「TECHNOLOGY POPS的」80年代アルバム/曲ベスト30(性懲りもなく参加してみました)【後編:楽曲編②20位〜11位】
やはり30曲すべてを画像や動画を貼りつけつつレビューしていくと、スマホ環境では負荷がかかりダウンしてしまうらしいので、後編を3回に分けることにいたしました。故に今回は後編の中の中編ということで、20位~11位となります。前置きはほとんどなく早速レビューにいきたいと思います。
(アルバム編の投票結果のうち、当方のランキングからランクインしたのはJapan「Tin Drum」(25位:当方ランキングでは12位)だけでした。Ultravoxとか入らないんだ・・・w)
20位:「Love Is All That Matters」
The Human League(1986)
(アルバム「Human」収録)
作詞・作曲:James Harris III・Terry Lewis
Vocal:Philip Oakey
backing Vocals:Susan Ann Sulley
backing Vocals:Joanne Catherall
All Instruments:James Harris III
All Instruments:Terry Lewis
Producer:Jimmy Jam & Terry Lewis
1970年代末から80年代にかけてのUKシンセポップの代表格であったThe Human Leagueは、Martyn WareとIan Craig Marshがボーカリスト兼コンポーザーであったPhilip Oakeyを誘って結成した実験風味なシンセポップトリオユニットでしたが、80年代に差し掛かる中で内紛が勃発、MartynとIanはPhilipを捨てる形で袂を分かちHeaven17を結成いたします。そして残されたPhilip Oakeyはというと、The Human Leagueの看板を背負う形となり、新たにJoanne CatherallとSusan Ann Sulleyという素人女子学生2人を捕まえてメンバーに引き込むと、Philip Adrian Wright、Ian Burden、Jo Callisを迎えて音楽性を一新、キャッチーなエレクトロポップグループとして再スタートすることになります(フロントマン3名の印象が強いのですが、実は6名の大所帯でした)。
すると1981年のシングル「Don't You Want Me」が全世界で大ヒット、一躍スターダムにのし上がります。しかしそれからは「Mirror Man」や「(Keep Feeling) Fascination」といった地味なヒット曲はありましたが、往年の光は消え、一発屋扱いされる寸前まで追い込まれます。
しかしここでThe Human Leagueは米国進出へと舵を切り、1986年のシングル「Human」が全米1位の大ヒットとなり完全復活を果たすフェニックスぶりを発揮、アルバム「Crash」はそれほど売れませんでしたが、再びその名を残すことに成功します。今回の企画ではこの「Human」も候補に挙げていたのですが、ここではアルバム「Crash」からのシングルカットでアルバム最後を飾るエレクトリックバラード「Love Is All That Matters」を挙げさせていただきました。彼らが米国進出するにあたって依頼したプロデューサーがJimmy Jam and Terry Lewis(ジャム&ルイス)です。
Janet Jackson「Control」「Rhythm Nation 1814」の2大ヒットアルバムでトッププロデューサーへ上り詰めるJam & Lewisの特徴である爆音スネアはまさに「Human」のイントロで味わうことができますが、「Love Is All That Matters」における超合金が合体するかのようなガキーンッ!という打楽器音も負けてはいません。また、この曲はサビのキラーフレーズで持っていかれるほどの訴求力を備えており、思わず口ずさんでしまうほどのメロディラインにはJam & Lewisがリズムコンストラクションだけではなく作曲能力にも優れていることが理解できると思います(ダンサブルチューンに耳が行きがちですが、バラードのサウンド処理に真価を発揮するタイプ)。特にThe Human LeagueにはそんなJam & Lewisの特性がマッチしていたようで、シングルカット曲はこの時期は全て彼らに任せていたようです。「Love Is All That Matters」はアルバムからのカットということであまり売れなかったようですが、最近ではCUTEMENもリメイクするなど現在でも日本においても愛される名曲として語り継がれています。
19位:「今だから」
松任谷由実・小田和正・財津和夫(1985)
