小中高生を熱狂させるゲーム界のメジャーリーガー : Fortniteプロゲーマー達を取り巻く世界
※素人が理解した限りの内容で一般の方向けに書いていますので、理解の浅い点などご容赦ください。
10代20代のプロゲーマーが人生を賭けて世界大会へのチケットを奪い合い死闘を繰り広げるFortniteというゲームのe-sports競技シーンを初めて観て圧倒されたので、素人の私から見えた世界を書いてみたい。
仕事の合間にちょっと遊ぶ程度のFortnite初心者のサラリーマンの私は数ヶ月前まで配信者(ストリーマー)と競技勢の違いもよく知らず、Youtubeのオススメに出てくる有名ストリーマーを少し知っている程度のド素人。選手と名の付くものは野球選手もサッカー選手も知らない、観戦ものにあまり縁のない人間だ。
Fortnite競技勢を知るようになったのは、偶然オススメに流れてきた一本のYoutube切抜き動画だった。どうやらFortniteの大会動画のようだ。
名前も知らない誰かが、2人組で戦うduoの相方が倒された後、敵14組残っていたところを1人で圧倒的な強さで敵を倒し続けて生き残り(専門用語でクラッチという)最後には残り3人の相打ちを制して優勝を勝ち取った。反応速度、判断力、瞬発力、そして運を引き寄せる実力に裏打ちされた強さ。なんだコレ?私が知っているFortniteじゃない。凄すぎる。
調べてみるとYoutube配信もしている大人気の競技選手だった。何本か遡って動画を見てみた。強い。凄い。繋がっている他の競技者も見てみる。アジア王者、世界大会出場者、各種大会優勝者、ゾロゾロ出てくる。とにかく強さの桁が違う。なんだこの人達は。そこには私の知らなかったディープなe-sports競技者達の世界が広がっていた。
簡単な用語解説
※ご存知の方は飛ばしてください
思わず親も許可するFortnite
Fortniteはe-sportsの中でも賞金が高額で、2023年公式大会は総額13億円。入賞すれば10代でも一攫千金を狙えるとあって大人気の競技となっている。
Fortnite競技者は、下は15歳の中学生から25歳くらいまでがボリュームゾーン。FPS/TPS系のバトロワゲームは特に競技者の年齢層が若い傾向にある。これは反射神経と集中力と訓練時間の問題で若年層が圧倒的に有利なためだ。
とはいえ、驚くほどのことでも無い。オリンピック選手もボリュームゾーンは似たような年齢層。片方はリアルな肉体を操り、片方はバーチャルの世界で解き放たれた自由な分身を操る。
日本ではゲームをしていると本人の人生のためにと親御さんが止めに入るイメージがあるが、10代で親の年収を遥かに超える額を稼げるとなれば話が違う。
2022年世界王者はポーランド出身の17歳のkamiと18歳のsettyのduo。世界大会の優勝賞金は20万ドルで、日本円換算で約2900万円。Fortniteの他の試合も含めると、この2人はそれぞれ総額1億円以上の賞金を獲得してきている。
ちなみに2022年世界大会の賞金は2位14万ドル、3位12万ドル。50位入賞者は1000ドルで、かなり下位層まで賞金が出るシステム。
親は子供の人生を心配するが、良い大学を出てサラリーマンになるよりプロゲーマーの方が若くして稼げて、後半の人生は賞金で起業するも良し、Youtuberやゲーム配信者(ストリーマー)として稼ぎ続けるも良しとなれば、我が子のやりたい事を応援するしか無い。
停滞期を底力で超えていく
Fortniteは日本語版リリースから6年ほど経つ。初期は中高生〜20代の流行に敏感な世代の間で大フィーバーとなり誰もが知る有名バトロワゲームとなった。そのまま盛り上がりを見せるかと思いきや、実はそうではなかった。かなりの数のプレイヤーがFortniteから別のバトロワゲームに移って行った時期がある。
Fortniteは元々バトロワとして設計されておらず、根本的な思想としてはエンジョイ勢向けの楽しくみんなでワイワイ楽しむためのゲームだった。競技のような苛烈な戦闘用ではない。シーズン3辺りで建築を効果的に用いる強力なプレイヤーが現れ、圧倒的な強さで誰も勝てなくなった。
