食〈鰻家の特上うなぎ〉
いただいた。
老舗らしからぬ、そっとした佇まい。
が、店内に足を踏み入れた途端、ピリっ。
店主の鋭い眼光。
焼き場にいちばん近いカウンターに座らせてもらった。
焼き場見るの初めてかも。この親父いくつだろう、とぼんやり思っていたら、
女将がサッと横に来て「今蒸し上がるから焼き始めるわよ。グッと集中するからその間は親父に誰も話しかけられない。あなたのは特上だから、串の余りが1センチくらいしかないから、火の中に指を突っ込まないとひっくり返せないのね。熱いわよ〜職人技だから見といて!」と。
背筋を正し、食い入るように見た。
無駄のない美しい所作よ。
火の中に指を突っ込んでもアチチなんて言わない。
タレ漬けは1発!
親父から孫らしき男性にうなぎが回り、手早く重に。
いただきます。
はみ出したうなぎ。
ひとくち放る。
口の中2秒で消えた。
大トロ。
親父が「その席は本田宗一郎さん、その隣は石破さんの席」と。
へぇ。
後半ちょっと胸焼けしてきたけど、親父の監視下で1粒も残せやしない。
完食。
空のお重を傾け「ごちそうさまでした」とニコリ。
すると表情を緩めてくれたので、調子に乗って、
「タレは一度漬けなんですね」と軽口を叩いたら、
「素人になにがわかる!うなぎは、大きさ、厚さ…(略)」
とブチギレられた…
赤羽橋の「野田岩」が不動の一位に変わりはないけど、親父はここがいちばんオモロ。
70年焼いてるというから、御年85くらいか。
次は並をたべてみたい。
重からはみ出たうなぎは、幸。
ズボンからはみ出た脇腹は、怨。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?