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〈現代音楽〉美しすぎる曲10選 vs. キモすぎる曲10選〈ヤバい現代アート〉

割引あり

どうも、作曲家のトイドラです。

皆さん、「現代音楽」という音楽ジャンルを知っているでしょうか?
「街中で流れてるような最近はやりの音楽のこと?」
と思ったアナタ、残念ながらそれは "現代の音楽" であって、現代音楽ではありません。
現代音楽とは、簡単に言うと
「1900年代以降の、なんかムチャクチャな感じの攻めた音楽」
です。
例を挙げると……

こういう音楽たちは、「現代音楽」という名からもわかる通り、いわゆる「現代アート」の流れの中にあります。
とても芸術的で、コンセプチュアルで、一般的に理解しにくいものが多いです。

長い前置き(飛ばしてもOK)

さて、そんな現代音楽について、この前「ゆる音楽学ラジオ」さんのYouTube動画でお話してきました。

そうしたら、この動画がTwitterでメッチャ炎上してしまいました
動画の中で、
「現代音楽には、美しいメロディ心に響くハーモニーがないんですよね~ww」
と言ったのですが、どうやらその界隈の方々には聞き捨てならなかったようです。
SNSでかなりボコボコに叩かれ、
「美しい現代音楽もあるだろ!!!」
「無知なクセに知った口をきくな!!!」

とめっちゃ怒られました。
その節は大変ご無礼しました。

※ 僕の言い間違えが多かったのもあり、動画を後から色々訂正したのは申し訳ありませんでした……!
情報の間違いはシンプルに僕が良くなかったです。

とは言っても、現代音楽が一般的に
「響きキモすぎ~」
と思われているのは(マニアは認めたくないだろうけど)事実です。
動画では入門向けなので色々省いてしまいましたが、
「全ての現代音楽がキモいわけではない」
とちゃんと強調しておくべきだったな、と後から反省しました。
誤解を招くのは僕も不本意です。

というわけで、今回はメチャクチャ美しい現代音楽にフォーカスを当て、皆さんに
「ウワ~~~現代音楽、美しすぎる✨✨✨」
という気持ちになってもらいます。

と同時に、せっかくなので破滅的にキモい現代音楽にもフォーカスを当てます。
せっかくいい気持になったところ、
「ウワ~~~現代音楽、キモすぎる?!?!?」
という気持ちを上書きし、何が何だか分からなくなったところで今回の記事は〆です。
楽しみですね。

ちなみに、「キモすぎる現代音楽」の章は300円の有料となっています。
美しい方は無料です。
わざわざお金を払ってキモくなりたい人、いるのか……???

〈目次〉
美しすぎる現代音楽☆10選
● Steeve Reich - Eight Lines
● Einojuhani Rautavaara - Piano Concerto No. 3 "Gift of Dreams"
● Joseph Schwantner - Sparrows
● George Crumb - Vox Balaenae
● 藤倉大 - 春と修羅
● 吉松隆 - ピアノ協奏曲「メモ・フローラ」
● 武満徹 - 系図 -若い人たちのための音楽詩-
● Adrianna Kubica-Cypek - Reflection Nebulae
● Andy Akiho - NO one To kNOW one
● Ben Nobuto - Tell me again
キモすぎる現代音楽☆10選
● ???

美しすぎる現代音楽☆10選

それではさっそく「美しい現代音楽」を紹介していきましょう。
そもそも、現代音楽というのは
「伝統には従わねえ、俺は自由にやるぜ!」
という姿勢で作られた音楽です。
逆に言えば、そういう姿勢で作られてさえいれば、響きがどんなにキレイだろうと現代音楽なのです。

伝統にしたがう保守派クラシック vs. 新しいことに挑戦する現代音楽

Steeve Reich - Eight Lines

さあ、まずは有名どころから。
アメリカのスティーブ・ライヒ(1936~)は、「ミニマル・ミュージック」と呼ばれる独特な作曲法で知られる作曲家です。
その作曲法は、
短い断片を執拗に反復することで音楽を作る」
というもの。

パッと聞いただけでも特徴は明らかです。
伴奏は同じ断片の繰り返しで、コード進行もほぼなし
短い旋律主題がすこしず~つ変化しながら、楽器がゆっく~り増えたり減ったりして、徐々に音楽が変化していきます。

