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17センチの「いのちづな」

4,692g

4,692g およそ4.7Kgです。
何の重さだと思いますか?

私の体の中にある血液全部の重さ、だそうです。

生きている人間に関する数値は「概算」や「統計的ホニャララ」しか無いので、ズバリ!ビッタリこの重量ではないのですが、体重61Kgの成人女性の血液量なんて、たったこれっぽっちなんですって。意外と少ないものね。

この重さを「もっと具体的に、目に見える形で知りたいなー」と、家の中を見まわしていたら、お世話している水槽のサイズが気になりました。測ってみると、1辺が17センチのサイコロ型。

この真四角い水槽に、上から1センチだけ空間があくように水を入れています。
水槽に入れている水の量が、 17×17×16=4,624(立方センチメートル)
なんか、見た数字だわ…。

血液のうち約1割が「水以外の成分」と言われているので、草だの貝だのがごちゃっと入っている水槽って、意外と血液の成分と似ているかも。(ホントかな?今度調べてこよう……( ..)φメモメモ )

自分の総血液量と同じ量の水で、小さな生き物飼っている、ワタシ。
子どもの頃に憧れた、マッド・サイエンティスト風味♪ 気づかずにやっていたのね。こいつらの世話があるので、ゆっくり落ち込んでもいられなくなってしまいました。


おことわり

愛と感動のストーリーを期待していたらごめんなさい。
そういうお話、書きたかったです。
大変遺憾ながら、50を過ぎても中二病が治らない、希死念慮満載のフリーライターがバーゲンで買った水槽のせいで今日も生きているという、ありふれたお話です。

念のために書いておくと、水槽の水を飲んだり、飼っているエビを食べたりもしません。好き嫌いが多いので。
水槽内の生物との会話などもありません。

大事なことなので初めのうちに書いておきますね。この文章を読んでも、中二病は治りません。むしろ加速の方向を観測しています。腐女子が貴腐人になる可能性は微レ存なり。
では、本編です。



なぜ、水槽?

「宇宙に移住するとき、一番ナイスな癒しグッズ」だから

あ、暑さと〆切で逝っちゃった?って、思ったでしょ(笑
超超超マジメに考えて、専門家のアドバイスもコッテリ頂いた上での結論なのですよ。
説明しますね。

あと50年とか、もうちょっとかかるかもしれないけれど、そう遠く将来、
「不本意ながら宇宙へ転勤になる人や、それに帯同する家族」が普通に出て来ると思いますよ。(うろ覚え)
と、出演しているラジオのゲストに教えていただきました。
放送回はこのあたりです。
https://podcasters.spotify.com/pod/show/rikei-no-mori/episodes/168_-e275hkh
(鎌倉FM「理系の森」  第168回「仕方なく宇宙に住む人」ができる時代を想像してみる ゲスト:大野琢也さん 2023/07/22 放送)

Podcast  鎌倉FM「理系の森」アーカイブ より

そんな話を聞いて、「ぬぅぉっ!対策を立てねば!」と脊髄反射で準備を始めました。片手に希死念慮を握りしめつつも、50年後に転勤で宇宙に飛ばされる心配をする矛盾。これがニンゲン。


お話の中で、普通の人が普通に暮らすためには「普通の景色。特に海のような大量の水がある景色」があることがキーになるだろうという仮説に強く惹かれました。

切り取られた海といえば、そう、水族館。中村元(なかむら はじめ)さんが提唱する「水塊(すいかい)」の概念が、宇宙暮らしにも必要なのです。

だんだん選挙演説っぽくなってきました。時節柄、周囲の影響が抜けきっていないのかしら。生活環境って、大事。

そう、生活環境にいかに「水の塊」を持ち込むか
これを一足お先に解決出来たら、安心して宇宙へ転勤できますよね☆

つらつらと考えを巡らせるうちに、運命の出会いが降ってきました。


2023年9月30日16:00 ソレはすでに仕組まれていた

この日は、「理系の森」制作チーム主催のリアルイベントで、Gakkenさんのご協力の元、「顕微鏡で観察する会」だったのです。
ここで余った「オオミジンコ」を少し分けていただき、コストコで買った「柚子茶(特大)の空き瓶」で飼育を始めたのでした。

【注意】去年のイベントの時のチラシです【注意】


買っても買っても消えていく

観察で使ったミジンコは「オオミジンコ」という外来種です。オトナのミジンコは乾燥した無洗米よりもちょっと大きい感じで、フヨフヨと水中を漂う可愛らしい生き物です。直接目できることもできるので、ペットにしようと思い立ちました。

