では歩行について考えていきます。
人間の特徴とも言える二足歩行ですが、人類が歩行を獲得して数百万年が経っていますし、人体も歩行に最適な形態的特徴を持っています。
そして人体の構造上、効率が良い歩行というのも存在します。
最適で効率の良い歩行について理解しておくことで、実際に患者さんの歩行を見たときのエラーを発見しやすくなります。
患者さんが訴える症状とリンクさせて考えることで、症状解決のヒントが見つかることもあります。
今回は歩行中に股関節、膝関節、足関節がそれぞれどのような関係にあるのかを紹介します。そして、理想的な歩行とはどのような歩行なのかを考察していきます。
1.歩行中の膝関節伸展モーメントを増加させる要因
歩行中に膝が痛いという方は一定数いらっしゃると思います。
特に膝前面部の痛みについては膝の伸展モーメントの増加がその原因となっていることが想像されます。
歩行中の伸展モーメントが増加しているということは、歩行中に膝の伸展筋力を強く発揮しているということです。当然強い筋力発揮は筋の疲労に繋がり、筋の関節を支えるという機能を低下させることに繋がります。
またジョイントバイジョイント理論では、膝関節というのはStabilityの関節ですので、本来であればあまり動かない方が良い関節です。
動かさない方が良いということは筋出力も必要最低限に留めるべきですので、膝関節の伸展モーメントはなるべく最小限に抑えることが関節の健康にとって必要になってきます。
では膝の伸展モーメントを増加させる要因は何かといいますと、それは股関節です。
立脚期の股関節伸展モーメントと膝関節伸展モーメントの両者には負の相関があると言われています。
つまり股関節の伸展モーメントが大きくなればなるほど、膝関節伸展モーメントは減少します。逆に股関節の伸展モーメントが小さくなると、膝関節伸展モーメントは増大します。
ということは、膝関節伸展モーメントの増大によって膝の痛みが出ている方は、立脚期に股関節の伸展を使うような歩行になっていない可能性があります。
ですので、膝の痛みを解消する為には股関節の伸展を使うような歩行をしなくてはならないということになります。
立脚期に股関節の伸展を使う歩行というのはどういった歩行でしょうか。
代表的な股関節伸展筋である大殿筋が最も働くのは、立脚初期の接地時です。前に出した脚の踵が地面についた瞬間に大殿筋は強く収縮し、そのまま股関節を伸展させていくことで前方への出力を生み出しています。
よく踵から地面に足をつきましょうと言われますが、これは理にかなっていると言えます。
踵から足をつく為には股関節を屈曲させ、なるべく体幹から離れた前方へ足をつかなくてはなりません(体幹の近くで踵から足をつこうとすると足関節を不自然に背屈させる必要があります)。
股関節を大きく屈曲させて足をつくということは、足をついた瞬間に股関節にかかる伸展モーメントも大きくなるとういことです。
そして股関節の伸展モーメントが大きくなるということは、膝に優しい歩行だということが言えます。
2.股関節と足関節が歩行の効率を左右する。
次に股関節屈曲筋と足関節底屈筋の関係について紹介します。
歩行中の股関節屈曲筋と足関節底屈筋にはある共通点があります。
それは立脚後期に同じタイミングで伸長された後、その後の遊脚期の前半でも同じタイミングに収縮するのです。
少しイメージしていただければ単純です。
地面をける直前の下肢の肢位は股関節伸展位+足関節背屈位になっています。つまり腸腰筋と下腿三頭筋はどちらも伸ばされているということです。
その後遊脚期には腸腰筋が収縮することで股関節を屈曲させて下肢を持ち上げます。
同時に腓腹筋も収縮し、地面を蹴り出すと同時に膝を屈曲させ下肢を地面に引きずらないようにしています。
この伸長されて収縮するという流れが重要です。
筋肉はゴムのような性質を持っていますので、瞬間的に伸ばされた後は勝手に縮むようになっています。そして伸ばされた後に縮むことで、少ないエネルギー消費で大きな出力を出せるようになるのです。
歩行の効率を考えるとこれは重要です。人は1日に何千歩と歩くので1歩にかかるエネルギーを節約することが、その後の疲労の減少に繋がってきます。
まとめますと、立脚後期に股関節屈曲筋と足関節底屈筋を伸長されるのは股関節を大きく伸展させたときです。ですので、なるべく股関節を伸展させながら歩くことが効率の良い歩行に繋がるということです。
3.理想の歩行とは。
さて、以上の事実から理想的な歩き方というのが自然と導き出されます。
それは「大股で歩く」ということです。
なるべく足を前に振り出すことで、立脚期の股関節伸展モーメントを大きくすることができます。こうすることで膝関節伸展モーメントが低下しますので、膝前面へのストレスを減少させることができます。
そして今度は、前に出した下肢の股関節を大きく伸展させます。つまりなるべく体幹よりも後方で地面を蹴るということです。こうすることで、腸腰筋と腓腹筋を収縮させるエネルギーを最小限に抑えることができ、効率の良い歩行になります。
このように、大股で歩くことで膝へのストレスを減らすとともに効率の良い歩行が可能になります。これは言い換えると股関節と足関節を大きく動かした歩行とも言えます。ジョイントバイジョイント理論では股関節と足関節はmobility関節ですので、理にかなっていると言えます。
最後に臨床にも応用できそうな視点として、股関節と足関節の関係もトレードオフになっているということがあります。
股関節伸展モーメントと膝関節伸展モーメントには負の相関があるという話はしましたが、実は立脚後期〜遊脚期の股関節屈曲筋と足関節底屈筋にも負の相関があると言われています。
つまり、股関節の屈曲筋が収縮できていないときは、足関節の底屈筋の筋出力が増大するということです(逆のことも当然考えられます)。
これは下腿への施術をする際に、重要な視点だと思っています。
股関節の伸展可動域が減少している方は少なくありません。下腿への負荷が強くなっているような方は股関節の伸展制限が潜んでいる可能性もありますので、そちらを改善することで下腿への負荷を減少させることができるかもしれません。
是非施術する際の視点として一つ持っておいていただけるといいかと思います。
今回は理想的な歩行について紹介しました。
文字だらけで読みにくかったかもしれませんが、正しく理解すれば施術する際のヒントになることがたくさんあると思います。是非何度も読み返して理解に努めてください。
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参考文献
建内宏重(2020)股関節 協調と分散から捉える ヒューマン・プレス