現代角換わり腰掛け銀2023 ~「▲4五桂」をめぐる冒険~
はじめに
noteに現代角換わり腰掛け銀について書いてから早3年。
時代は流れ、現在では、藤井聡太竜王の得意戦法として猛威を振るっています。
ここから、現代角換わり腰掛け銀の現在地について書き進めていきます。
9000字近い長文になりますが、わかりやすく書いたつもりです。
詳細な変化については、書籍等でご確認ください。
「▲4五桂」の代表的な局面
今回のテーマといえる「▲4五桂」(△6五桂含む)の代表的な局面を挙げました。これらの図を一つずつ理解していくことで、現代角換わり腰掛け銀を理解できるようになるはずです。
では、「▲4五桂」をめぐる冒険に出発しましょう。
7九玉型での▲4五桂
3年前に書いた記事はこちら。
現代角換わり腰掛銀の「テーマ図」での後手の8つの手段を解説!
その時の現代角換わり腰掛け銀の「テーマ図」は今も変わりません。
3年前の記事では、後手には8つの選択肢があることを一つずつ解説していきました。
相手の形によって「▲4五桂」のタイミングを変えるのが先手のポイントであり、どのタイミングが最適かが現代角換わり腰掛け銀の最大のテーマです。
本項では、「テーマ図」から△5二玉▲7九玉△4二玉と玉を動かして待機した時の▲4五桂を取り上げます。
▲4五桂には△2二銀と△4四銀の2手段があります。
7九玉型は、
・後手の上部からの攻めに強い
・飛車を渡すと反撃が厳しい
という特徴があるため、後手は△2二銀として桂を奪いにいく姿勢を見せ、先手に攻めさせて反撃を狙います。
▲4五桂△2二銀に▲7五歩△同歩▲5三桂成△同玉▲7四歩と進みます。
先手は桂を取り返せる形になっていますが、後手は歩を得しています。
後手陣が乱れているため、先手が攻める展開が予想されます。形勢は互角です。
具体的には、△4四歩▲7三歩成△同金に対して▲4五歩や▲6五歩で攻めを続けることができます。
このような展開は先手も後手も避ける傾向になり、現状ではあまり積極的に採用されていません。
6三銀型に8八玉~▲4五桂
本項の▲4五桂はこの形。
これはテーマ図から、△6三銀▲7九玉△5二玉(途中図)▲8八玉△4二玉▲4五桂と進んだものです。
前項で後手は△5二玉→△4二玉と待ったため、先手は7九玉型で仕掛けました。
しかし、△6三銀→△5二玉と待たれると、途中図での▲4五桂は△2二銀でうまくいきません。
そこで、先手は▲8八玉と入城してから▲4五桂と仕掛けます。
前項と違って後手の銀が6三にいるため、▲7五歩~▲7四歩の攻めがありません。
そこで、▲4五桂△2二銀に対して▲3五歩△同歩▲6五歩△同歩▲5五銀と攻めていきます。
ここから△3三桂▲1八角△8二飛というのが定跡手順ですが、わけがわかりませんね。
この後も延々と難しい手順が続く定跡で、形勢は不明です。
一応この3年の間に、▲1八角には△8二飛と受けるのがいい(△3六角との比較)と分かりましたが、結論には至っておらず、今後もハッキリとした結論が出る見通しはたっていません。
公式戦では少し後手が勝ち越しています。私も後手をもって2勝している形です。
5四銀型よりも6三銀型のほうが受けやすいかなというのが個人的な印象でもあり、プロ全体の認識でもありそうです。
そのため、後手をもつと前項よりも本項の待ち方を採用する人が多いように思います。
従来の結論が覆る?