外来種なので、気軽に外に放したり、下水に流すことはできません。水替えの旅に大量の熱湯を用意して、捨てる水や使用器具を熱湯消毒しながら買っていました。

折角なので、お気に入りのパワーストーンで柚子茶びんの中を可愛らしく飾り、ちいさな水の塊を楽しんでみることに。


が、
が、
が、

消えます。

あまりに呆気なく消えてしまったので、通販で何度もオオミジンコを購入し、ペットとして可愛がろうとしました。

が、

ガンガン召される。

買っても買っても消えていくミジンコと、瓶底に積もった死骸(甲殻類なので、殻っぽいのが残る)を見つめ、

むしろ私が召されたい!!

と嘆く日々を過ごしました。



余談:召されたい系女子は〇〇ホイホイ


少し、過去のことを書いておきますね。

私はへその緒が首に巻き付いて、仮死状態で産まれてきたそうです。
本人的には「へー」しか、ないのですが、
生きる気力というヤツが、一般的な子どもより少ないというか薄いというか、そういうタイプでした。

そのせいなのか、どうなのか、社会へ出てからはあからさまなパワハラやテンプレ通りのセクハラに遭う事が日常で、
「大人になるというのは、そういうものだ」と信じて疑いませんでした。

当時心酔していた美輪明宏さんも、著書やコンサートでの生トークで「給料は我慢料」と仰っていて。まっすぐ信じた私は、だれもが同じように、
「とっとと召されたい」と願いながら暮らしていると信じ、疑っていませんでした。

「それは誤解だよー」と知ったのは、
東日本大震災よりもさらに後のことになります。

それで、なんでこんなことにスペースを割いたのかというと、フンワリでも希死念慮をもっているとい、ターゲットにされやすいんですって、いじめたい人に。
よく、「嗅ぎ分ける」って、いうでしょ。あれって、リアルにあるんだなって、いくつもの体験を総合して、思いました。

召されたい系女子が、その雰囲気を表に出すと「メンヘラ系女子」になるわけ。ざっくりね。メンヘラ系まぁ、男子もいるけれど、私の周囲は女子のサンプルが多いので、繰り返し被害者になりやすいなぁと、感じています。

召されたい系女子は、DV男ホイホイっていう眼鏡で世間を観てみると、今のところバッチリ当てはまっているなぁと思っています。

余談、おわり。


とはいえ、バケツリストでは止められない

将来への夢や希望を書き溜めたバケットリスト(バケツリストと呼んでいるけど)、死ぬまでにしたい〇〇個をもってしても、召されたい気持ちは消えることが無く、病院に通いつつ、なんとか恙ない日を送ろうと努力していました。

そんな時、宇宙移住のためにMy水槽をもう少しシステム化しようと思い、ホームセンターのバーゲンで17センチの水槽を2割引きで買いました。気を紛らわすために、ちょっと頑張ればできるミッションを課すのが、この頃の私の生存方法です。

老眼に耐えうる透明生物とその友達を召喚

とりあえず、ミジンコを入れるもあまりにスカスカで。

かえって病むほど寂しい景色になってしまったので、
 ・おとなしくて
 ・ランニングコストが低くて
 ・透明で
 ・老眼にも優しいサイズ【重要】
…の「オトモダチ」を召喚することにしました。

そうと決めたら、YouTube検索しまくりです。水槽系ユーチューバーのみなさん、本当にありがとうございます!勉強になりました。

スッカスカの水槽。とても寂しい景色です。

悩みに悩んで、選んだトモダチが、ミナミヌマエビという小さな淡水エビ、丸タニシマツモ(水草)を入れ、空気のブクブクも付け、エビをメインで飼うことにしました。


身長3センチあるかなーくらいの小さくて透明なエビ

試行錯誤と100均通いを続け、水槽の住人が死ななくなるまで8か月。

途中、ゴールデンウィークには一緒に旅行したりもしました。
(この後、元の水槽が安定するまで2か月かかりました…)

余っていた麦茶ポットに水の「メンバー」を入れ、自動車で移動♪



人生を変えたモーニング・ルーティーン

朝起きてから出かけるまでの毎日のルーティーンを納めた動画「モーニングルーティーン」というのが流行った時期がありましたね。今でも流行っているかしら?

