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老子と学ぶ人間学⑪老子と孫子の「戦わずして勝つ方法」

1.なぜ経営者は孫子の兵法が好きなのか。

孫子の兵法とは、
紀元前500年頃、孫武を原作者とし、
後継者により編纂されて成立した軍略本。
戦い方のマニュアル本だ。

そんな兵法書が登場する前は、
どう戦っていたかというと、
天運に身を委ねた部分が強かった。

いわゆる神頼み。
勝利の幸運が舞い込むようにと、
生贄を捧げたり、
相手を呪い殺そうとしたり、
天まかせ、運まかせ。
それから、圧倒的な軍勢で押しまくるという、
力づくの戦い方だった。

そんな時代に登場した孫子は、
どうしたかというと、まず最初に、
過去の戦争データを徹底的に分析した。
統計理論を構築し、勝ち方の法則を導きだした。

天運まかせという偶発的方法から、
情報を収集し解析して勝つという、
頭脳戦に戦い方を変えた
大変革者だったのだ。

孫子が最も大切としたものは、
過去の情報と現場の情報

この教えは今も変わりなく、
今でも中国はビッグデータにこだわり、
華僑を通して世界の情報を収集している。

そしてもう一つ、孫子が行った
大変革とは、戦争そのものを、
哲学的なものにしたことだ。

孫子の提唱した戦い方は、
何が何でも勝てばよいという
体育会的なものではなく、
戦いという行為そのものに、
哲学的な問い投げをしたことだ。

「戦わずして勝つ」など、
非常に哲学的な問いかけだ。

そのため「戦争」というと、否定的な意味なのに、
「兵法」というと、不思議なことに
肯定的に捉えられ、ビジネスマンの心をつかみやすいワードのようだ。

2.「戦わずして勝つ!」孫子の戦い方

戦後の占領支配を考えると、
敵国を壊滅的に破壊して圧勝するより、
傷つけずに攻略する方が上策である。

その手法として、孫子の兵法では、
戦う前から後までの長期的視野で捉えていることが特徴である。

新事業展開に置き替えると、
事業の企画前の段階から、撤退後までを視野に入れ、
全体を鳥瞰しながら事業デザインを行うのだ。

この視点で中国史を読むと面白く、
今の現代中国の動向の理解にも繋がる。

百戦百勝は、善の善なる者に非るなり。
戦わずして人の兵を屈するは、
善の善なる者なり。

孫子の兵法 謀攻篇

100回戦い、100回勝ったところで、
それは最善のものではない。
なぜかというと、
101回目に負けるかもしれないからだ。
戦わずして相手を屈服させる方法こそ、
最善の上策である。

山脇史端超訳

孫子のいう戦いは、相対的なものである。
自分の方が力と知略が勝っていれば勝つが、
より力がある者に対すれば負けてしまう。

自分たちの方が情報を得ている時は勝つが、
相手が新たなイノベーションをおこし、
自分達より優れた情報を手にした途端、
負けてしまう。

自分たちのサービスの方が優れている時は勝つが、
相手が新たなイノベーションをおこし、
自分達より優れたサービスを提供した途端
負けてしまう。

だから勝っている企業も、負けている企業も、
イノベーションと社員に訴え、
イノベーションを起こし続ける仕組みが大切になり、永遠に戦い続けねばいけなくなる。

3.「戦わずして勝つ!」老子の戦い方

それに対し、老子の提唱する「勝ち」とは、
相対的なものではなく、絶対的な勝ちである。

天の道は争わずして善く勝ち、
言わずして善く応じ、
召さずして自から来、繟然として善く謀る。
天網恢恢、疏にして失わず。

老子道徳経 七十三章

何も言わなくても、
部下をうまく感応させ、
時期が来れば、
自然に部下の方からやって来て、
自主的に計画を立てていく。

そんな、自然にまわりを、
思いのままに動かせる力

このような力は、
一見隙間だらけのようにみえるが、
自然の理法に従えば、
何一つとりこぼしがないように、
うまくいくものなのだ。

山脇史端超訳

自然の理法とは、自然との共生であり、
一番理想的な姿である。

それを、老子は水に例えている。

上善は水の若し。
水は善く万物を利しても争わず。
衆人の悪む所に処る。故に道に幾し。

老子道徳経 第8章

最高の善い生き方とは、
水のような存在になることだ。
水は、まわりの者すべてに最大の恩恵を与えながら、
一言も不平を言わない。
自己主張して周りと争うことなく、
誰もが嫌がる仕事を引き受け、
利用されながらも、低姿勢を貫き続けている。

山脇史端超訳

社員に給与を支払いながらも、
自己主張をしたり、不平を言ったりせず、
低姿勢を貫いていく。
社員に利用されたり、文句を言われても、
何も言わず黙って受入れ、現場が静かに動くように、
誰もが嫌がる雑務を黙々とこなしていく。

夫れ唯争わざるが故に、天下に能く之と争う莫し。

老子道徳経 二十二章

そうすれば、誰とも争わないので、
自然の理法に従い、動くには最適な時期が自然に訪れ、
動くべき方向に、自然に物事が動いてくる。

山脇史端超訳

自然と共生するには、
自分が無になる。
こちらに争う意志がなければ、
それに対して争いを仕掛ける者はいなくなる。

禅的な戦い、自己との戦いだ。

このような生き方を徹底すると、
いつか相手を自然に感応させる存在になり、
物事は自然に動いてくるという。

その境地まで到達するには、
自我を無にする。
只管打坐(余念を交えず、ただひたすら座禅)

これは、心の中の戦い、自分との戦いなので苦しさが伴う。

故に、「孫子の兵法」の方が理解しやすく、
経営者には人気があるのではないか。

4.競争しないマーケティング


孫子の「戦わずして勝つ」
不敗の戦略とは具体的に何か。少し深堀してみたい。

競争の無い市場で勝負をかければ、争うことはない。
つまり、市場の常識を一旦捨てる必要があり、
この方法は、経営資源が弱い企業が生き残る手法として様々なカタチで応用できる。

今まで私たちは、
「お客様のためになるよりよい物」を提供することを心がけてきた。
そのために研究投資、宣伝広告と競争をしてきたが、結局は大手との競争に負けてしまう。

それではどうすれば良いかというと、みんながやっていることをスッパリ諦め、「何か違うこと」「別のこと」でマーケットを創る。
それには、皆がマーケットにしている人気のキーワードと、180度違う世界にヒントを見つけることこそ、陰陽学的ビジネス手法だ。

ニッチな顧客を狙えというのではなく、「そのような考え方や切り口は、この業界になじまない」という思い込みを捨てることで、そこから楽しさを創出し、新たな楽しみ方をお客様に提案することだ。

例えば、JINSはサングラスという概念を捨ててみた。

福井県の貸衣装屋は、花嫁衣裳からジェンターを抜き取った。

お寿司から魚介類を抜いてみた。

このように、ネットを検索すると様々な競争しないマーケティングがひしめいており、これこそ日本的な新規事業だと思う。

それでは、大手が真似するのではないかという心配はあるが、

物は壮んなれば、則すなわち老ゆ。
人は、強くなるほど頑固になる。

老子道徳経 第55章

弱い方が柔軟で、常識を破ることが出来る。

孫子も老子も弱い者の強さを提唱している。
そこに日本再生のヒントが隠されているのではないか。

一般社団法人数理暦学協会
山脇史端

ZOOMオンラインイベント
2022年2月14日 夜9時~



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