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映画『夜は短し恋せよ乙女』

湯浅政明は「人生を変える気のない奴がある事態に巻き込まれ自分の人生を見直し再生する」という話ばかりをアニメにしているように感じる。例えば「マインドゲーム」なら定職に就かず、人生をフラフラ生きていた西が一度蘇った事で人生をやり直そうとする話で『四畳半神話大系』なら大学生活をエンジョイできなかった私が何度もリセットすることで人生をやり直す話であった。そんな『四畳半神話大系』のスタッフを結集させて作られた『夜は短し恋せよ乙女』もまた二人の主人公が一夜で人生をやり直す話となっている。

『夜は短し恋せよ乙女』は森見登美彦の小説をアニメにて映画化した作品であり、キャラクタ-原案が中村佑介、脚本が上田誠、そして監督が湯浅政明と2010年にフジテレビノイタミナ枠で放映されていた『四畳半神話体系』の主要スタッフが勢揃いして作られた作品である。湯浅監督としては『マインドゲーム』以来、久々の劇場長編アニメであるが前作に比べると彼が得意とするドラッキーさはやや薄い気はする。とはいえ本が連なってページが波になるシーンとか自意識ゾンビたちが講堂で討論するシーンは狂気と快楽が同時に味わえる名シーンだと言えよう。そして終盤の展開に関してはクレヨンしんちゃんの『嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』のラストを思い起こさせるくらいに燃える展開が待っている本作であるが、この映画の重要な所は繋がりを意識した点である。

「こうして出逢ったのも、何かの御縁」このセリフは乙女の口から何度も言われる。そして作中に出てくる本の神様っていうか『四畳半神話体系』の小津みたいな奴が本は一つの繋がりに出来ているという。そう、この映画は“繋がり”を推進力に使っているのだ。終盤に乙女がわらしべ長者的に人々から色んな物を譲り受ける展開はまさに真骨頂とも呼べるシーンではなかろうか。そして最終的に乙女は先輩と繋がる。そして最終的に人生が変わらないと思っていた二人は今までとは違った新たな方向へ動き出す。今の人生へ不満がある人々へ、動き出さなきゃ何も始まらない。まるで湯浅監督はそんな事を言うがごとくこの物語を進める。さあ今すぐ行動しよう。そして長き一夜をこの目でこの身体で体感しようではないか。夜は短し歩けよ我ら。

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