テーマ図から後手に待機されると、先手が仕掛けても容易に成果を上げられないと分かってきました。
後手側には、
・△5二玉→△4二玉
・△6三銀→△5二玉→△4二玉
2つの有力な待機策が存在することも見逃せません。
この2つで先手の攻め方が大きく変わり、すべてを網羅することは困難です。
その結果、角換わり腰掛け銀の採用が減少し、早繰り銀や相掛かりに居飛車党の関心が高まりました。藤井竜王も一時期、相掛かりばかり指していた時期がありましたね。
さて後手にはもう一つ、テーマ図で「パス」をする待機策があります。
先ほどのテーマ図ですが、後手が△7二金→△6二金と駒組み段階で手損をしたため、先手の手番になっています。
ここから▲7九玉△5二玉▲8八玉△4二玉▲4五桂と進み、本項の▲4五桂に至ります。
ここで後手は再び△4四銀と△2二銀の選択を迫られます。
8八玉型は、
・後手の上部からの攻めに弱い
・囲いに入っているため飛車を渡すなどの思い切った攻めがしやすい
という特徴があるため、△4四銀が多く採用されてきました。
△4四銀▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲2九飛△6五歩▲同歩△7五歩
ここまでは自然な順です。
そしてこの3年間で先手側は様々な手段を模索し、公式戦でも多く指されてきました。
その結果、後手に上部から攻められても、それ以上の反撃が可能であるという見方になりつつあります。
具体的には、▲2二歩△同金▲6四歩という手順が有力です。
相手を壁金にして、6筋からの反撃を狙っています。
この策は藤井竜王が得意としており、タイトル戦やNHK杯で登場してどちらも藤井竜王が快勝しています。
この指し方は将棋AIの世界でもよく出現し、先手の勝率が高いことが密かに知られています。
また、筆者の研究によれば、▲2二歩△同金を入れずに単に▲6四歩と指しても先手にやや分があることが分かっています。
▲4五桂に対して△4四銀として反撃する策はうまくいかないため、後手は他の手段を考える必要が出てきました。
深淵なる▲4五桂△2二銀の世界
▲4五桂に対して△4四銀がうまくいかないため、△2二銀が主流になりつつあります。
本来、8八玉型では△4四銀とするべきだったのですが、背に腹は代えられないといったところでしょうか。
△2二銀には▲3五歩とします。ここが一つ目の分岐です。
①△4四歩と桂を取りにいくか、△同歩と取るか。
①△4四歩と桂を取りにいくと、▲3四歩△4五歩▲同歩△6五歩▲同歩△7五歩と進みます。
▲4五桂△4四銀から後手が攻める展開と似ていますが、後手が桂を得した分だけ形が悪くなっています。
これがどのように影響するか。
先手はやはり▲6四歩と反撃のキッカケを作り、後手も△8六歩▲同歩△9五歩▲同歩と歩を突き捨てて攻撃を仕掛けます。
ここで△7六歩か△6五桂か。どちらも2023年に入ってから公式戦で登場しています。
△6五桂の展開は、名古屋で生でご覧になった方がいらっしゃるかもしれません。
どちらの展開も難解で、簡単に結論が出なさそうです。
戻って、▲4五桂△2二銀▲3五歩に△同歩と取るのも有力です。
以下、▲1五歩△同歩▲2四歩と進み、後手に2つの手段が生じます。
後手は、とにかく△4四歩から桂を取りにいきたいと考えています。
そのために、②▲2四歩に△4四歩か、③▲2四歩△同歩▲同飛に△4四歩とするかの2つの手があります。
②▲2四歩△4四歩に対しては、▲7五歩△同歩▲1五香△同香▲7四歩と強引に攻めていきます。
以下、最善手は△7二香で、▲7三歩成△同香▲3四桂△5二玉▲2二桂成△同金▲2三歩成で終盤戦に突入します。これは公式戦で多く登場している手順です。
③▲2四歩△同歩▲同飛に△4四歩とすると、▲同飛△4三金▲2四飛△2三歩▲2九飛△4四歩と進みます。
以下、先手は▲7五歩+1筋を中心に攻めていきます。押し引きが続く中盤戦で、この展開も公式戦で登場しています。
なお、▲2四同飛に対しては△2三銀と飛車を追い払ってから△4四歩から桂を取りにいくのも自然にみえますが、△2三銀の瞬間に▲5三桂成△同金▲5四飛△同金▲6三角の猛攻があります。
飛車を捨てる筋が成立するのは、8八玉型のメリットです。
①~③のどのタイミングで△4四歩として桂を取りにいくか、どの展開が最適かは、深淵な世界が広がっています。他にも紹介しきれなかった対抗策もあり、今後も研究が深められ、公式戦で多く登場するでしょう。
実は先手に選択肢があった?!