それから誰も彼もが勝つために建築バトルを練習し始めた。建築バトルは難しく訓練が必要で、長時間プレイして特訓してきたユーザーにエンジョイ勢は狩られて勝つ事ができない。建築が下手なプレイヤーは淘汰されてしまう世界。新規参入障壁が高くなって流入が減り、楽しくワイワイやっていた既存ユーザー達も離れる原因となった。
EPIC GAMES社も対策を打ち出した。それがゼロビルドモード。建築なしで戦える。エイム(銃の照準のこと) と立ち回りで勝つ事ができる。APEXやValorantに流れたユーザーもゼロビルドのリリース時には遊びに帰ってきたが、決定的な定着要素とはならず先行きが見えない状態が続いた。
このような危機的状況の中、救世主が現れた。それがコロナ禍の巣篭もり需要で暇を持て余した小中学生達だ。Fortnite界隈を盛り上げようと競技勢やストリーマーが建築やエイム(銃の照準のこと)のやり方をYoutubeにあげると、小中学生は強くなりたい一心で練習し続け、競技勢と同じ技をどんどん吸収した。
最初はNintendo Switchで遊んでいた子も居たと思うが、強くなるために処理速度を求めるようになり、結果ゲーミングPCを購入し、最強の小中学生が続々と輩出されるようになってきた。先日もプロゲームチームに14歳の競技選手が加入し、大会で活躍を見せている。
Fortniteはちょっと楽しみに皆んなでワイワイやってスッキリするゲームから、毎日訓練し続けないとSquadにさえ行けない難しいゲームに進化した。新規参入障壁は高くなってしまったのだが、逆に訓練して手に入れた技術を披露するガチ勢や競技勢を応援するという場が醸成されていたり、コーチング系Youtuberの方達のチームでワイワイ練習の仕方を教えて貰う流れもあり、小学生の子供と親がDUOで遊んでいたり、他のゲームにはない楽しみ方が生まれてきている。
その他、競技外の世界からFortniteを見ると、最近ではメタップス社の佐藤航陽氏がAIに生成させた新宿マップをFortniteに取り込んでみたり、堀江貴文氏が創設した液体燃料ロケット開発を行うインターステラテクノロジーズ社のゲームをスピーディにリリースしたり、にわかにFortniteのメタバース利用の側面が脚光を浴びてきた。メタバースというバズワードに乗ってFortniteの独自性が再評価されている。
イノベーター理論で説明できるかは不明だが、コロナ禍という偶然を味方につけ、メタバースで再度脚光を浴び、α世代のユーザー獲得とビジネス界での注目の両輪が噛み合ってエンジンが回り始めた。EPIC GAMES社がヴィジョンとして貫いてきた公平性、誰もが楽しめるゲーム提供やクリエイティブの民主化という思想と元々の3Dエンジン戦略などがキャズムを超える底力となっているのではないだろうか。もちろんサービスがどの位置にあるのか素人の私に分かるわけもないのだが、外野からはそう見えるという話だ。
野球選手より距離が近い新たなバーチャルアスリート達
私が驚いたFortniteの競技勢のプレイそのものが、新規参入障壁となっていた訳だが、私のようについうっかり感激して競技選手のファンになるというムーヴもある。これは野球選手に例えると分かりやすい気がする。
そもそもメジャーリーガーに誰でもなれると思っている人は居ないだろう。私が思うに競技勢の見せる技は野球で言えばメジャーリーガーだ。向き不向きもあるし訓練したからといって同じプレイが出来るようになるとは限らない。
競技勢の本人達は10代の少年少女達なのだが、彼らが何千時間も練習を積んで習得してきたプレイは苛烈で観るものを魅了する。見てその凄さが理解できると観戦が面白い。