そんなこの曲ですが、どういうわけかメチャクチャにかっこいい
退屈な感じは不思議とせず、むしろ執拗な反復と絡み合うリズムがだんだん心地よくなってきます
2:08あたりからフルートが入ってくる瞬間なんかサイコーですね。

ちなみに、「Eight Lines」はライヒ作品の中ではそんなにメジャーではありません。
より有名な作品として、こんなものもあります。

いずれも「Eight Lines」と同じような美しいミニマル・ミュージックです。
というか、スティーブ・ライヒは作風が特徴的すぎて、似たような曲をかなりたくさん書いています
明らかにメロディやリズムが使い回しっぽいのに、なぜか飽きない不思議……。

Einojuhani Rautavaara - Piano Concerto No. 3 "Gift of Dreams"

次に紹介するのは、フィンランド現代音楽の巨匠エイノユハニ・ラウタヴァーラ(1928~2016)。
彼の作品も、大変美しいことで定評があります。

北欧的な寒々しさと雄大さを感じさせつつ、とても神秘的で心地よい音使い。
音のぶつかりはとても多いのに、まるで大自然の中で環境音を浴びているかのような心地よさを感じます。

ラウタヴァーラの作品には他にも美しいものがたくさんあります。
こちらのピアノ協奏曲No.1も、冒頭とんでもない音が鳴らされるのになぜか美しいし、

こちらの「北極の歌」と副題がつけられた協奏曲は、なんと鳥の鳴き声がテープでそのまま流されます。
3:00あたりの牧歌的なメロディ、すごい癒し効果です。

Joseph Schwantner - Sparrows

お次は、アメリカのジョセフ・シュワントナー(1943~)を紹介します。
堆積和音のキラッとした響きが特徴的で、まるで澄んだ冬空のような冷涼な雰囲気。

ちなみにこの曲、どうやら小林一茶の俳句をもとに作られた曲だそうです。
タイトルの「Sparrows」は、日本語で言うとすずめのこと。
すずめがこんなオシャレな曲になるとは……。

ちなみに、彼の曲は他にも美しいものが多いです。
この曲なんか、仮にポップシンガーが歌ってても違和感ないんじゃないでしょうか。

George Crumb - Vox Balaenae

さて、次はちょっと変わりダネです。
アメリカの作曲家ジョージ・クラム(1929~2022)は、楽器の特殊奏法を探求し、パッと見ワケが分からないような謎の音楽をたくさん残しました。
「クジラの声」と題されたこの作品にも、彼の特徴はよく表れています。

いや~霊妙な響きですね。
冒頭、フルートが謎の演奏方法であからさまにクジラの鳴き声を模したソロを演奏します。
その後ピアノやチェロも参加しますが、演奏方法はかなり見慣れないもので、ピアノは中に手を突っ込んで直接弦を弾いたりしています

不思議な曲ではありますが、落ち着いた雰囲気の中で超自然的な美しさを感じさせる作品じゃないでしょうか。
ちなみに、2:58あたりから明らかに「ツァラツストラはかく語りき」の冒頭をオマージュしてるのがちょっと笑えます。

藤倉大 - 春と修羅

さて次は、イギリス在住の日本人作曲家、藤倉大(1977~)の作品を紹介しましょう。
この作品「春と修羅」は、小説「蜜蜂と遠雷」の映画化に際して作曲を依頼された作品です。
つまり、現代音楽には大変珍しい商業的な作品だといえます。
原作小説の中に出てくる架空のピアノ曲、という極めて難しい設定の楽曲なのですが……

これはすごい。
むちゃくちゃ美しい雰囲気で、フランス印象派を思わせるような茫洋とした色彩感。
こういう美しさと不思議さのバランスが取れた現代音楽は、他に代えがたい魅力があります。

吉松隆 - ピアノ協奏曲「メモ・フローラ」

この流れで、日本人作曲家を紹介してみましょう。
みんな大好き吉松隆(1953~)は、ポップスと現代音楽をどちらも愛する変わった経歴の持ち主です。
彼はなんと、
「現代音楽、響きがキモすぎるだろ!
堂々と異議を唱えています
彼の音楽には明確なコンセプト、つまり
「美しいメロディやハーモニーを取り戻す」
という考えがあるのです。
いや~「よくぞ言ってくれた!」という感じですよね。
むしろ今まで誰も言わなかったのはなぜ???