(シングル「今だから」収録)
作詞・作曲:松任谷由実・小田和正・財津和夫 編曲:坂本龍一
Vocal:松任谷由実
Vocal:小田和正
Vocal:財津和夫
Guitar:高中正義
Bass:後藤次利
Drums:高橋幸宏
Keyboards:坂本龍一
1985年は国連が国際青年年として採択した年いうことで、国立競技場において記念コンサート"ALL TOGETHER NOW"が開催されました。複数の大物アーティストやバンドが参加した大規模な野外ジョイントコンサートということで、いわゆるロックフェスティバルの走りとなったイベントでしたが、その目玉となったのがはっぴいえんどの再結成とサディスティック・ミカ・バンド改め松任谷由実が参加したサディスティック・ユーミン・バンドの出演でした。とりわけ後者はミカの代わりに松任谷由実を据えたスペシャルバンドで、加藤和彦・高中正義・後藤次利・高橋幸宏といった全盛期のメンバーと共にキーボードに坂本龍一が参加するなど豪華なプレイヤーを揃えましたが、ライブではミカバンドの曲もそこそこにメンバーのソロ曲メドレーが演奏されるいわば企画モノの域を出ない内容でした(持ち時間も短いので数曲しか演奏できなかった)。そのトリを飾る楽曲が、松任谷由実がオフコースの小田和正とチューリップの財津和夫とのコラボレーションによりリリースした典型的な企画モノシングルであった「今だから」でした。
ニューミュージック界の大御所3人のコラボ企画ということで、揉め事必至と言われていましたが、作詞作曲は年長の財津和夫が一歩引いた形となり、ほぼユーミンと小田が手掛けたと言われています。そしてこの曲のアレンジは坂本龍一が担当し、高中正義のギターワークや高橋幸宏の特徴的なドラミングをフィーチャーしたエレクトロポップに仕上げています。イントロの16分音符キーボードリフと高橋幸宏のノングルーヴ前ノリドラムがガッチリハマってもはやテクノというより他はありません。この圧縮された残響音を短く切ったゲートスネア&タムがこの曲の最大かつ唯一のポイントと言ってもよいかもしれません。もちろん高中正義のギターソロはテクニカルでフレーズも歯切れが良く見事なプレイですし、坂本龍一のシンセワークはいつになくドリーミーな音色を多用していてまさにポップス仕様になっていますが、それを完璧に支えているのが高橋のリズムキープです。後藤次利がいつもの派手なスラッププレイを封印しているのは残念ですが、高橋のドラミングは1音1音を大事にするあまり完全に譜面に音を置きにいくかのような(いわゆるクォンタイズしたかのような)独特の叩き方で、これは世界でも類を見ない天然記念物、もしくは世界遺産と言ってもよい世界に誇れる"幸宏ドラム"です。既にご老体となりドラマーとしての姿を見ることはほとんどなくなってしまったように思いますが(追記:2023年逝去。ご冥福をお祈りいたします)、不世出のドラムアーティストとして高橋幸宏の名は80'sロック&ポップスシーンに永遠に語り継がれるべきですので、この企画モノシングルリリースの意義も含めて今回のランキング企画に選出いたしました。
18位:「Change Your Mind」
Sharpe & Numan(1985)
(シングル「Change Your Mind」収録)
作詞・作曲:Bill Sharpe・Roger Odell
Vocal:Gary Numan
Keyboards:Bill Sharpe
Backing Vocals:Linda Taylor
Producer:Bill Sharpe
何度も申し上げておりますが、個人的にGary Numanの最も好きな時期は白塗り青髪のNUMA期初期でございまして、メジャーから離れて自主制作に移行した開放感からか何やら明後日の方向へ舵を切り過ぎた感が面白かったわけです。もちろんソロワーク「Berserker」においてゴリゴリのデジタルサウンドに変身した姿も当時の個人的な好みに合致していましたし、ウェーブテーブル方式シンセサイザーPPG WAVEによって生み出された変態的なシンセサウンドをフィーチャーする姿勢には共感するばかりでした。ところが、Gary Numanはああ見えてフットワークの軽い部分も持ち合わせていたようで、異なるジャンルとのコラボにも挑むことになります。その相棒として名乗り出た(逆にNumanが名乗り出たのかもしれませんが)のが、UKフュージョンの雄・ShakatakのキーボーディストBill Sharpeです。どちらもアプローチの違いこそあれシンセサイザーを利用したポップスを得意とするということもあって、1985年にSharpe & Numanとしてリリースした1stシングル「Change Your Mind」は2人の音楽的特性を生かした良質のエレクトロポップに仕上がりました。
