NDLデジタルで荒地が沃野に変わった:PCのデスクトップに国立国会図書館がやってきた (メディアと教育と図書館と no.55)
(デジタル化全体の流れを把握のため 2024/08/30 追加)
2014年1月 図書館向けデジタル化資料送信サービス(図書館送信)
2021年3月 資料デジタル化基本計画2021-2025
2022年5月 個人向けデジタル化資料送信サービス(個人送信)
2023年1月 印刷機能の追加
1.在野研究の情報環境
大学図書館で勤務していた37年間は,職場の蔵書だった図書館情報学関連の図書や雑誌は,移動距離なく閲覧・貸出・複写も自由自在でした。退職後の4年間は,在職中から続けていた非常勤講師として教えていたおかげで,新聞データベースや電子ジャーナルもリモートアクセスで自宅から利用できました。複数の大学図書館を利用できた合計41年間の情報利用環境は,自分の調査・研究を行う上で恵まれていました(これに気づかなかったのは本当にうかつでした)。
それが一転したのは,所属大学がない一般市民となった2020年からです。使える図書館蔵書へのルートが絶たれました。命脈を繋いだのは,インターネット情報資源や,公共図書館の相互利用システム(和書のみで,洋書や和洋雑誌は不十分),購入していた図書や雑誌論文コピーなどでした。図書館員という職業のおかげで,大学図大学図書館や公立図書館のサービスの仕組みと,インターネットに代表されるICTを熟知していたのが役に立ちました。一般市民としての情報活用能力は高いと自負していますが,入手できる情報資源には限りがあります。無所属での在野研究の情報利用環境は厳しいです。
2.NDLデジタルの進展
一大転換は,2022年5月に国立国会図書館(NDL)が開始した「個人向けデジタル化資料送信サービス」(「個人送信」)です。この個人向けのサービスによって,情報アクセスの荒地が,一夜で沃野に転じました。
https://current.ndl.go.jp/e2529
・2022年2月1日 「個人向けデジタル化資料送信サービス」の開始について(令和4年5月19日予定)(付・プレスリリース)
https://www.ndl.go.jp/jp/news/fy2021/220201_01.html
それまでは,以下の3つの提供形態で,家から閲覧可能なのは,(1)の資料だけで,図書は(2)の半分以下,雑誌はほとんど無い状態でした。
(1)リモートアクセス型のインターネット公 開資料
(2)「図書館向けデジタル化資料送信サービス」(※1) を提供している最寄りの図書館に来館して利用する,来館型の図書館送信対象資料
(3)国立国会図書館に来館して利用する国立国会図書館内提供資料
(※1)図書館向けデジタル化資料送信サービスを開始(2014年1月)
https://current.ndl.go.jp/car/25284
個人送信の開始によって,(2)が「図書館・個人送信資料」となり,個人の登録利用者(※2)は,図書館に出向かなくとも,自宅からの利用が可能になりました。
(※2)国立国会図書館の利用者登録(個人)について:本登録
https://www.ndl.go.jp/jp/registration/individuals_official.html
個人送信開始の翌年の2023年1月には,印刷機能が追加され,PDF形式でのダウンロードも可能になりました(閲覧だけではきつかったです)。
https://current.ndl.go.jp/car/169179
「みんなの家の隣に帝国図書館が建った」と小林は表現しました。
(小林昌樹『もっと調べる技術:国立国会図書館のレファレンス・チップ』皓星社 2024 22p.)
https://libro-koseisha.co.jp/publishing/9784774408323/
家の隣というより,「PCのデスクトップに国立国会図書館がやってきた」でしょう。何しろ,PCで作業中に,「いつでも,どこでも,だれにでも,無料で」は,公共図書館の理念の体現です。日本の公共図書館は,図書館運営資源や図書館サービスの再配分が可能になったといえるでしょう。住民に提供可能な情報資源を総点検し,図書館運営・サービスの再構築に取り組むべき時代になりました。まず,NDLデジタルの資料の存在と,その使い方と有効性について,自館のサイトから案内すべきでしょう。図書館パワーの全開放に期待します。
・デジタル化資料提供状況
https://www.ndl.go.jp/jp/preservation/digitization/index.html
・国立国会図書館「資料デジタル化基本計画2021-2025」(2021年3月)
デジタル化対象資料の範囲,優先順位、デジタル化の方法等について
https://www.ndl.go.jp/jp/preservation/digitization/index.html
https://www.ndl.go.jp/jp/preservation/digitization/digitization_plan2021.pdf
3.図書館情報学関係の雑誌
よく参照する図書館情報学関係の雑誌について,NDLで利用可能なタイトルをリスト化してみました。
古い紙媒体はNDLデジタルで,電子化以降から最新まではJST(国立研究開発法人科学技術振興機構)のJ-STAGE(電子ジャーナルプラットフォーム)になります。
4.個人的な希望
JLA(日本図書館協会)の『図書館雑誌』の創刊号から2010年まで,全文検索可能な誌面での公開は圧巻です。JLAの会員向けに公開している1998年以降を,NDLデジタルで公開されるとうれしいです。
日本図書館研究会の学術雑誌『図書館界』も,創刊号から紙媒体の年代の誌面がNDLデジタルで公開され,J-STAGEではエンバーゴ(オンラインでの論文全文の閲覧を一定の期間を制限)が解除されるとうれしいです。
(参考)
国立国会図書館年報
国立国会図書館によるYoutube公式チャンネル