野球ファンも自分でたまに草野球をしたりキャッチボールをしたりするが、スポーツニュースで野球観戦を楽しむ。自分がメジャーリーグでプレイ出来ないと不満を持つ人は居ないだろう。大谷翔平選手が何本ホームランを打ったとか、防衛したとか、老若男女、大人も子供もこぞって応援しているが、Fortniteも成熟してスポーツ観戦と同じ領域に達しているのではないか。
プラスアルファで令和的な現象もある。アスリートの練習は普通見られないし、選手と会話することなんてできない。ところがFortniteはYoutube配信をしてくれている選手が多く、プレイしている配信に参加してチャットで応援すると時たま読んでもらえる事もあり、スパチャ(投げ銭)に選手が返事もしてくれる。距離がとても近い。
他のゲームだと顔出ししている方が多いのだが、若年層の多いFortnite選手達は本職のイラストレーターの方に描いてもらったキャラクターを使ったりしている。Vtuberとも違い、LINEスタンプのように喜怒哀楽の何パターンかを動画内で使っていて、選手の声と絵師さんのイラストの良さが相まって生き生きとした感情表現が伝わり、ただのプレイ動画より見ていて面白い。
ファン達もX(元Twitter)でハッシュタグつきの可愛いファンアートと応援コメントをあげると、競技勢もいいねをつけたりしていて、キャラクター性と中の人の実在性によりさらに魅力が増す。
中の人だって10代の多感な少年少女なのだが、多くのファンに応える姿はすでにアスリートの側面が強く、プロとしての自覚の強さは大人より大人で、多くの人から尊敬を勝ち取ってファンを増やしていく。
これはDeepなコンテンツだと思った。ニコニコに始まりミクチャや17ライブ、インスタライブ、Vtuberやtwitch配信などさまざまな分野のライブ配信文化が成熟した結果生まれてきた、バーチャルアスリート(プロゲーマー)達のあり方だと思う。
さらにFortniteの競技を見ていると、競技勢はほぼ実力が拮抗しており、大会に出る選手など誰が勝ってもおかしくない。しかも世界大会を賭けた戦いなどになると、本当に本人の人生を賭けた死闘になる。オリンピックの選手と同じようにタイミングや運、誰と当たるかといった要素も複雑に絡んできて、まるでローマの闘技場で戦うグラディエイター達のような爆発的な力を持つコンテンツが生まれ、観るものを熱狂させる。
こんなDeepで面白い世界が、こんなところに隠れていた(いや、隠れていた訳じゃなくて私が気付かなかっただけだが)とは、驚いた。twitchも見た事がない一般人をプレイの凄まじさで一気に競技観戦の面白さにのめり込ませた競技選手の力に脱帽である。
e-sportsはどこへ行く?
Fortniteの競技観戦のハードルは、まず自分がPCでキーボードとマウスを操作してゲームした事がないと、あの競技勢の凄まじさは体感としてわからないという点にあるかもしれない。
と思っていたのだが、Xで、ある競技選手の少年がFortnite世界大会への出場権をかけたグランドファイナルの試合を寝そべって足をバタバタさせてキャッキャ笑いながらスマホでプレイしているところが流れてきて、こういう事かもしれないなと思った。思い込んでいた制限は本当にあるのか無いのか?本当はそんなもの無いのかもしれない。
ここまでe-sports界隈を盛り上げてきたプロゲームチーム、ストリーマー、競技者、ゲームユーザーが創り上げてきた世界の方が、そのうち世界的マジョリティになると私は思う。Fortniteユーザーは5億人。日本の総人口は1億2000万人。すでに一国の総人口よりFortniteユーザーの方が多い。AIがかなり近い未来に言語の壁を完全に崩してくれる上、今のユーザーは次の社会を担うZ世代α世代だ。バーチャルの中での自由な身体性を得た社会的人材が次々と輩出されるのだ。勝ち確もいいところである。
未来は明るい。楽しみだ。
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Fortniteは新シーズンが始まり、チャプター4シーズン4が2023/8/25に公開され、同時接続が約270万を超えるなど活況を見せている。