大仰なイントロから始まり小気味良いシーケンス&リズムでスタートするこの楽曲においても、ひとたびNumanの歌が始まれば一気にヌメリ気が出てくるのは流石の強烈なキャラクターの持ち主と言えるでしょう。ポイントはサビに入り方ですね。"Change Your Mind"という音階がサビにしてはやけに低いのがニューウェーブなのですが、その低さに入るまでの"アォ〜〜〜↓ウ"の語尾の下がり方が実に素晴らしい。これぞゲリマン節ここにありといったところでしょう。クネクネしたダンスとともにサビに入っても盛り上がりそうで盛り上がらないヌメヌメした歌唱とBill Sharpeの小洒落たサウンドメイクは一見相性が良くないと思われますが、なかなかどうしてハマっていました。Fairlight CMI的な個性的なシンセソロもストレンジですし、聴きどころも多い名曲です。意外とキャッチーなポップスも歌えることを証明したGary Numanのアナザーサイドであるこの「Change Your Mind」を80年代フュージョンとダークニューウェーブの架け橋的なエポックメイキング曲として今回のランキングに挙げておきたいと思います。
17位:「デリンジャー」
刀根麻理子(1984)
(シングル「デリンジャー」収録)
作詞:三浦徳子 作曲:佐藤健 編曲:新川博
Vocal:刀根麻理子
Guitar:松原正樹
Guitar:Char
Bass:岡沢茂
Drums:山木秀夫
Keyboards:新川博
Trumpet:数原晋
Sax:Jake H.Concepcion
Chorus:EVE
一口にシティポップと言いましても、リゾートポップなのかアーバンポップなのかドライヴィンミュージックなのかその境目は曖昧で、いろいろひっくるめての大まかなカテゴリーなので、いまいち実態がつかめないという感覚があります。個人的にはリゾートポップは避暑地だしドライヴィンミュージックは海岸沿いを走ったりすることも多いので、街の音楽とは言えないと考えておりまして、やはり都会の音楽、アーバンポップ=シティポップではないかと考えています。また、愛だの恋だのをテーマにするのであれば当然夜に街は活発に動き出すことでしょうから、必然的に夜の都会音楽がシティポップと呼ぶに相応しいと思っています。そのようなわけで、例えば安全地帯とかあのあたりが雰囲気としてシティポップの代表というように感じますし、分かりやすく言えば角松敏生の3rdアルバム「On The City Shore」と4thアルバム「After 5 Crash」の境目が、シティポップの境界線なのではないかという解釈です。
そういう解釈からすると、この刀根麻理子のデビュー曲「デリンジャー」はまさにシティポップの代表的存在ではないかと考えています。TVアニメ「CAT'S EYE」シリーズの第2期オープニング主題歌に抜擢された名曲です。第1期が杏里の大ヒット曲「CAT'S EYE」ですが、杏里もこの「CAT'S EYE」で急激にアーバンにシフトした感もあり、彼女のリゾートからシティポップへ舵を切ったきっかけになった曲でもあるのですが、その路線を引き継いだこの「デリンジャー」は、さらに攻撃的でキレのあるエレクトロシティポップに仕上がっており、そのテンションの高さで盛り上げてくれる楽曲です。
緊張感のあるブラスセクションのイントロからSIMMONSドラムのフィルインで始まりますが、山木秀夫が叩きまくるこのSIMMONSの存在がこの名曲に非常に大きなウェイトを占めています。ビシビシキマる電子的なスネアサウンドはまさに1984年限定の空気感を醸し出していますし、特に圧巻なのがアウトロの連打に次ぐ連打の嵐!しかも思いついても誰もやらないような8小節フィルイン1回→8小節フィルイン4回→8小節フィルイン8回→8小節連続タムロール暴れ太鼓・・・というラストへ向かうにつれてフィルインが増えていくという中学生が考えたみたいなリズムパターンが可笑しくて仕方ありません。このようなやり過ぎ感が許される空気が80年代にはあったわけですが、個人的には新川博の最高の仕事の1つと認識しています。80'sシティポップ最高峰の1曲として今回はこの位置にランクインです(低過ぎるくらいですが)。
16位:「High Time」
Person To Person(1984)
(シングル「High Time」収録)
作詞・作曲:Person To Person
Vocal:Pete Eason
Guitar:Lloyd Richards
Bass:Jeremy Meek
Drums:David Palmer
Keyboards:Dave Clayton
Producer:David Frank・Mic Murphy
