
邦楽アルバムランキングに再び性懲りもなく参加してみました:コンピレーション/サウンドトラック30枚【前編:30位〜21位】
皆様、こんにちは。
普段は本家ブログ(TECHNOLOGY POPS π3.14)にてアルバムに特化したレビュー記事を更新しながら、何か特集めいた集中記事を書く場合にこちらの別邸を利用しているわけですが、このたびX上ではJMXさん(@JmxMbp)が「邦楽アルバムランキング2024」なる企画を立ち上げられまして、以前にも80年代アルバムランキングには参加したことがあるのですが、興味本位で再び性懲りもなく参加させていただきました次第でございます。
しかしながら今回はこの企画に気づいたのが、日々の業務に忙殺されていた中で応募締め切りまで残り2日という状況でしたので、そこから選盤していくのは不可能に近く、いい加減に選んでももったいな企画でもありましたので、そのままスルーしようかと思ったのですが、今回は邦楽に限定されているというのと、ベストアルバムやコンピレーション、劇伴(サウンドトラック)等も可ということでしたので、思い切ってそこに全振りしてやろうと思いまして、今回の選盤の基準とさせていただきました。こういった企画は投票制ではございますが、その投票に影響するような作品を選ぶ気持ちはさらさらありませんし、そもそもそういう音楽の聴き方をしておりませんので、そのあたりは投票された若い方々にお任せするといたしまして、今回は時間もないことですし自信が影響を受けた、そしてこれは素晴らしいなぁと思ったコンピレーションとイメージアルバムやサウンドトラックに的を絞りました。本家ブログではアルバム単体のレビューしかしませんし、実はこういったコンピレーション作品をレビューする機会もほとんどありませんでしたので、こういうのも良いのではないかと考えた次第です。
実際のところ、コンピレーション作品は「新しい何か」を発見するためには欠かせないツールでもありました。コンピレーションに参加していた見知らぬアーティストの作品を片っ端から掘っていくという作業も楽しいものです。実際昔はこのようにしてリスナーとしての知識の幅を広げていったものなのです。そのような意味でコンピレーション作品を今一度振り返ってみることは、実は当初考えていた以上に意味のあることなのではないかと思っています。
そのようなわけで30枚選定したというわけですが、毎回のようで恐縮ですが、やはり何か選定理由的なものを残しておこうと思いまして(今回は個人的な好みとしての理由が多いと思いますが)。これもまた性懲りも無くレビューを書くわけです。そして今度こそ(皆さんはそろそろ信用していないとは思いますが)それほど長文にするつもりはなく、あっさりと述べていきたいと思いますので、気軽にお付き合いください。なお、10枚ずつの前編・中編・後編の3回シリーズの予定です。
30位:TECHNO 4 POP VOL.1/V.A. (2005)

1.「スタートレック」YOKO
詞:YOKO・Zunba 曲:Zunba
2.「グリコーゲン」パノラマ迎賓館
詞・曲:山下フミアキ
メンバー:ないす・山下フミアキ・まじ姉
3.「ファイヤーボウイ」ケロッグ兄弟
詞・曲:キャップ
キャップ:vocal・vocoder・synthesizer・electronics
MJ:synthesizer・electronics
リーダー:bass・synthesizer
4.「Plastic Love」HAAP
詞・曲:Masatoshi Iizuka
5.「I'm Only Techno-Pop 2005」テクマ!
詞・曲:テクマ!
テクマ!:vocal・programming
吉田ハヂメ (panicsmile):guitar
6.「のらくろ」フロッタージュ
詞・曲:渡辺靖文
渡辺靖文:vocal・programming・guitar
7.「かいじゅーのうた」pLumsonic!
詞:結羽 曲・編:yasushi+k
結羽:vocal
yasushi+k:all instruments
8.「MAGAZINE」ハニー・マニー
詞:サワダユキコ 曲:カトウミキオ
サワダユキコ:vocal
ナカムラシゲル:drums
9.「Voice Ripper」サイトーン
曲:サイトーン
10.「トーキョータワー」CYBORG'80s
詞・曲:CYBORG'80s
メンバー:Zunba・Oil・まんぺい・OTA 他多数在籍
Zunba:vocal・programming
Oil:guitar・drums
11.「Time and Place」A.C.E.
曲:田島隆・安井献 編:A.C.E.
メンバー:田島隆・安井献
12.「Realworld Ambitions」technoboys
詞:zoe 曲:石川智久 編:technoboys
メンバー:藤村亨・石川智久・松井洋平・持月ヒロミ
13.「飛び出せ恋人」ジーニアス
詞・曲:朝日太一
14.「お兄さんといっしょ」ホモンズ
詞・曲:山口タケモ 編:ホモンズ
ペナっち:vocal・chorus
タケもん:vocal・system
15.「NECROMANCER」ゆうぷんおう
詞・曲:ゆうぷんおう(堀口勇士)
16.「クエスッチョンマーク」Zunba
詞・曲:Zunba
1990年代はテクノポップ冬の時代と言われておりますが、その分アンダーグラウンドではひっそりとテクノポップを志向するインディーズムーブメントが存在していたのも事実です。そんな不遇な時代を乗り越えて1998年のオムニバス「TOKYO NEWWAVE OF NEWWAVE '98」(POLYSICSやSPOOZYS、MOTOCOMPO、CHICAGO BASS、SKYFISHER、audipopoが参加)が話題を呼び、90年代末にはPOLYSICSに代表されるニューウェーブ志向のバンドが注目されるようになります。このムーブメントは80年代初頭の伝説のニューウェーブの祭典「DRIVE TO 80's」のミレニアム版「DRIVE TO 2000」に結実していくわけですが、2000年代に突入するとcapsuleの中田ヤスタカに代表されるポスト渋谷系的エレクトロポップ勢が勃興し始め、中田のcontemodeレーベルやSonic Coaster Popの鈴木アキラが主宰するUSAGI-CHANG RECORDSが2002年にリリースしたオムニバス「ウサギチャンスーパースター!!vol.0001」(Sonic Coaster Pop、Plus-tech Squeeze Box、EeL、Misswonda & Automatic Supper、MOTOCOMPO、Cyborg'80s feat. petits pois、ミクロマッハマシーン、PINE*am、エイプリルズ、Sylvia 55、Mac Donald Duck Eclair、our hourが参加)等が00年代前半のテクノポップ界隈を彩っていました。
かたやナムコのゲームサウンドクリエイターとして勤務していた細江慎治を中心となり同人活動を行っていたトルバドールレコードの後継として、細江が2000年に独立して設立した制作会社・スーパースウィープ内に立ち上げたSweepRecordはさらにアンダーグラウンドなテクノポップシーンを応援すべく、細江はスーパースウィープに参画していた元宇宙ヤングのZunba Kobayashi(小林和博)をプロデューサーとするテクノポップ専門レーベルとして、2004年にTECHNO 4 POPを創設することになるわけです。その第1弾となるのが本作となります。
収録アーティストは、Zunba Kobayashi本人のソロと彼のプロデュースによる
女性シンガーYOKO、そして彼の当時のリーダーズバンドCYBORG 80s'、山下総合病院のスピンオフユニット・パノラマ迎賓館、B-2 DEP'Tの派生ユニット・ハニーマニー、現在もなお電脳マニアックス→超電子COMPLEX等のイベントでテクノポップシーンを牽引するpLumsonic!、HAAPやサイトーン、ゆうぷんおうといった宅録テクノソロアーティスト、ケロッグ兄弟・フロッタージュ・ホモンズといった怪しいユニット勢、テクマ!やジーニアスといったテクノポップパフォーマンスシンガーに、大阪から参加の80年代から活動する大ベテランA.C.E.に90年代から雌伏の時を過ごしていたtechnoboys(後のTECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND)の面々。Zunba関連の3曲は、彼の1999年の名盤「TECHNO THE FUTURE」を彷彿とさせる情緒豊かなスペイシーポップに、CYBORG 80s'の「トーキョータワー」は硬派路線に転換した2ndアルバム「Rock'n Roll for Man-Machine」からの収録。貴重といえばテクマ!の「I'm Only Techno-Pop 2005」は数ある「I'm Only Techno-Pop」バージョンの中でも最近サブスク解禁された
音源にも収録されていない本作だけのバージョン。ジーニアスは公式に音源をリリースしていないので、チープで粋なイントロが魅力的な「飛び出せ恋人」の収録は彼の個性を世に知らしめる上で良い機会になったと思われます。technoboysは翌年にはグループ名をTECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDに改名して、1stアルバム「Music Laundering」をリリースしますが、本作収録の「Realworld Ambitions」はそれらとはまた異なるアプローチの作風で、2010年代に全面的に打ち出すことになる彼らが強い影響下にあるYMO的なサウンドデザイン、特に坂本的な空気感を醸し出しています。
その他の収録曲も説明すればキリがないので割愛させていただきますが、当時の知られざるテクノポップシーンで地道に活動していたアーティストやグループが多数収録されていたのがこの「TECHNO 4 POP」オムニバスシリーズでこのシリーズはVol.4まで続き、女性シンガーモノを集めた企画盤「萌えテクノぽっぷぅ」(このネーミングがオタク界隈出自なSweepRecord傘下らしいところではありますが)を含めて2006年までの2年間で5枚というハイペースでリリースされましたが(その5枚にはnormal pop?やオーラルヴァンパイア、invisible Future、トロピカル大臣、QUIET VILLAGE、BREMEN、ぽらぽら。、装置メガネ、
SKYFISHER、最も成功した部類と思われるアーバンギャルド等が収録)、この凄まじい勢いが長く続くはずはなくその後のリリースは止まってしまいました。奇しくも2006年は中田ヤスタカが全霊をかけてプロデュースを始めたアイドルグループPerfumeのメジャーデビュー年であり、以降テクノポップという単語はしばらくの間Perfumeのような楽曲を形容する言葉として印象づけられていくことになります。
29位:DEMO TAPE 1 坂本龍一・矢野顕子プロデュース/V.A. (1986)

1.「両眼微笑(サウンドストリート・テーマ曲)」坂本龍一
曲・編:坂本龍一
2.「モンゴロイドが来るぞ!」OSTRACISM CO.
詞・曲:米木武
3.「かしくれロックンロール」堀健と高橋幸彦
詞・曲:高橋幸彦
4.「TELEPHONE SINGER」鈴木司
詞・曲:鈴木司
5.「ヒンドゥー語ラップ「チベタン・ダンス」」浅野智子
曲:坂本龍一
6.「Womb」小沢邦彦
詞・曲:小沢邦彦
7.「SISTER COMPLEX」藤渓優子
詞:太田春一 曲:藤渓優子
8.「GIAPPONE」岡元清郎
曲・編:岡元清郎
9.「ぼうが一本あったとさ」箕田郎子(みこと)
詞:不明 曲:坂本龍一
10.「HI, HI, HI」松田公美子
詞・曲:矢野顕子
11.「OLD GOOD DAY'S WORKERS」鄭東和
曲・編:鄭東和
12.「ああ最後の日本兵 横井庄一さん」三村美智子
曲・編:坂本龍一
13.「こんなのはもー」SEMO
詞:SEMO 曲:高橋幸彦
メンバー:高橋幸彦・小野政幸・荒井慶太・今井丈夫・真実一郎
14.「だれにもあげない」三上直子と京田佳永
詞:三上直子・京田佳永 曲:三上直子
15.「福岡市ゴジラ」少年刑事ケンイチくんと青島博士とカクテル長官
詞:大鶴健次・砥上正信・河内厚典 曲:伊福部昭
16.「MARBLE WATER」岡元清郎
曲・編:岡元清郎
17.「逆さ戦メリ」佐々木朋子
18.「チャイムの歌」野村達士
19.「さよなら」佐々木朋子
詞・曲:佐々木朋子
20.「はい、いいえ(Yes,No)」REVOLUTION BAND
詞・曲:小田和正
メンバー:笠井奈津子・日野雅子・高橋伸子
21.「うさぎとかめ」ドナルド
詞:石原和三郎 曲:納所弁次郎
22.「CRY」鄭東和
曲・編:鄭東和
23.「HALF」C.M.C.