なんとかベッドから這い出ることを第一目標に過ごしていた頃、偶然目にしたアメリカのドラマで、衝撃のシーンを見つけました。

ハイスクールの教室で、見るからにスクールカースト上位の女の子が
「Hey Guys」
と、言いながら、堂々と、そして軽い足取りで教室へ入り、
ゴキゲンな1日がスタートしていく。

アメリカのホームドラマにありがちなワンシーンですが、
その時、私は思いました。
「ああいう朝で始まる人生になりたかった…」

今となっては本心かどうかも分かりません。
ただ、その時の私は「Hey Guys」と、大きく見開いた目で、クラスメイト(いなかったけど)に言いたい衝動に駆られていました。

夫は仕事で外出中。
ペットのセキセイインコはお気に入りのおもちゃに夢中。
今、この瞬間手が空いている生命体は…

いた!

水槽の中に、いつの間にか繁殖していた貝たちが!!
複数形なので、貝s(かいず ← えぇ、書いていて恥ずかしいわよ)

寝起きの私。ヘアスタイルは貞子。来ているものはヨレヨレの介護用寝間着(ゆかたっていうか、そういうやつ)
オールモスト・お化けだろ!が、突然目を見開いて、
「はぃ、かーいず」
って、
アニメ声優風の高い声(吹き替えドラマだった)で、言ったのさ。


うん。病んでる。


大丈夫、自覚しているから。
我ながら、ヤバい奴。


でもね、すっごく気分が良かった。

その日から、今日まで、そして多分明日も、
私は言うの。

「はぃ、かーいず」
って、

あ、大丈夫です。
ちゃんと病院には通院しています。
社会人になって十数年目に盛大にメンタルをやりまして、その時以来、必要に応じて医療者の手を借りています。

異常なまでに寛大な夫氏(お侍)は、水槽の住人の増減に関して干渉せずにいてくれます。ありがたい。

話を戻しまして、
よく、メンタル系の本で
「朝起きてすぐに鏡に向かって笑顔で、自分を褒めましょう」
とか書いてありますよね。
私にはだいぶ無理ゲーでした。
そもそも自分の顔が嫌いだし、貞子状態で、浴衣の前は常にはだけている。


で、主治医にもはんなり相談したうえで、

朝イチはチアリーダーになりきって、水槽の貝たちに向かって
「はぃ、かーいず」
と、朝の挨拶をしています。
身なりはいままでどおり。
ヲタクの妄想力を朝一番からフルスロットルで解放です。
なりきるのです!
めっちゃ気分上がりますよ。
寝る前に「明日はどんなバリエーションで声かけしようかしらん♪」って考えていたら、悪夢で中途覚醒する回数も減りました。
貝、スゲー。

エビの方は、私よりも餌が気になるようで(そりゃそうだよね)、ピンセットで朝ごはん分の餌を無理やり手渡ししたりして、交流しています。


ここまで、水槽の中身については、
全て把握していると思っていました。

宇宙人が現れるまでは…


宇宙人襲来!!!!!


2024年6月28日朝8時07分 未確認生命体を激写しました。


水槽観察用の虫眼鏡を見失い、スマホカメラの拡大機能で水槽を観ていた時のこと。

全く記憶にない生物が映り込みました。
遮光土偶的面立ちは、まるで宇宙人です。


堂々と横切って行ったのでした


忙しくて放置気味でもあったのですが、すっかり成長されちゃって…。
水草か何かにトンボの卵がくっついていたのでしょうね。
増えすぎたスネイル(水草についてくる、貝のこと)をサボっているうちに、謎生物の成長を見落としてしまいました。
定期点検大事。
ほんと、大事ですよね。

Facebookに投稿したところ、冷静な賢者の皆様に「ヤゴだ」と諭され、もうどうにでもなれと放置を決行。

暫くして、毎日1頭ずつトンボに脱皮する、にぎやかでスリリングな食卓となりました。

試しに、割り箸を1本おいてみたら、こんなことに

脱皮のホットスポットです。


ダイニングテーブルの片隅に17センチ水槽があります。脱皮見ながら食事もアリですね。

脱皮って、命懸けなんだね

だから、ヤゴも真剣に「良い場所」を選ぶのです。
つい出来心で、横からボールペンを差し出して、
「こっちの棒はピカピカに光っていますよ」などと
からかってみました。

次の瞬間、私は大反省をすることになります。
ヤゴの細い手が、ハッキリ、キッパリ、ペン先を押し返してきたのです。
もちろん、私が手で感じるような、物理的な力は限りなくゼロ。計測不能な弱さです。