1982年に「The Look of Love」がヒットしたABCのメンバーであり、高橋幸宏バンドやYMOの散開ライブへ参加したことでも知られる英国出身のドラマーであるDavid Palmerが、日本での仕事を一通り終えて英国に戻って結成した5人組バンドがこのPerson To Personです。サディスティック・ミカ・バンドやYMOで世界を席巻した高橋幸宏ドラミングの評判はRobin ScottやZaine Griff、Bill Nelsonのアルバムに高橋がドラマーとして招聘されるなど非常に高く、特にJapanのSteve Jansenや、このDavid Palmerは高橋幸宏を心の師と仰ぐほど、その影響を色濃く自身のドラムプレイに反映していました。時は1984年、世の中はニューロマンティクス~ニューウェーブが下火になりつつあったもののエレクトロポップ全盛期に差し掛かり、のPerson To Personもご多分に漏れずUKエレポップのカテゴリーで勝負すべく、シングル「High Time」で颯爽とデビューすることになります。
この曲の良さは何と言ってもドラムのキレの良さでしょう。このあたりは流石は高橋幸宏の薫陶を受けたDavid Palmerらしいビシバシスネアが炸裂しています。もちろんメロディも非常にキャッチーで、さらにシンセベースのプログラマブルでコレクトなシーケンス感がエレポップ好きにはたまりません。このキャッチーかつシャープなサウンドを演出するプロデューサーは、何を隠そうDavid Frank & Mic Murphy、そう、あの角松敏生が大好きなThe Systemです。しかもミキシングエンジニアがMichael H. Brauer(同時期に角松敏生「Gold Digger」を手掛ける)ですから、英国でありながらサウンド面はニューヨークっぽい仕上がり、といいますかほぼ角松サウンドと言っても過言ではありません(洋楽ファンには怒られてしまいそうですがw)。なぜこの曲がこんなにキャッチーで日本人には親しみやすく感じられるのかは、上記のような状況証拠による部分も大きいのではないかと思われます。もちろん極論ですので、真に受けないで下さいw
このPVも何か爪痕を残そうと必死ですね。サビのフレーズで腕を回すパフォーマンスをしたり(思わず真似をしたくなる)、この回転が1つのテーマにしたかったのか、しまいにはボーカルのPete Easonがバク転をかますというパフォーマンスで盛り上げます。このあたりも同時期の風見慎吾「涙のTake a Chance」やセイントフォー「太陽を抱きしめろ」を彷彿とさせますし、どう見ても英国バンドなのに日本の空気を感じざるを得ないのです。
なお、このPerson To Personは結果として85年にアルバム「Stronger Than Reason」をリリース後、短命のうちに解散となります(故になかなかCDが長年手に入らなかったのですが、近年やっと南アフリカリリース盤をロシアから取り寄せることができました)。 なお、キーボードのDave Claytonは後年(21世紀以降)鈴木賢司が在籍するSimply Redに加入します。このあたりもどうあっても日本との縁が深いバンドだったようです。
15位:「かなしばり」
はにわちゃん(1984)
(アルバム「かなしばり」収録)
作詞:田沼宏一郎 作曲:仙波清彦 編曲:はにわちゃん
Vocal:柴崎ゆかり
Guitar:本間芳伸
Bass:寒河江勇志
Drums・Percussion:仙波清彦
Drums・Percussion:青山純
Drums・Percussion:れいち
Keyboards・Strings Arrangement:久米大作
三味線:藤尾よしこ
Strings:加藤譲ストリングス
Producer:伊藤八十八・河合マイケル
邦楽囃子仙波流家元にしてドラマー・パーカッショニストの仙波清彦は、幼少時代より歌舞伎デビューを果たしているくらいですから、そのままあちらの世界で活躍してもよいものを、東京藝大を卒業してから何故かフュージョンバンドの雄、ザ・スクウェア(現:T-SQUARE)に加入してから独自の音楽人生を歩むようになります。ザ・スクウェア脱退後の1982年には自身の邦楽技能をロックの世界に落とし込むべく30名を超える大所帯バンド・はにわオールスターズを結成、小川美潮や板倉文らのニューウェーブバンド・チャクラのメンバーを中心に、三味線や鼓といった和楽器を融合させた大所帯ならではの強力リズムの個性派バンドとして話題を博しました。しかしさすがに大所帯では流石にパーマネントな活動は難しいことから、規模をややコンパクトにして8名でリニューアルしたのが、はにわちゃんです(ミニサイズになったから"ちゃん"付けなのでしょうか?)。