詞・曲:槙原範之
槙原範之:vocal
沢田和久:recording・mix
24.「開演の辞」植村敏孝と42人の瞳
25.「両眼微笑」坂本龍一
曲・編:坂本龍一
NHK-FMで1978年から放送されていた音楽番組「サウンドストリート」の火曜日パーソナリティーを1981年4月〜1986年3月まで担当していたのが坂本龍一でした。まさにYMOブーム余波の時代からYMO散開→MIDIレコード設立に至る激動期にあたり、坂本にとって情報発信とファンとの交流という意味において、このサウンドストリートは良い息抜きとなっていたのかもしれません。そして、このサウンドストリート火曜日の目玉コーナーだったのが、リスナーから投稿された多重録音(宅録)音源を紹介する「デモテープ特集」でした。これは、当時の坂本の
主戦場であったテクノポップという立場だからこそ成立し得たコーナーで、ちょっとしたアイデアによるコミカルなアプローチによる楽曲やそれを具現化するための録音遊び、シンセサイザーや簡易的なシーケンサーを駆使した自動演奏、これらがアマチュアリズム溢れる楽曲からプロも唸るほどのクオリティが高い作品まで玉石混交に紹介されるわけで、それらを当時を煌めく坂本龍一が批評するという貴重な場ということもあり、非常に人気を博したのでした。本作はこのデモテープ特集において特に人気を誇った楽曲を抜粋して集めた記念碑的オムニバスです。
当時のこのデモテープ特集には現在も活躍する多くのアーティスト達が投稿していました。特に有名なのがソロワークのほかDee-LiteやMETAFIVE等で活躍しているテイトウワ(投稿名:鄭東和)、紆余曲折を経ながらも数々の名曲が色褪せない槇原敬之(投稿名:槙原範之)で、彼らの楽曲は本作にしっかり収録されています。そのほかポストYMOと期待されたJULLANや、鈴木惣一朗率いるWorld Standard、インディーズ男女デュオ時代のヴァリエテも本コーナーの投稿者でしたが、彼らは本作品リリースの際には既に別のレコード会社でメジャーデビューを果たしており、権利関係のため収録されなかったと推測します。
さて、本コーナーといえばテイトウワと並んでアイドル的存在だったのは、クローン坂本(と個人的に名づけていますが)こと岡元清郎でした。一聴してひと味違ういかにも坂本式なオリエンタリズム溢れるProphet音色満載のテクノフレイバーは、当時10代ということもあり衝撃的でした(あくまで当時の楽器クオリティ&録音環境という意味においてです。現在のようにDTMやDAWで何でも表現できる環境とは時代と状況が異なるのです)。特に「MARBLE WATER」は本作品のハイライトと言って良いでしょう。テイトウワの2曲も「OLD GOOD DAY'S WORKERS」は後にB-2DEP'T「Filter」の中でその印象的なフレーズがサンプリングされていますし、「CRY」はアマチュアながらいち早くサンプラーを導入し矢野顕子の声をサンプリング活用した楽曲。当時から演奏というより音楽的センスに長けていることが確認できます。槇原敬之は当時高校生(大阪府立春日丘高校←余談ですが筆者の母の母校ですw)で、トリッキーなデモが多く収録されている本作の中で、真っ当なシティポップ歌謡で攻める潔さと隠しきれないポップネスが本作で評価されたことが、その後のシンガーソングライター人生へと向かう大きな糧となったことでしょう。
しかし、坂本はどちらかというと上記のようなプロフェッショナルな楽曲よりも「モンゴロイドが来るぞ!」「福岡市ゴジラ」のようないかにもアマチュアな楽しさが滲み出る録音デモを好んでいたようで、そのような作品群が大半を占めているのが本作の最大の特徴でもあります。テクノポップ→多重録音を通して音楽の楽しさを味わえる若者達が増えていくことに対して、そしてその一翼を担う使命に対して、坂本自身が最も楽しんでいたのかもしれません。
結局坂本龍一のサウンドストリートは1986年3月に終了しますが、デモテープ特集は、後任のPSY・S松浦雅也に引き継がれていきます。しかし、松浦も興味深い試み(月間マンスリーソング等)を進めながらも、サウンドストリート自体が1987年3月で終了してしまいました。一方坂本は、2003年からJ-WAVEで放送開始した「RADIO SAKAMOTO」においてデモテープ募集を復活させ、2004年には
優秀作品を集めたオムニバス「DOCUMÉNTO」をリリース、コトリンゴ(未収録)やトベタ・バジュン等が巣立っていくことになります。
28位:Sound & Recording Magazine Presents TOKYO INDEPENDENT STUDIOS/V.A. (1996)

1.「Dark Star」AVEC / THE GREATEST HITS STUDIO
曲:中山努 編:成田真樹 Mix & Recording:加藤博実
戸島智武:guitar
2.「MUSIC for YUKIHIRO TAKAHASHI COLLECTION THE TIE」
岸利至with LPS / CONSIPIO STUDIO
曲・編:岸利至 Mix:谷明巳 Recording:遠山勉
produce:高橋幸宏
3.「To Be Witched」Out to Lunch / Rinky Dink Studio
曲・編:冨田恵一 Mix:松田龍太 Recording:角田敦
冨田恵一:instruments・vocals・treatments
角田敦:bass
田沢聡:voices
4.「GEMA」PRISMÁTICA / SHALOM SAMUEL STUDIO
詞・曲:CAETANO VELOSO 編:村山光国・Takayuki Hokari
Mix & Recording:横山稔
5.「ARAGSTA」GALALA / OR STUDIO
詞:Jully.K 曲・編:Hideki Mix & Recording:GALALA
Jully.K:voices
Hideki:everything but the voices
6.「THE FALL」Sankichi Kunugiyama / STUDIO Ton Meistar
曲・編:淡海悟郎 Mix & Recording:三角和彦
SONSHY:skin head & voice
ZAZA:rap
7.「密林」Goddess in the Morning / MAGNET STUDIO
詞・曲・編:松林正志・新居昭乃・柚楽弥衣
Mix & Recording:松林正志
新居昭乃:vocal
柚楽弥衣:vocal
須貝直人:drums
松林正志:other instruments
8.「HERBAL PLANET」CMJK / WHITEBASE STUDIO
曲・編:CMJK Mix & Recording:CMJK
9.「SAKURA」NET3 / THINK SYNC STUDIO
曲:妹尾武 編:佐藤清喜 Mix:寺田康彦 Recording:高原裕介
田尻光隆:orchestration
妹尾武:piano
佐藤清喜:other instruments
Lynne Hobday:voice
1981年の発刊から現在に至るまで、音響・録音技術者のバイブルとして刊行し続けているリットーミュージック発行の月刊誌「サウンド&レコーディングマガジン」(通称サンレコ)。録音機材に特化した専門的な特集記事と、他の音楽雑誌では到底読むことのできない音楽制作手法に振り切ったインタビュー記事が含まれる稀有なこの雑誌は、いつの時代においても重要な資料的価値を提示してくれています。
そんな本誌1996年6月号の特集記事が「TOKYO INDEPENDENT STUDIOS」。東京に所在している数あるレコーディングスタジオの中からYMOやソフトバレエなど主にアルファレコード所属バンドのエンジニアを担当してきた寺田康彦監修のもとピックアップし、各スタジオから持ち寄られた楽曲を通して、エンジニアとミュージシャンの共同作業に思いを馳せてほしいという意図から企画されたものです。Pizzicato FiveやORIGINAL LOVEの作品を生み出したTHE GREATEST HITS STUDIOや、高橋幸宏が山本耀司と共にプロデュースしたCONSIPIO STUDIO、寺田康彦の当時新たな本拠地として設立したTHINK SYNC STUDIOは言わずもがなですが、ZABADAKやHi-Posiの作品を手掛けたMAGNET STUDIO、CUTEMENやCONFUSIONで活躍していたCMJKのプライベートスタジオであるWHITEBASE STUDIO、Watusiこと角田敦がnice musicやTANGOSを手掛けたプライベートスタジオ・Rinky Dink Studioなど、その他も個性的なスタジオが紹介されており、それぞれのカラーが浮き出た楽曲が提供されました。そしてその楽曲集がCDとなってリリースされるというのも、CD全盛時代であった90年代ならではと言えるでしょう。
本作において注目すべき楽曲が2つあります。まず1つはRinky Dink Studioが提供したOut to Lunch「To Be Witched」です。Out to Lunchとはスタジオオーナーの角田敦とKEDGE解散後アレンジャーとして活動を始めていた冨田恵一にヴォーカリストの田沢聡が加わったモンドミュージックユニットで、Elizabeth Montgomeryに捧げた架空のサウンドトラックとのテーマで、見事な打ち込みオーケストレーションを中心としたサウンドを披露しています。印象的なテルミンのサウンドもウェーブテーブルシンセサイザーWaldorf MicrowaveとシーケンスソフトStudio Visionを駆使して音色を創り上げ、弦楽器や管楽器もサンプラーで取り込んで左右に振り分けるといった細かい作業は、まさに冨田恵一の後年のキリンジにおけるサウンドプロデュースの手法であり、nice music「POP RATIO」や遊佐未森「アカシア」でのアレンジでしか聴けないOut to Lunchの音源としても非常に貴重な音源としての資料的価値があります。
2つ目はラストを飾るTHINK SYNC STUDIO、NET3「SAKURA 」です。NET3とは寺田康彦が立ち上げたTHINK SYNC RECORDSに所属する若手アーティスト3人による特別ユニットで、東京芸大出身のコンポーザーで後に村上ユカのサウンドプロデュースを手掛け、映画「ウォーターボーイズ」等の劇伴やCMを多数手掛けた田尻光隆、サンレコ内の細野晴臣監修オーディションで優秀作に選ばれコンピレーションアルバム「ecole」にも楽曲が収録されたことをきっかけにピアニストSenooとして数々の作品を残すことになる妹尾武、そして言わずと知れたnice musicの片割れでありmicrostarのポップマエストロとして、そしてサウンドプロデューサー&エンジニアとして既に大御所の風格を備えた佐藤清喜の合作により制作されたのがこの8分に及ぶ大作「SAKURA」となります。妹尾による美しいメロディラインを、テクノなプログラミングによるシンセサウンドで佐藤が料理し、田尻お得意のオーケストレーションで絶妙なスパイスを加えたこの日本情緒あふれるインストゥルメンタルは、本作のラストを飾るに相応しい親しみやすくもスケールの大きなニューエイジソングに仕上がっています。
もちろんその他の楽曲も優れものばかりで、特に既にアルバムデビューが決まっていたエンジニア松林正志にヴォーカリスト新居昭乃&柚楽弥衣のレジェンドユニットGoddess in the Morningの楽曲や、コンポーザー淡海悟郎による和洋折衷宗教ごった煮ミュージックコンクレートな「THE FALL」といった興味深い楽曲も収録され、90年代中期当時のスタジオ録音の熱量が記録された貴重な資料集として本作は記憶に残したいと思います。
27位:ファンシィダンス@雲遊歌舞/V.A. (1988)

【煩悩SIDE】
1.「Fancy Dance」赤城忠治
詞:岡野玲子 訳詞:Evelyn Bennu 曲:赤城忠治
編:赤城忠治・米田克哉
赤城忠治:vocal
根津洋志:electric guitar
中原信雄:bass
鈴木さえ子:SDX drums
米田克哉:keyboards
Evelyn Bennu:chorus
土岐幸男:computer programming
2.「Tëte á tëte」バカボン鈴木
詞:サエキけんぞう 曲:バカボン鈴木 編:沖山優司
バカボン鈴木:vocal
岡田陽助:electric guitar
沖山優司:bass
古田たかし:drums
朝本浩文:keyboards
Evelyn Bennu:chorus
美島豊明:computer programming・synthesizer operation