3年前の記事では、「テーマ図」において、待機策については後手に選択肢があると書きました。
すなわち、
A:△5二玉→△4二玉
B:△6三銀→△5二玉→△4二玉
C:パス→△5二玉→△4二玉
この3通りです。
ところが、「実は先手に選ぶ権利があるのではないか」という認識が広がってきました。
Aの待機策で、▲パス→△4二玉▲7九玉△5二玉▲8八玉△4二玉とすればCの待機策に合流します。
しかし、囲碁と違って将棋にパスはありません。
そこで、パスの代わりに途中図で▲6九玉として、△4二玉▲7九玉△5二玉▲8八玉△4二玉とすれば狙いが実現します。
問題は▲6九玉の瞬間に△6五歩と仕掛ける手ですが、5二玉が近いので攻めが難しいようです。
よって後手がAの待機策を採ろうとしても、Cに持ち込まれてしまうのです。
同様に、
Bの待機策では、ここで▲パス→△4二玉▲パス△5二玉▲パス△4二玉▲8八玉△5四銀と進めばCにの待機策に合流します。
それを実現するのが、▲2七飛△4二玉▲2八飛△5二玉▲2九飛△4二玉▲8八玉△5四銀という手順です。
飛車を上下に動かすことで手を調整しています。
これは後手が6三に銀を引いているから成立する手順で、飛車が動いて形が乱れても△6五歩から仕掛けられないのです。
なお、最後△5二玉だと▲6七銀から万全の態勢で▲4五桂と仕掛けられてしまう(詳細は略)ため、△5四銀は仕方ありません。
このように、「テーマ図」から後手がAやBの待機策をとっても、先手がCの待機策に誘導することが可能になると分かりました。
藤井竜王の選択
藤井竜王がどのタイミングで▲4五桂と仕掛けているか、調べてみました。
その結果、藤井竜王は先手を持つ場合にはCが有力と考えているようです。
実際の戦績をみると、Bは1勝2敗であるのに対し、Cは11勝1敗という結果になっています。
理屈よりもこの結果を見ると、どのタイミングが最適かがわかるような気がしてしまいます。
さらに、藤井竜王は後手を持つ場合にはCを避けているようです。
藤井竜王のこの傾向は当然ながらプロ棋界にも知られるようになり、Cの展開を目指す棋士が多くなりました。
後手を持つ場合にはAかBを目指すことが一般的ですが、前述のようにCに持ち込まれることが多いです。
現在のところ、先手が手を調整してCに持ち込ませる指し方を防ぐ手段は見つかっておらず、おおむねCに合流するようです。
まとめると、「テーマ図」から後手が待機した場合、先手は手を待ちながらCの図を目指すのが主流です。藤井竜王が高い勝率を誇るのと同様に、プロ全体でも先手の勝率が6割を超えています。
この3年間で、後手が待機した場合の先手の指し方が整い、それによって後手が苦しむようになったと考えられます。
▲4五桂のタイミングをずらす
ここで現代角換わりの「テーマ図」に戻ります。
後手が待機策をとらず、先手に6八玉型で攻めさせる手段も最近になってタイトル戦など公式戦で多く指されています。
具体的には、①△4一飛と②△7二金の2手段です。
△4一飛の次に△4四歩とすれば先手が攻めづらくなります。
具体的には、図から▲7九玉△4四歩▲4五歩△5二玉
この格好が優秀で、△4一飛と△4四歩を両方指されると先手は仕掛けにくくなります。
そこで△、4一飛には▲4五桂と仕掛けます。一方、後手は、4一飛型との相性が悪いため、△4四銀で反撃を狙うよりも、△2二銀で桂を取りにいく手が最善です。
ここから、▲7五歩△同歩▲5三桂成△同玉▲7四歩△4四歩▲8二角、といった進行になります。
ごく最近、超重要な対局で出現したので、見覚えのある方もいらっしゃるかもしれません。
形勢は互角で、後手が4一飛+4二玉(後に5三玉)という玉飛接近の悪形をまとめられるか、という展開になります。
公式戦での登場回数は少ないものの、直近では後手が健闘しており、今後も登場するでしょう。
もう一つ、②△7二金も▲4五桂を催促した意味があります。
△7二金に▲7九玉△6五歩、という展開になると後手の仕掛けが成立しています(3年前の記事に詳細あり)。
よって先手は△7二金に▲4五桂と仕掛けることになります。
ここで後手の選択ですが、7二金型だと通常と違いがあります。
それは、▲4五桂△2二銀に▲2六角という手が生じることです。
△4四歩を防ぎながら5三の地点を狙いつつ、▲1五歩もみせて攻めの幅を広げる手です。
以下△4四角▲3五歩△同角▲同角△同歩に▲9五歩!が好手です。
