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薔薇の咲く樹

隅に追いやられた薔薇は
初めて上を見る 自分以外に優れたものを知った
大きな木は壮大な力を感じさせる

纏わり付いては傷つける卑しい薔薇は恋をした
何にも汚されぬ凛々しい樹木に恋をした


「君はずっとそこで一人なの?」
「そうだよ。私は生まれた時からここにいる」
「そうか、ここは風が強いね。意地悪な風だ」
「でもこの風が君をここは連れてきてくれた
 私は嬉しいよ。」

潮風が少しだけ冷たいこの丘で
温かい気持ちを歌い出す
君は遠くばかり見つめて
一体何を想っているの?

たった2つの生物が
御伽噺にもなれないストーリーを
僕たちは時が来れば枯れるだろう
それは自然の理 僕らの定め
でもねその精一杯を君と居たいんだ
先を思ってしまうと少しだけ痛む何か



恋に追いやられた薔薇は
初めて下を見る 自分の中に現れた異物を
強い風は絶望の未来を予感させる

かなぐり捨てては傷ついて虚しいバラは恋してる
何にも靡かない凛凛しい樹木に恋してる


「風がずっと止まずにいるね」
「そうだね。明日にはここに嵐が来るだろう」


「そうか、ならば僕は終わりだ。君とさようならだ」
「…大丈夫。君をここでは終わらせないよ。
 私の元へおいで」


風は次第に強くなり
夜も明けぬ頃薔薇は嵐に飛ばされる
飛ばされた はずだった
風に乗りたどり着くのはあの木(こ)の下
根っこが絡みついて離れない薔薇は
揺れる揺れる樹木の背で風を凌ぐ

「やめて、やめて!このままでは君が倒れてしまう」

嵐が遮る それでも根は絡む 揺れる樹木は軋み始める
薔薇は雫を弾いて強く上を見る
今にも倒れてしまいそうな樹木に感じる揺るぎない愛

伸びろ伸びろ 僕の全てよあの子を守る盾となれ
絡みついて 棘を自分に刺し 痛みも受け止め守る
折れかけた樹木は薔薇に身を預ける
喜ばしいワルツの様だ
誰も居ない丘で秘密の夜を明かそう

僕をここへ連れてきてくれた風よどうか聞いて


たった一つの願い事
御伽噺にもなれないストーリーだ
それでも、離れ離れは寂しい
枯れるのは定めだろう 嵐も運命(さだめ)
ならば愛の中最後を飾るご褒美を
痛み伴いながらも捧げたい最後の恋を




孤独な樹木は恋を知った
朧げな意識の中愛を知った
愛は必ず喜びとなる
嵐は奇跡を呼ぶだろう


ある丘で潮風と共に安らかな香りが届けられる
そこに人は恋焦がれ集まるんだ
薔薇の花を咲かす不思議な樹木があるらしいから
その樹の名は愛の魔法




画像は、フリー画像です。 photoACさんからお借りしました。

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