3.「Coup de Grace」鴻上尚史
詞:岡野玲子 曲・編:BAnaNA
鴻上尚史:vocal
RA:electric guitar
BAnaNA:synthesizer・chorus
美島豊明:computer programming・synthesizer operation
4.「Cada Tortuga con su Pareja」伊武雅刀
詞:手塚眞 曲:OTO 編:成田忍
伊武雅刀:vocal
成田忍:electric guitar・keyboards・chorus
沖山優司:bass
寺谷誠一:drums
大内美貴子:chorus
Evelyn Bennu:French voice
清野史郎:Spanish voice
美島豊明:computer programming・synthesizer operation
5.「Mercury Impulse」赤城忠治
詞:岡野玲子 訳詞:Evelyn Bennu 曲:赤城忠治
編:赤城忠治・米田克哉
赤城忠治:vocal・acoustic guitar
根津洋志:electric guitar
中原信雄:bass
鈴木さえ子:SDX drums
米田克哉:keyboards
やの雪:chorus
土屋昌巳:voice
土岐幸男:computer programming
【修行SIDE】
6.「閒名謝滅之境」仙波清彦
曲:仙波清彦 編:仙波清彦・久米大作
仙波清彦:percussion・wind synthesizer・タルカ・ゴビシャントラ
久米大作:keyboards
瀬川英史:computer programming・synthesizer operation
7.「轉相牽入火坑」ケラリーノ・サンドロヴィッチ
詞:岡野玲子 曲:仙波清彦 編:仙波清彦・久米大作
ケラリーノ・サンドロヴィッチ:vocal
仙波清彦:percussion・タルカ・ゴビシャントラ
久米大作:keyboards
勝善:voice
高明:voice
森本レオ:narration
瀬川英史:computer programming・synthesizer operation
8.「瞖人見空中華」中沢新一
曲・編:Phonogenix
中沢新一:vocal・ダマル・カンリン
津田治彦:electric guitar・chorus
花本彰:keyboards・chorus
手塚眞:chorus
辻伸夫:synthesizer operation
大山曜:computer programming
9.「百尺竿頭進歩十方世界全身」ケラリーノ・サンドロヴィッチ
詞:中沢新一・岡野玲子・手塚眞 曲:Phonogenix 編:成田忍
ケラリーノ・サンドロヴィッチ:vocal
岡野玲子:漢詩朗読
成田忍:electric guitar・keyboards・chorus
沖山優司:bass
寺谷誠一:drums
大内美貴子:chorus
美島豊明:computer programming・synthesizer operation
10.「踏破澄潬月穿開落天」清田益章
詞:手塚眞 曲・編:橋本一子
清田益章:vocal
大内哲也:electric guitar
藤本敦夫:bass
橋本一子:chorus・acoustic piano・keyboards
Ma*To:computer programming・synthesizer operation
1980年代の特徴的なポピュラー音楽文化として漫画やアニメ、ライトノベルの世界観をサウンドトラックではなくイメージソングとして表現するイメージアルバムという作品形態があったことを覚えておられる方も多いかと思います。特にビクターのファンタジックワールドシリーズが有名ですが、それ以外にも多くの作品が世界観の音楽という手法でイメージを膨らませるための一助として、イメージアルバムが量産されていました。
1984年から1990年まで少女漫画雑誌「プチフラワー」で連載されていた、岡野玲子原作の漫画「ファンシイダンス」は、後に本木雅弘主演で実写映画化されるなど、話題を呼んだ人気作品です。ロックバンドのヴォーカルであるとともに寺の跡取り息子であった主人公が、禅寺で修行生活を送る・・というあらすじのこの漫画も、キングレコードよりイメージアルバムが制作されることになりました。この作品のプロデューサーを任されたのが、近田春夫原案・音楽によって制作された劇場映画「星くず兄弟の伝説」で監督デビューを果たした、手塚治虫の息子としても知られる手塚眞です。「星くず兄弟の伝説」は近田人脈によるニューウェーブ界隈のミュージシャンが多数アクターとして参加したことでも有名ですが、その流れからか手塚本人も本作の制作を前後してパール兄弟のMVを手がけたり、彼らのバックダンサーとしてラッキィ池田と共にリーマンズに参加するほど界隈にどっぷり浸かっていたということもあり、本作でもニューウェーブ界隈のミュージシャンやアクターや文化人?達が多数参加し、豪華メンバーが好き勝手にコラボした興味深いアルバムにしつらえています。
さて、本作は原作の性格と合わせて【煩悩SIDE】と【修行SIDE】に分けて楽曲が配置されており、前者は欧州言語、後者は仏教言語のタイトルが冠され、完全に色分けされています。タイトル曲「Fancy Dance」と「Mercury Impulse」は元フィルムスの赤城忠治歌唱。赤城は「星くず兄弟の伝説」にも出演している縁もあるでしょうが、ほぼ当時の彼のバンドCLEVER RABBITに元フィルムスの面々が参加している貴重な音源を収録しています。パール兄弟のバカボン鈴木が歌うスカビート「Tëte á tëte」は半分ジューシィフルーツの演奏ですが、空気感はほぼパール兄弟です。劇団「第三舞台」座長であるが歌う鴻上尚史が歌う「Coup de Grace」は本作の中でも最もトリッキーな楽曲で、それもそのはずBAnaNA作編曲にギターがRAですから、原マスミSETともいうべき不思議ニューウェーブな仕上がりです。成田忍に沖山優司と寺谷誠一が加わった新生URBAN DANCEが2曲に参加しているのも注目です。伊武雅刀が能天気に歌うラテン風味の「Cada Tortuga con su Pareja」は作曲がじゃがたらのOTOなのでそのカラーが強いのですが、成田ギターのストロークも心地よく刻んでいます。もう1曲「百尺竿頭進歩十方世界全身」は、有頂天のケラではなく劇団ナイロン100%のケラリーノ・サンドロヴィッチとして歌う壮大なプログレ風味楽曲。それもそのはず作曲はジャパニーズプログレの雄・新月のメンバーであったPhonogenixで、両楽曲とも期待されたほどURBAN DANCE色は薄いといった印象です。このPhonogenixは当時はニューウェーブ色豊かなサウンドを志向していた時期で、文化人類学者の中沢新一をメインに据えた「瞖人見空中華」でその鮮烈なサウンドの片鱗を披露しています。なお、【修行SIDE】では、この手のシチュエーションには欠かせない和楽器マエストロ仙波清彦&久米大作による、はにわちゃんSETで「閒名謝滅之境」とケラリーノ・サンドロヴィッチの意図した音痴風読経ヴォーカル「轉相牽入火坑」の2曲を手掛け、特に後者では森本レオがナレーションで参加する自由度の高い楽曲に仕上げています。そしてラストは超能力少年として瞬間的な有名人であったエスパー清田こと清田益章歌唱の「踏破澄潬月穿開落天」。橋本一子作編曲ですがこちらもほぼCOLORED MUSICです。ピアノ+電子音響といった趣のバラードソングで本作は締められます。
このようにポストニューウェーブ〜デジタルエイジ世代(いわゆるTECHII世代)にとっては垂涎のアルバムであることには間違いはありませんので、1988年という時代背景も考えますと資料的価値は十分にあると思っていました(なお、余談ですが本作のプロデューサー手塚眞は原作者岡野玲子と夫婦関係に至ります)。思ってはいたのですが、なんと2021年にまさかのデラックスエディションとしての再発されています。貴重なデモ音源や赤城忠治の新曲も収録されていますので、ご興味のある方は是非お求めください。
26位:オネアミスの翼 -王立宇宙軍- オリジナル・サウンド・トラック/坂本龍一・窪田晴男・野見祐二・上野耕路 (1987)

1.「メイン・テーマ」
曲・編:坂本龍一
坂本龍一:all instruments
2.「リイクニのテーマ」
曲・編:坂本龍一
坂本龍一:all instruments
旭孝:flute
星野正:clarinet
3.「国防総省」
曲・編:坂本龍一
坂本龍一:all instruments
4.「喧騒」
曲・編:坂本龍一
坂本龍一:all instruments
平野義子:acoustic piano
5.「無駄」
曲:坂本龍一 編:窪田晴男
窪田晴男:all instruments
6.「歌曲「アニャモ」」
詞:森谷美月 曲・編:野見祐二
森谷美月:soprano vocal
野見祐二:all instruments
7.「グノォム博士の葬式」
曲・編:上野耕路
上野耕路:all instruments
8.「聖なるリイクニ」
曲:坂本龍一 編:野見祐二
野見祐二:all instruments
9.「遠雷」
曲・編:上野耕路
上野耕路:all instruments
10.「シロツグの決意」
曲・編:窪田晴男
窪田晴男:all instruments
11.「最終段階」
曲・編:野見祐二
野見祐二:all instruments
12.「戦争」
曲:窪田晴男 編:窪田晴男・上野耕路
窪田晴男:guitar・all instruments
矢代恒彦:keyboards
上野耕路:strings arrangement
13.「離床」
曲:坂本龍一・上野耕路 編:上野耕路
上野耕路:all instruments
14.「OUT TO SPACE」
曲・編:坂本龍一
坂本龍一:all instruments
15.「FADE」
曲・編:坂本龍一
坂本龍一:all instruments
清水靖晃:sax
”地球とよく似た架空の惑星にあるオネアミス王国を舞台に、王立宇宙軍の士官シロツグが史上初の宇宙飛行士に志願し、仲間とともにロケット打ち上げを目指すというファンタジー・SF作品”(Wikipediaより抜粋)・・・という何とも言えないストーリーの劇場アニメーションが注目されたのは、企画原案が大阪芸術大学出身のアマチュアアニメ・特撮映像制作集団「DAIKON FILM」によるものであったためと言えるでしょう。当時20代半ばの若者であった山賀博之・庵野秀明・貞本義行ら主要メンバーはこの企画をきっかけにアニメ制作会社GAINAXを設立し、バンダイの強力なバックアップを受けて、プロとしての実績も皆無な中で本作を制作していくわけですが、その作画クオリティの高さと共に話題を呼んだのが、音楽監督への坂本龍一の起用でした。映画音楽としては自ら出演して話題となった大島渚監督の1983年作品「戦場のメリークリスマス」という実績がありますが、アニメーション作品の劇伴は初めてであり、この大胆なオファーだけでもGAINAXの本作に賭ける意気込みが感じられるわけです。
とはいうものの本作制作当時の1986年といえば坂本自身の音楽活動のみならず、1984年に矢野顕子らと設立したMIDIレコードの大黒柱としての活躍を一手に担っていたこともあり超多忙な時期ということで、全編のサウンドトラックを担当するというわけには当然いかなかったわけで、ほぼ同時期に音楽監督を依頼された畑正憲監督の映画「子猫物語」では、メインテーマのモチーフなどの背骨を提示したうえで、細かな作業はゲルニカの上野耕路、おしゃれテレビの野見祐二、ショコラータの渡辺蕗子といった若手実力派にお任せするという分業制で進められていました。そしてこの「オネアミスの翼」でもこの分業制が採用されることになります。
まず坂本は「メインテーマ」ほか4つのモチーフを元にしたプロトタイプが提示されました。これらは「オネアミスの翼<イメージ・スケッチ>」として1986年にリリースされました。
そして、そのプロトタイプを元に「子猫物語」と同様に若手作曲家達が装飾するかのようにオリジナル楽曲と共に色付けしていくという手法がとられています。「子猫物語」にも参加したクラシックの素養がありニューウェーブ的な感覚を持ち合わせている稀有なコンポーザー・上野耕路と、打ち込みによるオーケストレーションシミュレートに抜群のセンスを感じさせ、坂本龍一の薫陶を受ける駆け出しの作編曲家・野見祐二、そして坂本龍一の1986年リリースソロアルバム「未来派野郎」のレコーディングに参加したパール兄弟のギタリスト窪田晴男の3名が抜擢され、それぞれの得意とする手法によりバラエティ豊かなサウンドトラックを制作していきました。このようにして制作された数多くの楽曲の中から抜粋された15曲が収録されたのが本作ということになります。