メインボーカルをソロデビューを控えた小川美潮からロリータ寄りのキュートな声質である柴崎ゆかりに交代したはにわちゃんですが、彼女の加入により聴きやすさとしては格段にUPします。1984年にアルバム「かなしばり」をリリース、そのメインテーマにして力作がアルバムタイトル曲「かなしばり」が、今回の企画に推薦したい名曲です。ツインドラムによる強力なドラムをベースに典型的なロック調で始まる何が起こるか期待感しかないイントロ、柴崎ゆかりの少年のような"あなたは〜〜↑あ〜〜〜〜」の語尾の上がり具合、マイナー→メジャー→マイナーと目まぐるしく転調を試みる曲調、1周目の最後の"かなしっ・ばり↑っ!"の語尾上げのアイドル並みの可愛らしさ、間奏のチョンワチョンワなアンサンブルにユルンユルンのゴムのような余韻(なぜこんなに自然に三味線パートが溶け込んでいるのか)、あの明るいイントロはどこへ行ったのかと思うほどのアウトロのシリアスなホラー加減(ボイスサンプリングまで多用します)、完全にストーカー気質なヤンデレ世界の歌詞、どれをとっても異常なテンションと唯一無二のサウンドアプローチをあくまでポップに料理した稀代の和風ロックです。この楽曲のような醍醐味は洋楽だけを聴いていては味わえないでしょう。知り合いのジャパニーズニューウェーブ好きの外国人からは、「日本にはこういうストレンジなポップスがたくさん存在している。英米フォーマットから逃れられない欧米諸国のロックよりよほど個性的で面白い。」という話を聞いたことがありますが、この名曲を聴けば彼のコメントの意味が理解できると思います。
なお、ボーカルの柴崎ゆかりは平成初期が生んだバーチャルアイドル・芳賀ゆいの歌を担当していたことでも有名です、つまり「星空のパスポート」は彼女が歌っているということですね。
14位:「The Thin Wall」
Ultravox(1981)
(シングル「The Thin Wall」収録)
作詞・作曲:Warren Cann・Chris Cross・Billy Currie・Midge Ure
Vocals・Guitars・Synthesizers:Midge Ure
Synthesizers・Vocals:Chris Cross
Drums・Electronic Percussion・Vocals:Warren Cann
Synthesizers・Violin・Vocals:Billy Currie
Producer:Ultravox・Conny Plank
Midge Ure期のUltravoxが後のニューウェーブ〜シンセポップ系アーティスト達に与えた影響力は計り知れません。一時期はUltravoxフォロワーだらけになったほどで、あの独特の直線的なベースラインと叙情的なメロディ、そしてしつこさ満点のモジュレーション系リードシンセといったサウンドスタイルは、80年代初頭を席巻した時代の"音"であったことには間違いなかったのです。第2期(Midge Ure期)Ultravoxの1stアルバム「Vienna」が英国で大ヒット、見事ブレイクを果たした絶頂の中で1981年にリリースされたのが第2期2ndアルバム(通算5thアルバム)の「Rage in Eden」です。再びConny Plunkを迎えた本作は、音楽性は前作を引き継いで入るものの長尺な楽曲が多く、しかもミニマルなフレージングのベースラインのリピートが軸となっておりため、やや間延びした感のある作品となっていますが、そのようなアルバムの中でもいかにもクサいメロディラインが特徴の「The Voice」と並んでシングルカットされたのが、今回選出いたしました「The Thin Wall」です。
"薄い壁"という意味深なタイトルのこのシングルはB面の「Passionate Reply」の方が何かと有名なので少し不遇なイメージではありますが、細かいミニマルシーケンスベースを淡々と垂れ流しながらMidge Ureが熱唱スタイルで"Thin Wall〜〜"と高らかに歌うものの、印象的なシンセリフをバックにしたサビでは低音のおどろおどろしい声で"Thin Wall〜〜"と今度は唸るように歌うという陰鬱さが魅力の楽曲です。ガリガリッとしたギターのカッティングもエッジが効いていてカッコ良いのですが、上記のPVにしてもTOTPのパフォーマンスにしても非常に気に入っていて、やはりニューウェーブって暗くなくてはいけないよなあと思ってしまいます。ご覧くださいこのTOTPのセッティングを! この鍵盤数の多さを! Yamaha CS-80 & Oberheim OB-Xの重厚感を! Pollard SyndrumとRoland CR-78とSIMMONS SDS-5を無駄にセットしてスネアを叩くだけのWarren Cannを!w