以下△同歩に▲7五歩△同歩▲9五香△同香▲7四歩と強引に桂の入手をはかり、▲3四桂を狙います。
9筋も絡められるのは6八玉型の長所です。
先手の攻めが決まってしまうので、後手は▲4五桂に△4四銀を選択します。
8八玉型での▲4五桂で△4四銀と逃げる手が成立しない(可能性がある)こともあり、「▲4五桂には△2二銀」で統一されつつあります。なので、△4四銀は7二金型のみ有効といえそうです。
△4四銀以下、▲2四歩△同歩▲同飛に△1三角とします。
この角打ちもよく出てくる手ながら、うまくいくケースの少ない手です。
ただ、この場合は先手が6八玉型で仕掛けているので成立する可能性があります。
△2二銀だと6八玉型が生きますが、△4四銀だと6八玉型の弱点をつけます。
この展開も昨年末頃の超重要な対局で出現したので、ご記憶のある方もいらっしゃるでしょう。
以下、▲2九飛△4六角▲4七金△2八歩▲4九飛△1三角に▲1五歩と角を狙って攻め、互角の展開が続きます。
第3の手段
ここで△5四銀▲6六歩、と進めば「テーマ図」に合流しますが、△3一玉▲6六歩△2二玉という手段もあります。
3年前の記事で「テーマ図」で△3一玉という手を取り上げて、「戦場に近づく危険性」があるので良くないと書いたのですが、6三銀型で玉を運ぶと先手も簡単には仕掛けられないことがわかりました。
先ほどの△2二玉に▲7九玉として、
この△5四銀には、先手も▲4五桂と仕掛けるよりありません。
なぜなら、▲8八玉だと△6五歩と仕掛けられた時に後手玉が4二にいれば▲6九飛の反撃がききますが、2二にいるとその手の効果が薄れるからです。
△5四銀▲4五桂に△2二銀とはできない(玉がいる)ので、△4二銀として△4四歩を狙います。
以下▲3五歩△同歩▲2四歩△同歩▲同飛△2三金▲2九飛△2四歩に▲7五歩と攻めを継続します。
後手も△5二角と7四の地点を受けて△4四歩を楽しみにします。
そこで先手も▲3七金!と援軍を繰り出してどうか。
形勢は互角で、先手の金がどこまで働くか、という勝負になります。
挑戦権を争う対局で出現するなど、公式戦で指されている展開です。
以上の3手段の「▲4五桂」は後手も悪くない戦いです。ただ、どれも後手は守勢にまわる時間が長くなります。
タイトル戦で現れながらも続く人がいないところをみると、プロには不人気な対策といえそうです。
▲4五桂が成立しない、かもしれない形
(以下は2023年5月3日の追記)
後手が▲4五桂を誘う手段として、2023年に入って有力と見られているのが、
後手が6筋の位を取る作戦です。
この手の狙いは△6四角と据えて先手の動きを封じることです。
例えば、▲7九玉△6四角▲5八金△8一飛
このような流れになれば、先手が打開するのは困難です。
そこで△6五歩の瞬間に▲3五歩△同歩▲4五桂が有力とされていました。
以下、△2二銀▲2四歩△同歩▲7五歩と攻勢をかけるのが定跡です。
しかし、研究が進むにつれて、後手の反撃のほうが厳しいのではないか、という見解に落ち着きつつあります。
「▲4五桂」を封じられるのであれば有力策として浮上してくるのは当然で、実際後手の作戦として取り入れる棋士も増えています。
しかし、先手にも策があります。
それが、▲5六銀△5四銀▲6六歩△同歩▲同銀と6筋の位を奪還する順です。
自分の玉頭から攻めていく異端の順ですが、後手の玉が4二にいるため6筋にと金が出来るような流れになれば優位をつかめます。
また、先手はこの後▲5八玉と移動して玉が右辺に行くことで後手の反撃を避ける構想が有力で、その辺りの柔軟な指し方が令和の角換わりらしさでもあります。
「玉は8八に囲う」という概念から離れないと思いつかない発想ですね。
先手の6筋奪還に対して後手が対応できるか、それが△6五歩型の成否を握っています。今後も公式戦で指されていくでしょう。(以上、追記終了)
後手から「△6五桂」
「▲4五桂」とすれば攻めが続く、というのが基本的なコンセンサスになりつつあります。そこで守勢にまわるのをつまらないとみた後手が、先に「△6五桂」と仕掛ける展開に活路を見出しはじめました。
それを実現するには、9筋を挨拶しないのが有効です。
後手が△9四歩と挨拶をしなかったため、先手が9筋の位をとっています。
この位は、
・玉の逃げ道を広げる
・後手からの端攻めがしづらくなる
というメリットがあります。
反面、先手の手が遅れているため、後手が先攻できるという理屈です。
先手の組み方によって△6五桂のタイミングが変わってきます。