まず何と言っても「メイン・テーマ」の鮮烈なイメージの訴求力が高く、そのバリエーションであるラストの「FADE」も清水靖晃のサックスフレーズも相まって、印象深さを残してくれます。そして「OUT TO SPACE」はまさに80年代中期の坂本サウンドといった風情で、御本人は余り気に入っていない作品であるとインタビューで回答していたようですが、実のところ楽曲のクオリティとしては非常に高いレベルにあるという印象です。そして「リイク二のテーマ」も野見祐二による「聖なるリイクニ」というバリエーションの美しさが余計にメロディラインの素晴らしさを引き立てています。野見祐二は「子猫物語」でもそうでしたが、坂本の手足となり本作でも大活躍で、オネアミス語という架空の言語で歌われる「歌曲「アニャモ」」の完成度も注目したいところです。上野耕路は「遠雷」の情景描写豊かな展開が実に彼らしいといいますか、天候の変化を見事に音楽として捉えていて、目立った仕事ではありませんがその実力の片鱗を垣間見せています。そして本作のハイライトの1つとも言ってよい楽曲が上野と窪田晴男の共作である唯一のロックチューン「戦争」で、オリエンタルなフレージングを唸るギターと大胆なストリングスで彩る豪奢なサウンドで、盛り上がることこの上なく、この楽曲のためだけに窪田晴男を招いたと言っても過言ではないのではと勘繰ってしまうほどです。
このように、サウンドトラックとしても質の高い仕上がりであると個人的には考えているわけですが、アニメ自体はヒットしたというには程遠い結果に終わったものの、後年にその歴史的価値が評価されるタイプの作品とも言えますので、本編はともかくまずはその音楽としてのクオリティを楽しむというのが、本作の楽しみ方と言えるのではないかと思われます。この作品の後に、上野耕路と野見祐二は坂本龍一と映画「ラストエンペラー」の劇伴を作り上げ、坂本をアカデミー賞に導く役割を果たすわけですから、本作にはその前哨戦という意味でも価値ある仕事であったのではないでしょうか。
25位:ARIA The BOX 2005-2008/O.S.T. (2008)

【佐藤順一監修 サントラBEST25】
1.「ゴンドラの夢」 曲:沢田穣治 編:Choro Club
2.「そして舟は行く〜short ver.〜」 曲:秋岡欧 編:妹尾武
3.「夏便り」 曲:笹子重治 編:Choro Club
4.「アリアの憂鬱」 曲:秋岡欧 編:Choro Club
5.「アクアアルタ日和」 曲:笹子重治 編:Choro Club
6.「逆漕ぎクイーン」 曲:沢田穣治 編:Choro Club
7.「鐘楼のパトリ〜ネオ・ヴェネツィア〜」 曲・編:妹尾武
8.「アドリアの海辺」 曲:妹尾武 編:Choro Club
9.「迷い込んだ路地へと」 曲:沢田穣治 編:Choro Club
10.「届かぬ想い」 曲:秋岡欧 編:Choro Club
11.「魔女」 曲:沢田穣治 編:Choro Club
12.「落葉の並木道」 曲:笹子重治 編:Choro Club
13.「未来への航跡」 曲・編:妹尾武
14.「春一番」 曲:秋岡欧 編:Choro Club
15.「子供の時間」 曲:沢田穣治 編:Choro Club
16.「夕凪」 曲:笹子重治 編:Choro Club コーラス編:妹尾武
17.「アジサイの小径」 曲:妹尾武・PAXQUE 編:妹尾武
18.「Waltz for ARIA」 曲・編:妹尾武
19.「夕立ちのあとで」 曲:秋岡欧 編:Choro Club コーラス編:妹尾武
20.「Second Season〜出会い〜」 曲・編:妹尾武
21.「歓喜の街」 曲:秋岡欧 編:Choro Club
22.「満月のドルチェ」 曲・編:妹尾武
23.「AQUA (rhodes solo)」 曲:笹子重治 編:妹尾武
24.「ARIA」 曲:笹子重治 編:妹尾武
25.「AQUA」 曲:笹子重治 編:Choro Club 弦編:沢田穣治
笹子重治(Choro Club):acoustic guitar・whistle
秋岡欧(Choro Club):bandolim
沢田穣治(Choro Club):contrabass・programming・鍵盤ハーモニカ
妹尾武:acoustic piano・Rhodes・synthesizer・鍵盤ハーモニカ
岡部洋一:percussion
石川智:percussion
梅津和時:clarinet・bass clarinet
Andy Bevan:flute・sax
篠崎正嗣:violin
三森未来子:cello
菊地知也:cello
工藤美穂ストリングス:strings
篠崎正嗣ストリングス:strings
加藤RUSHストリングス:strings
河井英里:vocal・chorus
葉月絵理乃:vocal
西村ちなみ:vocal
【主題歌&挿入歌コレクション】
1.「ウンディーネ」牧野由依
詞:河井英里 曲・編:窪田ミナ
牧野由依:vocal・backing vocal
窪田ミナ:acoustic piano
吉田健二:programming
田代耕一郎:bouzouki・bandolim
菅原裕紀:percussion
2.「バルカローレ」河井英里
詞:河井英里 曲・編:窪田ミナ
河井英里:vocal・chorus
窪田ミナ:programming
前田善彦:cello
3.「シンフォニー」牧野由依
詞:伊藤利惠子 曲:北川勝利 編:桜井康史
牧野由依:vocal・chorus・acoustic piano
宮田繁男:drums
北川勝利:electric bass・tambourine
稲葉政裕:electric guitar・acoustic guitar
金原千恵子ストリングス:strings
4.「Rainbow」ROUND TABLE feat. Nino
詞・曲:北川勝利 編:ROUND TABLE・桜井康史
Nino:vocal・chorus
北川勝利:acoustic guitar(Lch)
伊藤利惠子:electric piano・organ
桜井康史:programming
石成正人:acoustic guitar(Rch)・electric guitar solo
5.「ユーフォリア」牧野由依
詞:河井英里 曲・編:窪田ミナ
牧野由依:vocal・backing vocal
窪田ミナ:acoustic piano・programming
松宮幹彦:acoustic guitar・ukulele
岡部洋一:percussion
杉野裕ストリングス:strings
6.「コッコロ〜organ ver.〜」河合英里
詞:河井英里 曲・編:窪田ミナ
河井英里:vocal
窪田ミナ:reed organ
7.「髪とヘアピンと私」斎藤千和
詞:高橋舞 曲:F.GIRAUD 編:窪田ミナ
斎藤千和:vocal
窪田ミナ:acoustic piano
杉野裕ストリングス:strings
8.「夏待ち」ROUND TABLE feat. Nino
詞・曲:北川勝利 編:ROUND TABLE・桜井康史 弦編:窪田ミナ
Nino:vocal・chorus
北川勝利:electric bass・acoustic guitar・percussion・chorus
伊藤利惠子:electric piano
桜井康史:programming
宮田繁男:drums
山之内俊夫:electric guitar
杉野裕ストリングス:strings
9.「Smile Again」葉月絵理乃
詞・曲:妹尾武 編:妹尾武・羽岡佳
葉月絵理乃:vocal・chorus
妹尾武:Rhodes・keyboards・programming
羽岡佳:keyboards・programming
石成正人:acoustic guitar
桑野聖ストリングス:strings
10.「七色の空を」SONOROUS
詞・曲:SONOROUS 編:Choro Club 弦編:沢田穣治
SONOROUS:vocal・acoustic piano
秋岡欧:bandolim
笹子重治:acoustic guitar
沢田穣治:contrabass
石亀協子ストリングス:strings
11.「明日、夕暮れまで」葉月絵理乃
詞:伊藤利惠子 曲・編:北川勝利 弦編:桜井康史
葉月絵理乃:vocal・background vocal
宮田繁男:drums
北川勝利:bass・acoustic guitar・percussion
山之内俊夫:electric guitar
妹尾武:acoustic piano
桜井康史:programming
金原千恵子ストリングス:strings
12.「スピラーレ」牧野由依
詞:河井英里 曲・編:窪田ミナ
牧野由依:vocal・chorus
窪田ミナ:acoustic piano・keyboards・programming
菅原裕紀:percussion
朝川朋之:harp
杉野裕ストリングス:strings
13.「ルーミス エテルネ」広橋涼
詞・曲・編:窪田ミナ
広橋涼:vocal
窪田ミナ:keyboards・programming
朝川朋之:harp
杉野裕ストリングス:strings
14.「横顔」牧野由依
詞・曲:伊藤利惠子 編:伊藤利惠子・桜井康史
牧野由依:vocal・chorus・acoustic piano
桜井康史:programming
宮田繁男:drums
北川勝利:bass・acoustic guitar・percussion
山之内俊夫:electric guitar
桑野聖ストリングス:strings
15.「金の波 千の波」新居昭乃
詞:新居昭乃 曲:新居昭乃・保刈久明 編:保刈久明
新居昭乃:vocal・backing vocals
保刈久明:guitars・programming・manipulating
堤博明:guitars
三沢またろう:percussion
桑野聖ストリングス:strings
【サントラ未発表曲コレクション】
1.「鐘楼のパトリ〜ネオ・ヴェネツィア〜 -long ver.-」 曲・編:妹尾武
2.「AQUA -speedy-」 曲:秋岡欧 編:Choro Club
3.「運河はめぐる -slowly-」 曲:笹子重治 編:Choro Club
4.「アリアとお散歩 -no whistle-」 曲:笹子重治 編:Choro Club
5.「ズンタカポコテンズンタカポン」葉月絵理乃&西村ちなみ 曲・編:沢田穣治
6.「星の謳声」河合英里 曲・編:沢田穣治
7.「篝火のノクターン -another mood-」 曲・編:妹尾武
8.「そして舟は行く〜choro ver.〜」 曲:秋岡欧 編:Choro Club
9.「いつか来た道 -other way-」 曲・編:妹尾武
10.「アリアの憂鬱 -innocent-」 曲:秋岡欧 編:Choro Club
11.「AQUA -comical-」 曲:笹子重治 編:Choro Club
12.「星影のゴンドラ -romantic-」 曲・編:妹尾武
13.「Blue Pacific」 曲・編:妹尾武
14.「夏の妖精 -guitar solo-」 曲・編:笹子重治
15.「Second Season〜出会い〜 -bandolim melo-」 曲・編:妹尾武
2001年〜2008年にかけて「月刊ステンシル」→「月刊コミックブレイド」で連載された天野こずえの漫画作品「ARIA」(ステンシル時代は「AQUA」)は、テラフォーミングされ水の惑星となった火星"AQUA"に築かれた入植地であるネオ・ヴェネツィアを舞台に、ゴンドラ漕ぎによる観光案内人.ウンディーネを目指す少女から見た日々の情景を描くハートフルストーリーで、2005年に「ARIA The ANIMATION」としてアニメーション化され、さらに2006年に第2期「ARIA The NATURAL」、2007年にOVA版「ARIA The OVA 〜ARIETTA〜」を挟み、そして2008年の「ARIA The ORIGINATION」と3期にわたる長期シリーズとしてカリスマ的人気を誇ったアニメ作品です。個人的には2000年以降のアニメ作品の中でも非常に完成度の高い至高の名作であると考えています。
その大きな理由として、美しい情景描写と優しい世界観、日常系と思わせながら癒しと感動のストーリー展開、そして物語を盛り上げる効果抜群の素晴らしい音楽にあります。ネオ・ヴェネツィアという地球のヴェネツィアから建築物や風習を移転したという設定の観光都市の風景を見事に表現した劇伴を、秋岡欧・笹子重治・沢田穣治によるChoro Clubが担当、ブラジルの都市型伝統音楽ショーロから名付けられたこのトリオバンドによる、情緒豊かなアコースティックサウンドなしではARIAのアニメーションは語れないほどの奇跡のマッチングとなりました。また、このChoro Clubと共に劇伴を担当したのがSenooこと妹尾武です。Think Sync Integral所属のピアニスト兼コンポーザーである彼とChoro Clubのコンビも見事にハマりました。彼らの「ARIA」という名作アニメーションに対する貢献度は非常に高いものがありました。