ニューウェーブ〜シンセポップファンの夢を乗せて徐々に一般的認知に引き寄せられるように臭さ全開のポップロックな作風にシフトしていったUltravoxですが、この「The Thin Wall」がまさに彼らの全盛期。80年代といえばこの曲を外すわけにはいかないのです。
13位:「HOSHIMARUアッ!」
TPO(1984)
(シングル「HOSHIMARUアッ!」収録)
作詞:阿久悠 作曲・編曲:安西史孝
Vocal:池田智子
Fairlight CMI II+Apple II:安西史孝
Chorus:劇団ひまわり
Strings Arrangement:斎藤ネコ
80年代の音楽シーンを語る上で欠かすことのできない視点がテクノロジーの進化であることはここで申し上げるまでもありませんが、70年代と80年代ではモノクロテレビからカラーテレビ、2次元から3次元、レコードからCD等と同等の劇的な変化がサウンドの変化や音楽制作の手法に至るまで起こった時代でした。そんな科学技術の進歩の時代において、日本では1985年にその当時世界トップの技術力をアピールした一大イベントが開催されました。それが国際科学技術博覧会(科学万博-つくば'85:以降「つくば万博」と略します)でした。今もなお当時の科学万博を見学した人々のDNAに刻み込まれているこの科学技術の祭典には、各パビリオンで流れる音楽やテーマソングなど関連楽曲も多く発表されました。開会式テーマソングであった西城秀樹「一万光年の愛」、住友館 3-D ファンタジアムテーマ曲で坂本龍一が手掛けモモ(やまがたすみこ)が歌う「空に会おうよ」、三菱未来館テーマ曲でダ・カーポが歌う「夢の旅人」、健康・スポーツ館テーマ曲で「Magical Healing」期の原田真二による「Breathe」、エレクトロガリバーの冒険・電力館テーマ曲で冨田勲作曲を野宮真貴が歌う「すてきなラブ・パワー」と錚々たるメンツによる楽曲が披露されました。非公式ソングではありますが夏ということで音頭系の楽曲として五木ひろし「科学万博音頭」、村田英雄「万博音頭」、鈴木幸錦・金沢はるみ「つくば万博音頭」と1つにまとめたらよいのに似たようなタイトルの音頭曲も制作されました。この音頭系の楽曲の中で「HOSHIMARU音頭」という一風変わった、しかも全く音頭とは言えないテクノなサウンドの楽曲も存在していました。つくば万博の公式キャラクターであるコスモ星丸をテーマにした音頭ですが、この楽曲を手掛けたのがTPOの安西史孝です。
TPOはFairlight CMI日本上陸第1号機を所有するグループで、片柳譲陽(本間柑治)、安西史孝、天野正道、岩崎工、福永柏の5人組です。1983年リリースのアルバム「TPO1」がにCBSソニー初のCDリリースアーティストという初物づくしの彼らでしたが、当時の複雑な事情もありプロモーションが頓挫し知る人ぞ知る存在になってしまった不遇のグループでした。その後岩崎と福永が脱退し(片柳はもともとプロデューサー的存在)、安西と天野がTPOの看板を背負い、いくつかのアニメ(「うる星やつら」サントラが有名)やイメージアルバムのサントラを手掛けた後、このつくば万博の仕事が舞い込んできます。しかも公式キャラクターであるコスモ星丸のテーマソング=すなわち公式テーマソングという大仕事をゲットしたわけですから、このつくば万博における彼らの貢献度は非常に大きいです(現に安西はNEC C&Cシアターの音楽を、天野は鉄鋼館の音楽も制作)。
というわけでこの公式テーマソングが「HOSHIMARUアッ!」で、B面が前述の「HOSHIMARU音頭」ということになりますが、今回ランクインさせたのは歴史的価値も鑑みて、「HOSHIMARUアッ!」を取り上げさせていただきました。この楽曲は安西史孝がFairlight CMI IIとパーソナルコンピューター黎明期の名機Apple IIで作り上げた渾身のノベルティソングで、モールス信号と天空から降ってくるような切迫したストリングスから始まり落ちてきたところでFairlightのオケヒットが「ジャンッ!!」と鳴る完璧なイントロ、ギラギラしたAメロ前にはApple IIに仕込んだ音声合成ボードECHO-IIで星丸語をコンピュータに喋らせるという離れ業を披露(ここでこの技術をポップスに使用できたことが、後のボーカロイド技術に繋がっていくと言っても過言ではありません。つまり今ボカロ楽曲が存在するのは「HOSHIMARUアッ!」のおかげです。)、これだけでもお腹いっぱいです。