う、美しすぎる……。
単なるポップスでは説明できない美しさがありますね。
彼の作品はどれを聞いても非常に聴きやすく、音楽が本来持っているワクワクするような魅力が詰まっています。

武満徹 - 系図 -若い人たちのための音楽詩-

お次は、日本のレジェンド作曲家、武満徹(1930~1996)を紹介しましょう。
彼もポップスと現代音楽どちらも愛していました。
多くの歌謡曲や映画音楽を手掛ける一方で、こんな現代音楽も残しています。

谷川俊太郎の詩にフィーチャーした作品ですが、映画を見ているんじゃないかと思うような色彩感です。
イントロから美しいメロディが飛び交い、0:58からのホルン独奏はもう……美しすぎてヤバい。

ちなみにこの曲、現代音楽ファンからはあまり評判が良くありません
というのも、この曲はかなり晩年の作品なのですが、
「けっきょく歳とったらキレイな曲しか書かなくなっちゃったな~」
という評価を受けがちなのです。

確かに、若い時の作品はもっと厳しい響きの曲が多かったのは事実。
しかし、響きが穏やかだからイマイチというのは……?
正直、ファンの悪いとこ出てるんじゃないでしょうか。
マニアだけでなくみんなの心に届く作品として、「系図」はかなり名作だと思います。

Adrianna Kubica-Cypek - Reflection Nebulae

さて、お次はポーランドのアドリアンナ・クビツァ=ツィペック(1996~)、かなり若くして活躍中の作曲家です。
彼女の作品は、ここまで紹介してきた作品と比べるとやや混沌とした響きに感じるかも知れません。

しかし、高音域のキラキラした感じが澄み渡っていて、何とも言えない美しさがあります。
題名は日本語でいうと「反射星雲」、空に浮かぶ天体を表す言葉です。
確かに星のようなキラメキがある曲ですよね。

Andy Akiho - NO one To kNOW one

次に紹介するのは一風変わった作品です。
日本の血を引くアメリカ人作曲家、アンディ・アキホ(1979~)は、スチールパン奏者という変わったキャリアを生かし、こんなアンサンブル曲を作っています。

「これは現代音楽なのか???」
と思った方も多いでしょう。
めちゃくちゃカッコいいし、ヴォーカルもドラムもいて、途中はラップすらある
もはや普通にポップスなんじゃないか???

しかし、その響きは今までの音楽では考えられない複雑さ。
それでいて、どこか民族音楽を思わせる玄妙な美しさがあります。
これはかなり独特な現代音楽だと言えるでしょう。

Ben Nobuto - Tell me again

最後に紹介するのは、こちらも超若手の作曲家、ベン・ノブト(1996~)。
彼はイギリス系日本人で、日本生まれイギリス育ちという変わった出自をしています。
そんな彼の作品がコチラ。

完全に独自の世界観です。
美しいピアノに録音された音声や謎の電子音が加わり、背景では意味深な映像が流れる……。
響きの面で言えば、いわゆる "現代音楽" っぽいキモさはなく、むしろ寝る前に聴きたいような心地よいハーモニーに満ちています。

このように、もはや最近の"現代音楽"では、キモい響きや無調が1周回って時代遅れになっています
最初にも説明したように、現代音楽はそもそも
「伝統には従わねえ、俺は自由にやるぜ!」
という攻めの姿勢からスタートしています。
ということは、キモい響きが伝統になってしまった時点で、もうそれに従う意味はありません。
いや~なんという本末転倒

こうして、最近はもはやポップスと現代音楽が融合したりしています。
実際、ベン・ノブトも明らかにポップスの影響を受けた作品をたくさん作っていますしね。

キモすぎる現代音楽☆10選

というわけで、「美しい現代音楽」楽しんでいただけましたか?。
もう満腹かもしれませんが、ここからは長いデザートです。
キモすぎる方の現代音楽、いってみましょう。

……とその前に、いちおう補足。
ここで紹介する作品たちは、確かに響きはヤバいですが、だからといってひどい作品だということは決してありません
むしろ、この響きのヤバさこそ、これらの作品の魅力と言っていいでしょう。
なので、

  • 何を表現しようとし、何が表出した結果、こんなヤベ~響きになったのか?

  • この響きで何がしたかったのか?

  • もしかして、作曲者にとってはキレイに聞こえているのかも?

そんなことを考えながら聞いてもらえたら、単に
「うわ、この曲キモすぎ~」
と聞くよりもう1歩面白くなると思います。

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