そしてこうした五感において統一された世界観が妙なタイアップで壊されていくパターンもある中で、ARIAシリーズの主題歌は作品の世界観をしっかりと表現し切った名曲ばかりなのも特筆すべきポイントです。第1期「ARIA The ANIMATION」のオープニング主題歌はその名もズバリ「ウンディーネ」。歌うのは同年「劇場版ツバサ・クロニクル 鳥カゴの国の姫君」の主題歌「アムリタ」(作詞作曲はかの香織)でデビューしたばかりの牧野由依(作曲家牧野信博の娘)で、彼女のか細く繊細な歌声が、英国王立音楽院出身の異色コンポーザー・窪田ミナの流麗かつ細部に行き届いたサウンドメイクと、早逝が惜しまれるシンガーソングライター河井英里の歌詞世界と相まって、期待以上の相乗効果を生み出した名曲に仕上がりました(Cメロからアウトロに移る意外性が実に良い)。第2期「ARIA The NATURAL」ではキュートなプログラミングも加わった清涼感がたまらない「ユーフォリア」、第3期「ARIA The ORIGINATION」の「スピラーレ」は意表を突いたAメロに代表される美しさ全開のメロディラインが特徴で(窪田ミナの引き出しの多さが半端ではない)、どれもが期待を裏切るどころかそれ以上の輝きを見せたオープニング主題歌達でした。
それともう1つARIAの音楽的世界観に欠かせないのが、主にエンディング主題歌を担当したROUND TABLE feat. Ninoです。1990年代後半にポスト渋谷系バンドとしてデビューした北川勝利と伊藤利惠子の男女ユニットROUND TABLEに、ヴォーカリストNinoを加えたこのユニットは、2002年にアニメ「ちょびっツ」主題歌「Let Me Be With You」でデビューすると、立て続けにアニメソング界隈でタイアップを獲得、その渋谷系直系のポップフレイバーで一躍渋谷系アニソンの先駆けとして活動、特に北川勝利はその作曲家としての才能を開花させていくわけですが、この「ARIA」では「ARIA The ANIMATION」で「Rainbow」が、そして「ARIA The NATURAL」で「夏待ち」が、それぞれエンディング主題歌に採用され、どちらも染み渡る美メロによるアコースティックなバラードソングで作品の癒し空間を表現し切っていますが、最大の貢献度は彼らが手掛けた挿入歌の筆舌に尽くし難い完成度にあります。
ARIAシリーズ屈指の名場面「ARIA The ANIMATION」第11話で挿入される牧野由依歌唱の「シンフォニー」は、後にも先にも北川勝利史上最高の名曲です(詳細は拙著平成ベストソング第23位の記事を参照してください)。いつ聞いても涙なしには語れないメロディラインと珠玉のオーケストレーションが身に沁みます。
そしてROUND TABLEで北川の陰に隠れてはいるものの非常に名曲率の高い楽曲を生み出してくる伊藤利惠子渾身の名曲、「ARIA The ORIGINATION」の大クライマックス第12話で挿入された「横顔」も、その感動的な名場面との相乗効果で哀愁の美メロとストリングスによる情景描写の繊細さが感じられ、音楽のパワーを再認識させられます。この2曲が楽曲としての訴求力が飛び抜けており、ROUND TABLE feat. Ninoという変形ユニットは、その存在を世に知らしめる結果となりました。
もちろん河合英里の抜群の歌唱力が堪能できる「バルカローレ」、主人公・灯里の親友である藍華役の斎藤千和が歌う窪田ミナの繊細な癒しソング「髪とヘアピンと私」、灯里役の葉月絵理乃が歌う「ARIA The NATURAL」の後期エンディング、妹尾武作曲のソフトロック「Smile Again」、OVA「ARIA The OVA 〜ARIETTA〜」のエンディング主題歌で北川勝利お得意の感動的バラード「明日、夕暮れまで」、最後にしてプロフェッショナルが舞い込んできた感のある「ARIA The ORIGINATION」エンディング主題歌である新居昭乃の「金の波 千の波」・・・その他の主題歌・挿入歌もクオリティが抜群に高く、ここまでのレベルの楽曲が揃った主題歌・挿入歌曲集はめったに生まれないと思っています。それもこれもこのような他のアニソンディレクターでは集められないよな人選を実現できるビクター・flyingDogの音楽プロデューサー・福田正夫の貢献なくしては語れません。flyingDogというアニメソングレーベルが一目置かれるのも、福田が連れてくる新旧織り交ぜた才能豊かなクリエイター達が、見事に仕事を全うしているからであり、時には音楽がアニメ作品自体のクオリティを劇的に向上させることのできるパワーがあることを世に示すことができる好例として、本作は語り継がれていくべきと考えています。
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24位:XD FirstClass Network re-presents XD-submit Vol.2/V.A. (1994)

1.「LABYLINTH」CONTROLLED VOLTAGE
詞:杉本敦 曲:稲見淳
杉本敦:vocal
稲見淳:guitars・bass・synthesizer・computer programming
緒毘絹一:synthesizers・chorus
MASA:drums・electronic percussions
2.「WING」CONTROLLED VOLTAGE
詞:杉本敦 曲:稲見淳
杉本敦:vocal
稲見淳:guitars・bass・synthesizer・computer programming
緒毘絹一:synthesizers・chorus
MASA:drums・electronic percussions
3.「SEEK」CONTROLLED VOLTAGE
詞:杉本敦 曲:稲見淳
杉本敦:vocal
稲見淳:guitars・bass・synthesizer・computer programming
緒毘絹一:synthesizers・chorus
MASA:drums・electronic percussions
4.「The Door (Part I)」稲見淳
曲:稲見淳
稲見淳:PPG wave 2.3・micro WAVE・TR-808・Macintosh
5.「Blameless Vices」緒毘絹一
詞・曲:緒毘絹一
緒毘絹一:vocal・keyboards・computer programming
6.「Find the True Thing with my Submission to You」
緒毘絹一 featuring Yoshiken
詞・曲:緒毘絹一
Kenichi Yoshida:vocal
緒毘絹一:chorus・keyboards・computer programming
【TB-303 sounds for Sampling VOL.2】
7.「PULSE long decay (10 indexes)」
8.「PULSE pick bass (10 indexes)」
9.「PULSE deep resonance (6 indexes)」
10.「SAW 303 (10 indexes)」
11.「SAW resonance (7 indexes)」
12.「SAW standard 303 (10 indexes)」
sound designed by 稲見淳・CONTROLLED VOLTAGE
1994年に関西を中心とした草の根BBSネットワーク・XD FirstClass Networkが発行していたオムニバスCD&CD-ROM「XD-submit」シリーズが開始しました。一体何を言っているのかわからない方もいらっしゃると思いますが、時代はまだインターネットが一般的に普及する前の黎明期、Windows3.1の時代ですから、いわゆるデータ通信はモデム等の電話回線を利用したダイヤルアップ接続によるパソコン通信が会員メンバーのみ等の閉鎖的に行われていました。XD FirstClass Networkも大阪市此花区発祥のパソコン通信ネットワークとして運営されていたわけですが、このNetwork組織がHFS Formatによるデータ領域と、CD-DA Formatによる音源領域をハイブリッド化したCD盤を発行し始めたわけです。データ領域にはXD FirstClass Networkのデモサーバーが収録されていたり、エクスパンドブック形式のテキスト、発行が進むにつれてQuickTime形式の動画ファイル等が格納されていましたが、メインとなる音源領域を一手に引き受けていたのが、4-Dの小西健司が主宰する自主音楽レーベルIron Beat Manifesto(I.B.M.)でした。もちろん当時はまだまだインディーズのデモ音源はカセットテープを配布する時代でしたが、そこは電脳関西を謳うI.B.M.ということで、カセット配布も行いながらもさらに異なる音源リリースを模索していたらしく、このハイブリッドCDという珍奇なメディアに目をつけたということになるかと思われます。
そんな小西健司のI.B.M.ですが、「XD-submit Vol.1」ではI.B.M.の看板グループである小西自身が在籍する4-Dの楽曲は収録されず、同レーベルに在籍するニューカマー達の楽曲が収録されることになります。それが関西ニューウェーブシーンの新進気鋭のクリエイターであった稲見淳(Sunao Inami)と緒毘絹一(Kenichi Obi)、そして稲見率いるポストニューウェーブバンド・CONTROLLED VOLTAGEです。元P-MODELの福間創がメンバーとして参加していたことでも知られるこのバンドについては、本noteでも2回にわたって特集記事を書いておりますので、そちらをご参照いただければと思いますが、これらI.B.M.のプロモーションともいうべき音源の収録は非常にレアであり、貴重な資料として重宝するものでした。そしてこの音源部分の特徴として、アシッドハウス/テクノが流行すると共ににわかに再評価が高まっていたシンセベースマシーン・Roland TB-303のサンプリング音源の収録が挙げられます。まさに時代の産物といったところですが、レゾナンスやカットオフ&エンベロープ、パルスといった各音色を音階ごとにオーディオトラックに収録されており、これらはサンプラーへ取り込むサンプリング音源用データとして提供されました(音源提供は稲見淳:Vol.2にも収録)。そのような音源収録は類を見ない種類のものであり、本シリーズの珍奇さを代表する試みであったと思います。
そしてこのXD-submitシリーズの第2弾が今回取り上げる「XD-submit Vol.2」となります。本作からはデータ領域にはCONTROLLED VOLTAGE(以降C.V.)のライブ動画が収録されるなど、遂に動画を扱うようになると同時に、音源領域にはC.V.のスタジオ録音の新曲がなんと3曲収録、稲見淳ソロが1曲、そしてXD-submitシリーズ主宰のYoshiken氏をヴォーカルに迎えた楽曲を含む(福間脱退後にC.V.に加入した)緒毘絹一ソロ2曲が収録されています。注目はやはり何と言ってもC.V.新曲の「LABYRYNTH」「WING」「SEEK」の3曲でしょう。後期C.V.のJAPAN風味なニューウェーブバンドスタイル(福間創在籍時の前期C.V.はCabaret Voltaireからの影響が強いアシッドテクノ風味の強いユニット)の象徴ともいうべき楽曲が揃いました。まず、明らかにJAPANの影響が強い、といいますかJAPANそのものな「LABYRYNTH」は、稲見自身がプレイするMick Kahnばりのベースフレーズにアタックの強いスネアを中心に緻密に組み立てられたドラムパターン、David Sylvianそのものなヌメり感のあるヴォーカルスタイルがシミュレーションとして見事に噛み合った佳曲で、「WING」は緻密なアフリカンニューウェーブビートにあらゆる奏法とエフェクティブなサンプリングをカットアップしたギターワークが光るストレンジチューン、そしてUltravox的な疾走感に溢れた「SEEK」は高速シーケンスによるベースラインとその正確無比なフィルインに裏打ちされたMASAのドラミングが光るライブ映えする楽曲で、当時の稲見の個人スタジオCAVE STUDIOのエンジニアが手掛けた3曲とも大好きなドラム音色処理も相まってその仕上がりには個人的に満足しており、それだけでも本作は貴重と言えるのではないかと思います。といいますのは、その後2002年にリリースされたXD-submitシリーズ収録の楽曲を集めたベストアルバム「LOST AND FORGOTTEN」にしても、2024年にまさかの再発リマスターとなった「LOST AND FORGOTTEN+」にしても、稲見の過剰なリマスタリングの癖が強過ぎて、本作収録のオリジナル楽曲の良さを消してしまっているように思えるからです(それはそれで面白いリマスタリング(というよりリミックス?)なのですが)。それだけに個人的には本作収録のミックスが最も楽曲のポテンシャルを表現していると考えています(「WING」のみは2024年リマスターの方が過激で良いかも)。