軽快なシンセベースのフレーズで引っ張られるAメロからは劇団ひまわり出身の女優でもあった池田智子による、NHK教育番組のような教科書的な歌唱がオフィシャルな空気を思い出させてくれますが、Fairlight CMIやApple IIのといったテクノロジーによるサウンドを披露するのもこの楽曲の目的の1つでもあったでしょうから、Fairlightによる怒涛の動物の泣き声サンプリングが随所で挿入、特にワルツ調に展開する間奏(ストリングスアレンジは斎藤ネコ)では、各パートを動物の鳴き声で埋め尽くすカオスな空間を演出します。もちろん安西はプログレ出身ですから惜しげもなくそういった要素をブチ込んできます。サビの最後では変拍子に過剰なほどの星丸ボイスを連打、特に楽曲のエンディングへ向かう際の狂乱のボイス連打には感動すら覚えます。そして最後は劇団ひまわり合唱団の「アッ!!!」の掛け声とともにオケヒットが「ジャンッ!!」。聴けば聴くほど凄まじさを感じさせる名曲です(もう1度申し上げますが、これがつくば万博の「公式」テーマソングです)。これほど尖った、しかも当時の最先端テクノロジーを駆使した80年代を代表する国際的イベントの公式ソングを80年代ベストから外せるわけないですよね。
12位:「Is It A Dream」
Classix Nouveaux(1981)
(シングル「Is It A Dream」収録)
作詞・作曲:Sal Solo
Vocals・Keyboards・Synthesizer:Sal Solo
Bass・Keyboards・Synthesizer・backing vocals:Mik Sweeney
Guitar:Gary Steadman
Drums・Percussion:B.P. Hurding
Producer:Sal Solo
80年代初頭はニューロマンティクス全盛期。派手な格好と化粧を施し、先端的なエレクトリックサウンドを抵抗なく取り入れたダンスロックで刹那的なムーブメントを起こし、Duran DuranやVisage、Spandau Balletといったバンドが人気を博していました。そのようなムーブメントに呼応した英国のニューウェーブバンドがClassix Nouveauxです。前述のバンド達に比べると評価がまだまだ足りない彼らですが、個性という点では他のバンドを凌駕するものを持ち合わせていました。それは何といってもスキンヘッドに化粧という怪しい出で立ちで、この世に現存するノスフェラトゥと評されたボーカリストのSal Soloの存在です。ツルッツルの頭を突き抜けるような甲高いシャウトから、絞り出すようなゴシック調の低音ボイスまで自在に声を操るパフォーマンスは明らかにClassix Nouveauxならではの武器と言えるでしょう。もちろんSal Soloに目を奪われがちですが、他のメンバー達も実力はなかなかのもので、特にMik Sweeneyのフレットレスベースプレイは、彼らのサウンドメイクの中心となっていますし、B.P. Hurdingは早くからSIMMONSドラムを導入して豪快に叩きまくるなど、ギタリストとしては堅実なプレイスタイルを見せるGary Steadmanも合わせて、各メンバーがそれぞれ持ち味を活かしたパフォーマンスを見せることができる、実力派バンドであったと思います。
彼らは「Night People」「La Verité」「Secret」という3枚のアルバムを1980年のデビューから1983年の解散までの4年間でリリースしていますが、シングル曲も「Guilty」「Inside Outside」「Never Again (The Days Time Erased)」「The End ... or the Beginning」等の非常にキャッチーで耳に残るメロディセンスを発揮した良曲を連発していました。その中でも彼らの最大のヒットとなった「Is It A Dream」を今回ランクインさせていただきました。英国では11位と惜しくもベストテンには入らなかった微妙な楽曲と思われがちですが、実はポーランド、ポルトガル、ユーゴスラビア、イスラエル、アイスランド等で第1位を獲得したマイナー国ヒットソングです。
ボヨンボヨンのフレットレスベースを軸に日本人にも親しみやすいイントロリフが流れてきます。ギターフレーズがどことなくオリエンタリズムを感じますが、それは上記のPVをご覧いただければ理解できるでしょう。この剣道の作法も何も構わずに乱れ打ちまくる容赦なさとなぜかSal Solo以外の3人が鉢巻きに学ランのようなコスチュームでまるで応援団コスプレというシュールさが興味深いPVですが、中盤から彼らの演奏シーンが堪能できるのが実に良いのです。Sal Soloはファルセットと地声を使い分けながらサビのコーラスとの掛け合い部分でボイスとパフォーマンスで妖しさを表現しまくり、後ろではB.P. Hurdingがこれでもかの手数の多さでSIMMONSを立ちドラムでアピールしているのが微笑ましいのですが、やはり魅力は楽曲そのもの。ベースのコクのあるフレーズが目立つ陰鬱なAメロからBメロではファルセットでイントロフレーズをなぞり、あの印象的なサビへと繋いでいく構成には全く隙がありません。とにかく長躯と風貌を活かしたSal Soloのパフォーマンスはもっと評価されても良いと思うのですが・・・ニューウェーブファンはともかく他のロックファンには知る人ぞ知る存在であることが実に惜しいです。Classix Nouveaux解散後は、同じスキンヘッド宇宙人バンドRocketsに加入し、ソロ転向後は宗教音楽テイストを取り入れた賛美歌系シンガーに移行するところも期待を裏切りません。是非80年代にSal Soloという稀代のボーカリストが存在していたことを(特に後追い世代の若い)皆さんに知ってもらいたいです。