上の2つは、△6五桂に▲6六銀と逃げる展開になり、後手が仕掛けたものの駒組みに戻ることもあります。
7九玉型には△7五歩~△6五桂といくのが形です。これは後手の3一玉型に▲3五歩~▲4五桂と仕掛けるのと同じ理屈ですね。以下は▲6八銀に対して後手が攻め立てることになります。この形では△7五歩~△6五桂ではなく、△6五銀とぶつけるのも有力です。
ここからの展開も深淵で、まさに現在進行形です。
積極性が評価されているのか、後手をもって採用する人が増えている印象があります。実際、2022年度は後手も互角くらいの勝率でした。
後手の対策、今後
2023年4月現在、角換わり腰掛け銀は後手の苦労が多いという認識があります。
待機すれば、先手が手を調整して都合のいい形に持ち込んできます。
▲4五桂を催促すると、陣形の乱れが大きくなってしまいます。
いずれの展開も、後手がしっかり研究していないと一発で持っていかれます。そしてなんとかリードを奪われずにすんでも、ようやく互角です。
そこに後手の辛さがあります。
では後手が全然ダメかというと、そんなことはありません。
「現在のところ、先手が手を調整してCに持ち込ませる指し方を防ぐ手段は見つかっておらず、おおむねCに合流する」と書きましたが、あくまで「現在」の話です。もし先手の調整を咎める順があれば、また別の展開をみせることになるでしょう。
(以下、2023年5月3日追記)
先手の調整を咎める順として、2023年4月に入って登場したのが下図の仕掛けです。
具体的な手順は、「テーマ図」から、△6三銀▲7九玉△3一玉▲2七飛△6五歩、というものです。
▲7九玉に△5二玉とすると飛車の位置を微調整することで「▲4五桂」のタイミングをはかられてしまいました。
△3一玉に「▲4五桂」といくのは銀が6三にいるのでやや無理気味です。
かといって、▲8八玉では△4二玉とされると手の調整に失敗します。
そこで、飛車の位置を微調整して△5四銀の瞬間に「▲4五桂」といくのが先手の▲2七飛の意味です。
△5四銀としなくても、先手の飛車の位置が悪いので仕掛けが成立するのではないか、それが△6五歩の意図するところです。以下▲同歩△5四銀とすれば、▲4五桂にも△6五桂とすぐにいける(△7五歩と味付けするのも有力)ので、攻め合いに持ち込みやすくなります。
上記のように進んだ実戦例もありますし、▲3五歩△6六歩▲3四歩、という攻め合いに進んだ実戦例もあり、いずれも若手棋士やトップ棋士が採用しています。
もし飛車の位置の微調整がうまくいかないとなると、先手が「▲4五桂」というタイミングを自分ではかれなくなる可能性があり、そうなれば角換わり全体の流れも変わることでしょう。今後の動向に注目です。
(以上、追記終了)
待機せずに先手の仕掛けを誘う指し方は、藤井竜王も採用しています。
今回紹介した以外にも、様々な策があります。後手側に有力な対策が増えると、先手も角換わり腰掛け銀を選ぶのに躊躇しそうです。
9筋の位を取らせる指し方もまだまだ可能性を秘めています。
角換わりは端の兼ね合いを調整することで進化した歴史があります。
この指し方がスポットライトを浴びる可能性もあるでしょう。
まとめ
「テーマ図」の概念が登場してから約6年が経ちました。
その間に、様々な展開が模索され続けてきました。
角換わり腰掛け銀はある程度まで研究でフォローできるため、すごい勢いで終盤戦に突入することもあります。
そのため、少しでもリードを奪われてしまうと勝敗に直結することもあります。駒組みでのわずかなスキが致命傷になるのです。
3年前に記事を書いた時点では、「テーマ図」で後手の分岐が多かったため、先手の指し方は整理されていませんでした。
しかし、その後3年が経ち、先手の指し方も整理されてきました。
特に、この1年ほどで、角換わり腰掛け銀の定跡は飛躍的に進化しました。
その理由は、藤井竜王が昨年6月から角換わり腰掛け銀をメイン戦法に据えたことにあるでしょう。
藤井竜王が研究を深めたことにより、対戦相手も藤井竜王を倒すために研究を深めることになり、その相乗効果が角換わり腰掛け銀の進化を早めました。
現在は、先手の勝率が高く、後手は苦戦しています。
ただし、苦しい時を経た後には、状況が変わることもあります。
どのようなトリガーで変化が生じるのかはわかりませんが、将棋は少しずつ進化していくものです。
私はこれからも盤上の物語を追っていきますし、皆さんにもお伝えしていきます。