対して、OBIこと緒毘絹一の2曲はリズムも軽快かつクォンタイズも正確なシーケンスが楽しめるチープなエレクトロポップで、しかもOBIが持ち合わせているロマンチシズムがそこはかとなく散りばめられているので実に聴きやすく、特に「Blameless Vices」は独特のUKエレポップ風味なメロディラインが特徴の良曲で、本作リリースから25年後の2020年にモデルIRISとのエレポップユニットChocolat Balletのシングル「花泥棒になった日」の元曲として、まさかまさかの再び日の目を見ることになります。
なお、このXD-submitシリーズはVol.4まで継続され、C.V.のドラマーMASAのソロ楽曲やオカノフリーク(らいよんちゃんの声優としても知られるオカノアキラのソロワークス)、シンセプログラマーMOMO(百々政幸)のソロワークといった貴重音源を収録し、関西インディーズニューウェーブシーンの礎の1つとなったのです(その後インターネットが一般的に普及した1997年に続編として「XCD 1997 Psy-mul-teneous」がリリースされ、T53やZENといった稲見のソロワークスやOBIの新曲「EDEN」が収録されました)。
23位:FUTURETRON SAMPLER/V.A. (2001)

1.「STOP THE TECHNOPOP」Yセツ王
詞・曲:助教授
Yセツ男:drums・percussion・electronics・vocals・voices
助教授:keyboards・electronics・programming・vocals・voices
エロオミ:synth bass・electronics・vocals・voices
2.「恋はジャスミン」jellyfish
詞:石垣三詠 曲・編:石崎智子
石崎智子:vocal・programming
3.「セクハラ」きれいなコウモリ
曲・編:きれいなコウモリ
サカガワ:programming
コバ:programming
4.「BREAK BEAT SCIENCE」エレキテル
曲・編:polymoog
polymoog:programming
5.「La Schatte poseuse」Zunba feat. petite pois
詞:petite pois 曲・編:Zunba Kobayashi
petite pois:vocal
Zunba Kobayashi:keyboards・programming
6.「東京ガードマン」MANIAX#2
詞・曲・編:吉野太郎
柚木カオル:vocal・synthesizers
吉野太郎:guitar・synthesizers・programming
7.「サマーナイトアナスタシア」PARANOIA 106
曲・編:シオミテツヤ
シオミテツヤ:programming
8.「SUNFLOWER 2020」Mac Donald Duck Eclair
詞・曲:toyomu
ミチ:vocal
フタマタトヨム:programming
9.「TEXAS」Mac Donald Duck Eclair
詞・曲:yuki
ミチ:vocal
ユキ:programming
10.「秋雨前線」きれいなコウモリ
曲・編:きれいなコウモリ
サカガワ:programming
コバ:programming
11.「恋の電子ブロック」エレキテル
曲・編:ウエハラケンイチ
ウエハラケンイチ:programming
12.「喝采」PARANOIA 106
詞:吉田旺 曲:中村泰士 編:シオミテツヤ
シオミテツヤ:programming
13.「涙のターゲット」MANIAX#2
詞・曲:吉野太郎 編:MANIAX#2
柚木カオル:vocal・synthesizers
吉野太郎:guitar・synthesizers・programming
14.「コスミック番長 -ノストラダムスMIX-」宇宙ヤング
詞:笹キミヒト 曲:細野晴臣 編:小林和博
笹キミヒト:vocal
小林和博:keyboards・programming
15.「Space Gigolo -gigolo's lament remix-」jellyfish
詞:石垣三詠 曲:石崎智子 編:石崎智子・イシガキアトム
石崎智子:vocal・programming
石垣三詠:chorus
山川佐智子:chorus
イシガキアトム:programming
16.「THE END OF TISSUE」Yセツ王
詞・曲:助教授
Yセツ男:drums・percussion・electronics・vocals・voices
助教授:keyboards・electronics・programming・vocals・voices
エロオミ:synth bass・electronics・vocals・voices
まだnoteどころかブログという概念すら希薄であった2000年代初頭は、インターネットが市民権を得つつ、2ちゃんねるのような匿名掲示板(BBS)が全盛期の頃で、かつホームページからの情報収集が盛んな時代でもありました(Wikipediaも始まったばかりでしたし)。そしてその頃のテクノポップ&ニューウェーブ界隈の情報源として避けては通れないホームページがございました。それが、P&GのR&Dにて要職を歴任しながら現在も音楽ライターとして活躍する四方宏明氏が主宰するtechno-electro-synth POP ACADEMYでした。1997年にスタートし国内外の数々のテクノポップバンドの解説を辞書的に網羅した関西生まれのこのサイトは既に閉鎖されてはいるものの、当時はお世辞にも情報量が多くないこのジャンルの貴重な情報源としてミレニアム周辺当時には非常にお世話になったSNS初期の名HPの1つであったことに間違いはありません。
このサイトに併設されていたBBSにはいつしかテクノポップの情報に飢えていたコレクターやミュージシャン達が続々と集まるようになっており、一種独特の雰囲気を醸し出すマニア集団と化していたのですが、せっかくミュージシャンが参加している界隈でもあるので、このサイトの魅力をオムニバスとして表現してみてはという話で企画されたのが、この「FUTURETRON SAMPLER」という企画です。リリース元はその名もPOP ACADEMY RECORDSというくらいですから、まさに自主制作といってよい知る人ぞ知るイ当時のンディーズテクノポップの空気を体現するコンピレーション作品となったのでした。なお、自主制作という予算が限られた状態のためリリースは300枚限定、しかし特典キーホルダー付きというお得さという部分は、関西らしいというかなんというか・・・ちなみにこのキーホルダーはCDケースのCD盤を置くスペースの隣にある細長い謎の空間に見事に収まっており、この謎空間に収納するアイデアが、このコンピレーションの最も評価すべき部分であると言っても過言ではありません(冗談です:ちなみに筆者は本作購入から23年経過した今日までこのキーホルダーを取り出したことはございません)。
この関西を拠点とするPOP ACADEMY RECORDSを主宰したのがMANIAX♯2の吉野太郎で、彼の尽力により8つのグループが集い、それぞれ2曲を提供する形が取られました。なお、本作のコンセプトについては、本作のライナーノーツにて四方宏明氏本人によりしたためられています。
futuretronとは、future【未来】とretro【回顧】と(elec)tron【電子】が組み合わさった造語です。
「懐かしい未来を電子音で奏でる」というのがこのアルバムのコンセプト。
参加した全てのアーティストは、1980年代のテクノポップ~ニューウェイヴが、何らかの形でルーツになっています。
しかし、当時のアーティストがそうであったように一見無縁と思われるさまざまなジャンルの音楽を吸収、解釈、換骨奪胎していくことにより、新しいグルーヴ感を見事に生み出しています。
それらは、グループ・サウンズ、童謡、テクノ歌謡、アイドル歌謡、演歌、モンド・ラウンジ、フレンチポップ、ギターポップ、クラブ系テクノ~ハウス等であったりします。
さて、本作収録の8アーティストを簡単に振り返ってみます。
既にアルバムをリリースしていたYMOのパロディバンド・Yセツ王は、B-2 DEP'Tのメンバーと、元GULT DEPの齋藤久師を加えたトリオ編成で、とにかくYMOをエロ方向へこじつけていくといういかがわしいコンセプトのもと、それでいてサウンド自体はYMOサウンドを忠実に再現してくるこだわりの深さが魅力で、本作においてもスネークマン・ショースタイルの2曲をギャグと共に提供しています。
既にアルバムを2枚リリースしていた早過ぎて遅過ぎたPerfume・女性3人組のjellyfishは本作リリース時にはソングライターチームのイシガキアトムと増山龍太を加えた5人編成となっていましたが、収録曲は石崎智子(トモコ)作編曲の名曲テクノ歌謡の新曲「恋はジャスミン」を収録、2ndアルバム収録「Space Gigolo」はより派手にリミックスされて収録されています。「恋はジャスミン」は本作でシングルカットされるならばこの楽曲というくらいのドリーミー&キューティーテクノポップ。独特のファンタジアがノスタルジーに誘います。Tony Mansfield直系のソナー音もこれまでになく主張しています(jellyfishについては筆者も追いかけ続けた結果、トモコさんと知り合う機会がありまして、jellyfish TYOとしてのbandcampでの2枚のアルバム再発配信にプロモーションとして少し関わることになり、下記のような記事で特集記事を書きました)。
男性二人組覆面ユニットのきれいなコウモリは、レトロテクノインストが得意そう、シンセサイザーの音色にもこだわりがあり、粋の良いシンセベースも軽やか。「セクハラ」はサンプルのカットアップに耳がいってしまいますが、「秋雨前線」も含めて、やはりシンセサイザーの丁寧な使い方に一日の長がありそうです。
エレキテルはラウンジテクノのガジェット電子楽器マニアとして名を馳せたpolymoogとライターとしても貴重な記録を残すウエハラケンイチの2人組で、本作リリースの頃はサンプリングミュージックとしてもう既にプロフェッショナルな域に到達しており、1年後にはフルアルバム「Space Travel with Teddybear」をリリースし、現在もなお現役で活動を継続しています。
Zunba Kobayashiは初期宇宙ヤングのメンバーとして、そしてソロアーティストとして、そしてCYBORG '80s結成までの分水嶺的時期として本作に参加。既に宇宙ヤングからは脱退していましたが、界隈で評判が良かったYMO「Cosmic Surfin'」の独特の感性による日本語詞カバー「コスミック番長」のリミックスを収録、そしてボサノバチックな典型的なフレンチポップシンガーpetite poisをヴォーカルに迎えた期待を裏切らないフレンチテクノポップ「La Schatte poseuse」の2曲を提供しています。レトロフューチャーと美メロを巧みに操るセンス抜群のサウンドクリエイターとして現在でも現役として活動中です。
レーベルオーナーである吉野太郎と柚木カオルの男女ユニットMANIAX#2はグループサウンズ的な世界観をテクノに料理した2曲で参加。サウンド構成は完全にテクノポップなのに何故こんなにGS風味なのかを考えますと、吉野のギター音色にあるのではないかと思われます。決して難しいフレージングではないものの存在感たっぷりなあのギター。まさにユニットのキャラを決定づける役割をしっかり果たしていると思います。
現在も絶賛活動中であるシオミテツヤのソロユニットPARANOIA106は対照的な大胆マッシュアップ2曲を提供。モーニング娘。の2ndシングル「サマーナイトタウン」をT-99「ANASTASIA」風ジュリアナ式テクノサウンドに料理&リミックスした「サマーナイトアナスタシア」と、ちあきなおみの1972年の名曲をアンビエントテクノ風に料理した「喝采」。どちらも権利関係で怒られそうなアプローチですが、これもインディーズ盤ならではのきわどさといったところでしょうか。