11位:「サイケデリックHIP」
吉川晃司(1986)
(アルバム「MODERN TIME」収録)
作詞・作曲:吉川晃司 編曲:後藤次利
Vocal:吉川晃司
Guitar:布袋寅泰
Bass:後藤次利
Drums:山木秀夫
Keyboards:富樫春生
Programming:松武秀樹
たのきんトリオに代表されるジャニーズが席巻する80年代男性アイドルシーンに風変わりな新人アイドルが爆誕します。元水球ジュニア日本代表の経歴を持つスポーツマンでもあった吉川晃司は、音楽を志すとナベプロの社運を賭けた起爆剤として1983年にシングル「モニカ」でデビュー、「サヨナラは八月のララバイ」「ラ・ヴィアンローズ」「You Gotta Chance」といった1984年までは大村雅朗アレンジによる斬新なエレクトロポップで人気を博し、一躍トップアイドルとしての知名度を獲得していくことになります。
しかしもともとはロックボーカリスト志向であった吉川は自立を模索していくことになりますが、ここで彼の音楽活動の転機が訪れます。後藤次利へのアレンジャーの交代・・・これが吉川の音楽性を激変させることになります。
1985年からは「にくまれそうなNEWフェイス」「RAIN-DANCEがきこえる」「キャンドルの瞳」と作曲者の異なるシングルを立て続けに連発しつつ、3rdアルバム「INNOCENT SKY」をリリースしますが、後藤次利は当時は自身が設立したFitzbeatレーベルにおいてエレクトロニクスと自身の超絶技巧なベースプレイを融合させた新たなサウンドアプローチに挑戦していた頃で、吉川晃司楽曲も彼の斬新なサウンドの実験場になっていました。しかしもともとの吉川のポテンシャルはエレクトロファンクに傾倒しつつあった後藤サウンドによって開花し、重厚なドラムとテクニカルなベースを軸にした独自のロック歌謡への道を邁進していくことになるわけです。
そして、1986年には待望の4thアルバム「MODERN TIME」がリリースされます。本作は遂に吉川が作曲にも参加、本格的に自立したアーティストに成長していくきっかけとなる作品ですが、名曲も数多い本作にあって異様なテンションと実験性に満ちたアヴァンギャルドソングが収録されています。それがかの有名な(シングルカットされていない)吉川の代表曲の1つである「サイケデリックHIP」です。
この曲は何といっても後藤次利のバッキバキの変態ベースプレイに尽きるでしょう。そもそもこのようなベースラインを思いついて楽曲に反映させようとするのも変態ですし、こんな途方もないプレイを実現させる演奏テクニックも変態です。吉川本人の作曲によるメロディ自体はほぼ若さに身を任せた特筆すべき部分は余り感じられないものですが、このゴツグ印の過激なベースプレイが加わることで楽曲としての価値が格段に向上しています(当時の後藤次利のアイドルソングアレンジにはこのように頭のおかしいベースプレイで驚かせるものが非常に多い)。なお、たまったものではないのが、吉川のバックバンドであったPaPaです。彼らはライブにおいてこの楽曲を再現しなければならず、特にベース担当の笠原敏幸はこの変態ベースをモノにしなければならないため、相当鍛えられたのではないでしょうか。上記ライブでは見事にプレイし切っていますが、彼の苦労が見え隠れするとともに、このスパルタ的なベースラインが多い(特に後藤アレンジ曲)吉川晃司のバックを務められたことは、彼のベーシスト人生において貴重な財産となったことは、現在でも笠原が一流ベーシストとして活躍していることが証明していると思います。本来であればFairlightのページRでシーケンスを組むタイプのベースラインを人力で弾くわけですから、こんな前衛的なポップソングは国内外を探しても出会えないでしょう。そんな後藤次利の過激で変態性に満ちたベースプレイを紹介するためだけに、今回はこの曲をランクインさせています。
というわけで負荷削減のため、20位〜11位まででした。いよいよ次回はベストテンで最終回です。よろしくお願いいたします。
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