そして、本作中では最もバンドらしいとも言える男女トリオバンドMac Donald Duck Eclairは、フタマタトヨムとユキの男女コンポーザーのコントラストで2曲を提供しています。ガレージっぽさが残るトヨム楽曲とシーケンスに男らしさがあるユキ楽曲はカラーも異なりますが、どちらもLo-Fiな電子音を上手に利用しながらもあくまでバンドとして機能している、このコンピレーションでは異色かもしれない存在感です。
以上のような8アーティスト16曲のこのコンピレーションは上記のようにテクノポップコンピレーションといいながら、様々なジャンルを内包したごった煮感が2000年初頭の空気感を如実に表していると言えます。電子楽器周辺の機材の進歩により、DTMやDAWが当たり前になってきた時代というのもあり、既にエレクトリックミュージックはジャンルレスであり、そのような時代にあってあえて80年代的なテクノポップアプローチを試みたグループを集めたという点で、今となっては本作も貴重な資料となっているのではないかと思われます。
そしてこのコンピレーションストーリーにはまさかの続きがあり、POP ACADEMY RECORDSからはコンピレーション第2弾として、2004年に各アーティストの80年代楽曲のリメリク作品を集めた「FUTURETRON RECYCLER」がリリースされる予定でしたが、様々な事情が重なりお蔵入りとなっていました。ところが、何故か急に機運が高まったのか2019年に音楽事務所LAZY ARTに企画がサルベージされ、まさかの2枚組としてのリリースに漕ぎ着けました。こんなことってあるんですね。
22位:weekend for ladies performed by out of tune generation/V.A. (1995)

1.「Just In Love」和泉恵 with 鈴木智文
詞:小室みつ子 曲・編:鈴木智文
和泉恵:vocal
鈴木智文:guitar・synthesizer programming
新居昭乃:chorus
2.「キッシング・フィッシュ」戸川京子 with 高浪敬太郎
詞:佐藤奈々子 曲:加藤和彦 編:高浪敬太郎
戸川京子:vocal
高浪敬太郎:synthesizer programming
松田文:guitar
木幡光邦:flugelhorn
3.「夢中になりたい」野田幹子 with 高浪敬太郎
詞:小室みつ子 曲・編:高浪敬太郎
野田幹子:vocal
高浪敬太郎:synthesizer programming
松田文:guitar
渕野繁雄:flute
4.「Fly Me To Paris」TRANSISTOR GLAMOUR
詞:小室みつ子 曲・編:細海魚
寺本りえ子:vocal
細海魚:keyboards・synthesizer programming
松田文:gut guitar
木幡光邦:flugelhorn
5.「I Never Know」戸川京子 with 高浪敬太郎
詞:小室みつ子 曲・編:高浪敬太郎
戸川京子:vocal
高浪敬太郎:synthesizer programming
松田文:guitar
木幡光邦:flugelhorn
6.「パープルモンスーン」野田幹子 with 鈴木智文
詞・曲:上田知華 編:鈴木智文
野田幹子:vocal
鈴木智文:guitar・synthesizer programming
7.「ジュ マンニュイ」和泉恵 with 鈴木智文
詞:荒井由実 曲:渡辺俊幸 編:鈴木智文
和泉恵:vocal
鈴木智文:guitar・synthesizer programming
8.「恋人達の明日」TRANSISTOR GLAMOUR
詞・曲:大貫妙子 編:細海魚
寺本りえ子:vocal
細海魚:keyboards・synthesizer programming
松田文:ovation guitar
木幡光邦:trumpet・piccolo trumpet
Pizzicato Fiveを小西康陽と共にソングライティング面で支えてきた高浪敬太郎は1994年に同バンドを脱退すると、前年からスタートしたソロアーティストとしての活動に軸を置くと同時に、音楽プロデューサーとして数多くのコンピレーション作品を手掛けていくことになります。ポニーキャニオンからリリースされた「SEASON'S GROOVIN'」もその1つですが、この作品はまた後ほど紹介してまいりますのでここでは割愛させていただきます。高浪は、Pizzicato Five期と同様そのまま日本コロムビアでのソロ活動を始めていましたが、この日本コロムビアにおいて「CINE TECHNO」シリーズという映画音楽をテクノサウンド化した企画盤を2枚手掛けていましたが、それと並行して自主インディーレーベルOUT OF TUNE RECORDSを設立し、このレーベルからはles 5-4-3-2-1や寺本りえ子のソロユニットTRANSISTOR GLAMOUR、鈴木智文と野田幹子の男女デュオBLUE EYES OF FORTUNEなどが音源をリリースしていました。このようにメジャー・インディーズを股にかけて精力的なプロデュース活動を行ってきた高浪が、OUT OF TUNE GENERATIONの冠を付記した企画盤を日本コロムビアからリリースすることになります。それが本作「weekend for ladies」です。
女性のための週末のリラグゼーション・サウンドという触れ込みであるこのコンピレーションでは、高浪敬太郎プロデュースのもと、野田幹子・戸川京子・和泉恵・TRANSISTOR GLAMOUR(寺本りえ子)という4名のヴォーカリストを高浪や当時彼の音楽的・プロデューサー的相棒として活動していたポータブルロックの鈴木智文、そして高浪の1stソロアルバムにアレンジャーとして参加したキーボーディストでありTRANSISTOR GLAMOURの相棒でもある細海魚がコンポーザー陣として参加しています。和泉には鈴木が、戸川には高浪が、当然TRANSISTOR GLAMOUR寺本には細海が、それぞれタッグを組んで楽曲を提供もしくは過去楽曲をリメイク、そして野田は鈴木と高浪が1曲ずつ担当するといった構成で、一貫としてオフィスレディ系のお洒落系POPSを展開、肌触りの良いメロディとサウンドメイクでコンピレーションのコンセプトと目的を達成することに成功しています。
本作中において特に名曲度が高いのがオープニングを飾る和泉恵+鈴木智文「Just In Love」です。打ち込みによるブラスフレーズのイントロで始まるボサノバ調の流れるような曲調が魅力的な楽曲で、粋なメロディラインに一分の隙もない完成度の高い逸品です。ポータブルロック時代からポップセンスに特に優れていた鈴木智文の面目躍如的な名曲であり、和泉恵のいかにも20代〜30代のワーキングウーマンを彷彿とさせる美声が見事にハマっています。このコンビのもう1つの楽曲、ハイ・ファイ・セット「ジュ マンニュイ」のリメイクもフレンチボッサな佳曲で、その仕上がりは白眉というほかありません。しかし、それにしてもこの和泉恵というシンガーのその後の動向が不明で、90年代であればいくらでもデビューの道筋があったようにも思うのですが、本作以外にその名前を見ることもないため、少々残念な気持ちではあります(和泉恵の情報求む!)。
既に戸川純の妹として、女優として、タレントとして、そしてシンガーとしても立ち位置を確立しつつあった戸川京子は高浪敬太郎とコンビを組み、佐藤奈々子「キッシング・フィッシュ」と高浪書き下ろしの「I Never Know」の2曲で参加。しっとりねっとりした歌唱で存在感は抜群です。特に「I Never Know」はまさにエレガントかつウエッティ、木幡光邦のflugelhornが良い味を出したミステリアスな空気も醸し出す名曲です。本作のようにシンガーとして雰囲気抜群であっただけに戸川の自死による早逝には残念で仕方がありません。
野田幹子はデビューが1987年で、MOON RIDERS一派の薫陶も受け良質な作品を生み出し続けた才媛なので、シンガーとしてのキャリアは抜きん出ているため、本作でも堂々の歌いっぷりです。高浪オリジナル「夢中になりたい」は、普通に高浪ソロ楽曲の焼き直しと言っても良い高浪色に溢れたしっとりした曲調です。鈴木智文による上田知華+KARYOBIN「パープルモンスーン」のリメイクでは、ディレイの効いたキーボードリフが美しく、そこに野田のピュアな声質が乗ってきますから、流石にそのサウンドとヴォーカルの相性は抜群と言えるでしょう。このコンビはBLUE EYES OF FORTUNEとして公私共にパートナーになっていくわけですから、さもありなんといったところでしょうか。
そしてTRANSISTOR GLAMOURですが、細海魚のラテンフレーバー炸裂のオリジナル「Fly Me To Paris」では、寺本の甘い声質のヴォーカルを生かした楽曲ですが、この前へ出過ぎないサウンドメイクはいかにも細海魚といった印象です。また、この楽曲だけではないのですが、本作における松田文のギターワークは作品を通して安定的な活躍ぶりで、彼のギターが本作に統一感をもたらしているのではないかと思うほどです。そして、ラストを飾る大貫妙子「恋人達の明日」リメイクはラヴァーズ・ロック調に料理され、レゲエのリズムに乗ってゆったりと7分間もかけて日常を揺蕩うかのごときサウンドが施されています。これも90年代中期の時代の音と言えるかと思います。なお、寺本は1996年頃までTRANSISTOR GLAMOURを続けますが、その後は有近真澄とのT.V.JESUSのシンガーとしてグラムロックへの接近、90年代を駆け抜けていくことになります。
本作は箸にも棒にもかからない「普通の」POPSコンピレーションに思われるかもしれませんが、8つの楽曲における見事な完成度とコンポーザーとシンガーの実力を考えますと、再評価に値するコンピレーション作品であると言えるでしょう。高浪は以降もさまざまなコンピレーションを手掛けていくことになり音楽家としての全盛期を迎えることになりますが、本作はその先鞭をつけた好作品として記憶していきたいと思います。
21位:MIDI BEST FILE ’86/V.A. (1986)

1.「太陽にPUMP! PUMP!」EPO
詞・曲:EPO 編:清水信之
EPO:vocal・back vocals
清水信之:guitar・keyboards
村上秀一:drums
比山清:back vocals
木戸やすひろ:back vocals
遠山淳:programming
2.「G.T.」坂本龍一
詞:矢野顕子・Peter Barakan 曲・編:坂本龍一
Bernard Fowler:vocal
坂本龍一:all instruments
窪田晴男:electric guitar
吉田美奈子:background vocals
3.「Happy End」鈴木さえ子
詞・曲:鈴木さえ子 編:Psycho Perches
鈴木さえ子:vocal・all instruments
白井良明:guitars
柴山和彦:guitars
渡辺等:fretless bass
鈴木慶一:backing vocals
藤井丈司:sequence
4.「Another Kind」MICH LIVE
曲:沢村満 編:MICH LIVE
沢村満:alto sax・synthesizer
塚田嗣人:electric guitar
斉藤玲子:acoustic piano
仙波清彦:drums
5.「HONEYMOON IN PARIS」FLAT FACE
詞・曲・編:FLAT FACE
武末淑子:vocal
武末充敏:all instruments
6.「Chanson Francaise [French Song]」矢野顕子
traditional:harmonized by Maurice Ravel
矢野顕子:vocal
高橋悠治:piano
7.「アジアの恋」おしゃれテレビ
詞:荻原義衛 曲・編:野見祐二
吉永敬子:vocal
野見祐二:synthesizers・sequence programming
岡野ハジメ:electric bass
金子飛鳥:violin
遠山淳:synthesizers・sequence programming
8.「Home Sweet Home」矢野顕子
詞・曲:矢野顕子 編:矢野顕子・坂本龍一
矢野顕子:vocal・piano
大村憲司:guitar
吉川忠英:acoustic guitar
高橋幸宏:drums
坂本龍一:keyboards
9.「チェッカーくん」大貫妙子
詞:秋山道男 曲:大貫妙子 編:大村憲司
大貫妙子:vocal・background vocals
大村憲司:guitars・bass
鈴木さえ子:Fairlight CMI
藤井丈司:Fairlight CMI programming
10.「渚のモニュメント」EPO
詞・曲:EPO 編:清水信之
EPO:vocal・back vocals
清水信之:guitar・keyboards
富倉安生:bass
村上秀一:drums
比山清:back vocals
木戸やすひろ:back vocals
遠山淳:programming
11.「HAPPY」立花ハジメ
詞・曲:立花ハジメ 編:藤井丈司
立花ハジメ:vocals
塚田嗣人:guitar
矢口博康:sax
Whacho:percussion
藤井丈司:programming
12.「子猫物語」吉永敬子
詞:大貫妙子 曲:坂本龍一 編:坂本龍一・野見祐二
吉永敬子:vocal
坂本龍一:keyboards
野見祐二:synthesizers・sequence programming
13.「さいあいあい」ローザ・ルクセンブルグ
詞・曲:久富隆司 編:藤井丈司
久富"どんと"隆司:vocal
玉城宏志:electric guitar
永井利充:bass
三原重夫:drums
藤井丈司:programming
14.「Across the Seasons」高橋鮎生
詞・曲・編:高橋鮎生
高橋鮎生:vocal・acoustic guitar・electric bass・keyboards
Dave Mattacks:drums
David Lord:keyboards
15.「黄土高原」坂本龍一
曲・編:坂本龍一
坂本龍一:all instruments
吉田美奈子:background vocals
16.「ソーン・トゥリーのうた」大貫妙子
詞:羽仁未央 曲:大貫妙子 編:乾裕樹
大貫妙子:vocal・background vocals
乾裕樹:all instruments
本作はこれまで紹介してきたコンピレーション作品とは大きく毛色が違います。こちらはYMO周辺のマネジメントを担当していた音楽事務所ヨロシタ・ミュージックの大蔵博と、RVCでDear Heartレーベルを運営していたプロデューサー宮田茂樹の共同出資で1984年に設立した新興レコード会社・MIDIレコードからリリースした1986年のオムニバス作品で、MIDI所属アーティストの楽曲を抜粋して収録したカタログ的作品と言えるものです。
1983年のYMO散開後、アルファレコードにYENレーベルを設立していた高橋幸宏と細野晴臣は、高橋こそ翌84年はYENに継続して所属していましたが、細野はテイチクレコードに自身のレーベルNon Standardを設立しURBAN DANCEやSHI-SHONENなどの若手を育成していくことになります。高橋も85年にはポニーキャニオン傘下にMOON RIDERSとT.E.N.Tレーベルを設立し高野寛らを輩出してくことになりますが、坂本龍一は前述のヨロシタの大蔵社長に呼応する形で、当時の伴侶である矢野顕子と共にMIDIレコード設立と共に自身のレーベルSchoolを立ち上げ、手始めに1984年に自身のソロアルバム「音楽図鑑」をリリース、85年にはコラボ企画としてThomas Dolbyとの共作「Field Work」、自身の5thアルバム「ESPERANTO」、浅野智子のラップをフィーチャーしたシングル「Steppin' Into Asia」といったFairlight CMIを活用したサウンドによる楽曲を次々とリリースしていきました。矢野顕子もこの85年には名盤「峠のわが家」をリリース、2人は充実期を歩んでいくことになります。
Schoolが大蔵サイドとするならば、宮田茂樹はRVC時代からレーベルDear Heartを引き続きMIDIで運営を継続、Dear Heartの所属アーティストであった大貫妙子、EPO、鈴木さえ子といったキャリア抜群の女性ソロアーティストに、RVC時代にアルバム「AMATEUR ACADEMY」をリリースしたMOON RIDERSを引き連れて揚々と参加したものの、MOON RIDERSはかしぶち哲郎のシングル2曲とソロアルバム「彼女の時」のリリースにとどまり、85年秋にはポニーキャニオンに移籍し高橋幸宏と共にT.E.N.Tレーベルを設立していくことになりますが、女性陣は大貫が「copine」、EPOが「HARMONY」、鈴木が「緑の法則」と順調にソロアルバムをリリースしていきます。このようにこの2つのレーベルを両輪としてスタートダッシュを切ったMIDIレコードは順調に活動を進めると、EPOのサウンド面での相棒である清水信之も村上ポンタ秀一とのユニットで12インチシングル「THE RHYTHM BOXER」をリリースするなど、ポストYMO世代の溜飲を下げるような存在となっていくわけです。
そんなMIDIレコードの1986年の活動をまとめた形の本作ですが、サブスク解禁が進む今日にあって、MIDIにはそんな時流に抗うかの如く未解禁の音源が多く存在します。そんな本作でしか聴けないような音源(しかも重要な)が収録されているということと、重鎮アーティストだけでなくMIDIでデビューする新進アーティスト達が多く収録されたということから、本作には一定の価値があると思い、そして何しろ個人的に好みの楽曲が多く存在するという理由から、今回の30枚の中に特別に選出しているわけであります。本作に収録されているラインナップとしては、坂本龍一、矢野顕子、大貫妙子、EPOが2曲、残りは鈴木さえ子、MICH LIVE、FLAT FACE、おしゃれテレビ、吉永敬子、ローザ・ルクセンブルグ、高橋鮎生が各1曲ずつ。コンピレーションで大事なのは、有名どころはさておき、新進アーティストの品評会的役割にあると考えておりまして、そういった意味において本作は非常に意義のアルバムと言えるでしょう。
それでは各曲を見てまいりますが、まず坂本龍一は1986年の名盤アルバムにして彼の作品の中でも最も硬派でグリッドなサウンドとも言える「未来派野郎」からシングルカットされた「G.T.」と名曲「黄土高原」。このあたりについてはもはや申し上げることはないでしょう。あえて言うならば、2曲ともコーラスが吉田美奈子だったことに今さら気づきました。そりゃそうですよね。あの存在感ですから。
矢野顕子は自主制作であった高橋悠治演奏による85年リリースのピアノ伴奏アルバム「BROOCH」をMIDIが86年に再発したことから「Chanson Francaise [French Song]」が収録、そしてアルバム「峠のわが家」からは至高の名曲「Home Sweet Home」が収録されています。
大貫妙子は、アルバム「Comin' Soon」から名曲「チャンス」以来の大村憲司アレンジ「チェッカーくん」、そして通販限定でリリースされた大貫監修のサウンドトラック「アフリカ動物パズル」から「ソーン・トゥリーのうた」が収録されました。
清水信之とのコンピで歌謡界にも高見知佳「くちびるヌード」「上海エトランゼ」、香坂みゆき「ニュアンスしましょ」といった資生堂CMソング的エレガントシンセポップを連発していたEPOは、アルバム「PUMP! PUMP!」から、シングルカットされた2曲「太陽にPUMP! PUMP!」「渚のモニュメント」のサマーソングを収録、清水サウンドをじっくり堪能できる仕様となっています。
さて、ここからが1曲のみの収録で、まずは鈴木さえ子の12インチシングル「HAPPY END」。このシングルバージョンはサブスク未解禁で、鈴木本人が余りにも派手過ぎかつ毒々し過ぎて仕上がりに不満だというほどの、ギラギラしたマシナリーサウンドが楽しめますが、本質のメロディ自体が彼女の作品中最高のポップセンスに溢れており、この楽曲で売れなかったことが不思議なくらいです。この楽曲が収録されているだけでも本作の価値があります。
MICH LIVEは元Interiorのサクソフォン奏者沢村満のリーダーズバンドです。沢村はこの80年代中盤は高橋幸宏のライブになくてはならない存在として活躍したプレイヤーで、その独特の乾いたサックスプレイは矢口博康と双璧をなすほどのニューウェーヴィーなものでした。そんな彼のバンドには後に末期SHI-SHONENに参加する塚田嗣人がギターで参加しており、本作収録の「Another Kind」ではトリッキーなギタープレイで沢村との前衛インプロバトルを繰り広げています。こっそり仙波清彦もドラムを叩いているのもポイントです。なお、この楽曲は彼らの1stアルバム「惑星の観察」に収録されるとともに、前述の大貫サントラ「アフリカ動物パズル」にも収録されており、そのおかげでこの楽曲のみサブスク解禁されています。
FLAT FACEはMIKADOばりの牧歌的フレンチテクノポップ「HONEYMOON IN PARIS」で参加。元葡萄畑の武末充敏とその妻淑子の福岡出身夫婦ユニットで、86年にアルバム「FACE」をリリース、しかしこれが最後の作品となります。エレガントなヨーロピアンポップスを至高するこのユニットをエンジニアリング面でサポートしたのが、DATE OF BIRTHの重藤功です。
おしゃれテレビは言わずもがな坂本龍一が見出した非音楽理論型サウンドクリエイター野見祐二のデビューユニット。収録曲はもちろん坂本龍一も大好きだった名曲「アジアの恋」。吉永敬子が歌っているため、おしゃれテレビは野見と吉永のユニットと思われがちですが、正確には吉永はゲストヴォーカルで、おしゃれテレビは野見とコンセプトワーカーにしてアートデザイナーである荻原義衛のユニットです。それにしても野見といえば独学プログラマブルオーケストレーションのオーソリティーですが、既にその片鱗を見せつける見事なシーケンスの組み立てにより、この名曲が成立していることが伺えます。また、こちらも密かにPINKの岡野ハジメがベースをプレイしたりしています。
そんなおしゃれテレビのゲストヴォーカル吉永敬子が、この「アジアの恋」での歌唱が認められたためか、坂本龍一が参加した映画「子猫物語」の主題歌歌手に抜擢されます。この楽曲は坂本作曲ということで知られていますが、メインフレーズこそ坂本風味が強く感じられるものの、その他の部分は恐らく割合としては野見祐二仕事が大半を占めていると思われますので、ほとんどおしゃれテレビの新曲と言っても過言ではないでしょう。
立花ハジメはMIDIレコード移籍からは大胆にもボーカリストに挑戦します。まずは手塚治虫イラスト彫刻の贅沢な片面12インチレコード盤「BEAUTY」がリリースされますが、12インチシングル第2弾「HAPPY」が本作に収録されています。こちらも現在サブスクで聴ける「HAPPY」は、アルバム「BEAUTY & HAPPY」収録の戸田誠司アレンジアルバムバージョンであり、このシングルバージョンはサブスク未解禁です。バッキバキのアルバムバージョンと比較して、このバージョンは有機的なWhachoのパーカッションプレイを中心にエフェクティブな塚田嗣人ギターとフリーキーな矢口サックスが絡むくぐもったエレクトロサウンドでストレンジな雰囲気を醸し出す仕上がりです。
ローザ・ルクセンブルグはNHKの音楽コンテスト「YOUNG MUSIC FESTIVAL」で大絶賛された「在中国的少年」でデビューした京都出身のロックバンドです。本作収録の「さいあいあい」は彼らの1stアルバム「ぷりぷり」以降にリリースされた2ndシングルですが、勢いはそのままに藤井丈司プロデュースによるエレクトロなS.E.が飛び交うミックスが実にMIDI的であり、彼らのコアなファン層には賛否両論あると思いますが、個人的にはこのバージョンが良いと思います。やはり玉城宏志のギタープレイは素晴らしいですね。
そして、最後は高橋悠治の息子である高橋鮎生です。坂本龍一「音楽図鑑」収録の「TIBETAN DANCE」にkoto sampleで参加していた彼は、もう既に84年に1stアルバム「Carmina」を制作、この作品が大蔵博に認められてMIDIにやってきた無国籍プログレッシブロックアーティストで、MIDI移籍後は「SILENT FILM」「MEMORY THEATRE」とアルバムをリリース、そして86年にリリースされたMIDI第3弾アルバムが「Nova Carmina」で、本作収録の「Across the Seasons」はこのアルバムに収録されています。彼の音楽性にしてはまだポップな作風であると思われますが、この味わい深さに彼の数奇な人生が投影されているような印象を受けます。もちろん前衛・即興といった側面を持つ彼の音楽的素養は計り知れず、現在もなお活動を続けていることからも、その才能が絶えることはないように思われます。
そのようなわけで、MIDIレコードの1986年は非常に充実期にあったと言えるわけですが、その後は坂本の海外進出や新進グループの解散等が重なり、徐々にニューウェーブ色は薄くなっていくわけですが、その香りだけは残したアーティスト達がMIDIを支え続けていくことになります。