でも、カッと私の方を見て、1本の手で、拒否の意を示しました。


私は、トンボに断られたのです。

教科書的には、つまり、知識としては知っていましたが、ヤゴが水から上がり、殻を破ってトンボになって、空を飛べるようになるまで、ほんっつつつつ当に命懸けなのね。

生きるために必要な事は何か。
それは「断ること」かもしれないと、思いました。


幽体離脱かと思ったら、脱皮でした

やっと、命懸けの脱皮にも、その後の乾燥にも成功したのに、「水槽の蓋」の概念を知らなくて死んでしまったトンボも。

そりゃそうだ。自然界には蓋なんてないもんね。ごめんね。

ガン見してごめんね、トンボ。

ほとんどのトンボは、立派に巣立っていきました。
ファンタを飲もうとしたら、蓋にトンボが止まっていた時は、私の心臓がちょっと止まった。


幸いにもイトトンボの仲間なので、とっても小柄。私でも触れる。触らないけど。



大気汚染からの水質悪化事件

時間を少し巻き戻して、水槽のメンバーたちがバタバタ天に召されていた頃のことを書いておきます。

当時はまだ乾燥激しい冬の頃で、水槽は加湿器のような扱いを受けていました。いつも蓋を外しっぱなしにしていたのです。

置き場所は、今と同じだけれど、
家事をやる時は、キッチンカウンターに移動させ、水槽を眺めながらアレコレしていました。

はい、

勘の良い小僧は嫌いダゼ。

サスペンスモノで悪役が言うセリフ

でございます。

この時は、排水溝のヌメりを取るために、漂白剤をガンガンにつかって、時々咳き込みながらお掃除をしていたんですよ。

小一時間、何種類もの洗剤を使って、シンクやらその周辺やらをピカピカに仕上げたのです。エライ私。


翌朝、気づいたんです。


水槽のメンバーのうち、エビが全滅している…

冷静に考えれば、わかること。
空気中に飛散した洗剤やら、塩素やらが、水槽の水に溶けて、
特にそういう物質に弱いエビを殲滅したのです。

典型的な大気汚染事案。

わたしのバカ!!

他にも、
・ちゃんと外で日光浴させようと水槽を外へ出してカラスに襲われる
・見た目重視で出元不明のパワーストーンを大量に沈めて、魚から貝から全滅させる
・カルキ抜き剤の計測を雑に行って、水槽全滅
・自分が出かけるからとエアコンを切って、水温が限界を超えミジンコ全滅

…などなど、愚かな失敗を何度も繰り返し、学んできました。

5リットルにも満たない水なので、そうぞうよりも敏感の周囲の影響を受けるのでした。

もともとセキセイインコと暮らしているので、殺虫剤の類は使用しないなど注意してきましたが、ミナミヌマエビ、オオミジンコは、水槽の水がそのまま血液のようなもの。環境に敏感なのも当然なのに、ついつい、自分や小鳥と同じ基準で考えてしまいます。

彼らにとっては17センチの水槽が世界のすべて。そして、その水槽を世話できるのは世界中で私だけ。

イメージの中では、直径17センチの地球を世話する女神のような気持ちです。全くコミュニケーションができない相手をひたすら守ること。今の私に、私が課したミッションです。


なぜ、生きなければいけないのですか?

わかんない。

相変わらず、答えは出ていません。

でもね、

希死念慮の量は変わらないけれど、今は水槽のことでエネルギーを使っているので、いちいち相手をしていられないの。

明日はどんな風に
「はぃ、かーいず」
というか、まだ決まっていないの。

つまり、忙しいの。

あの小さなヤゴから、背丈が倍ほどにもなるトンボで出てくるときの無防備。あれこそ命懸けなんだぁって、珍しく感動してしまいました。

なぜ生きなければならないのか、相変わらずわかりませんが、
わざわざ今逝くことも無いかな、と思うようになりました。

そんなわけで、
今日も、貝ズに声を掛けるためベッドから這い出ることができています。

ありがとう、貝ズ。
ありがとう、水槽のみんな。
ありがとう、17センチの水槽をバーゲンかごに入れてくれたホームセンターの担当者さん。
ありがとう、どんな奇行も黙ってスルーしてくれる夫氏。


ありがとう、読んでくれたあなた。


クドイと思うけど、書きます。

どうしようもなく寂しいとき、
生きる意味が分からないと、途方に暮れるとき、
ジャムの空き瓶でタニシを飼ってみるといいわよ。

朝起きたら、言ってみて、
「はぃ、かーいず」
って。

きっとその日は、少し良い日になるから。




無理して元気を演じなくていいから、
いつか、また会いましょう。
その日まで、
どうぞ、ご安全に。


富山佳奈利拝








#創作大賞2024   #エッセイ部門 #水槽 #脱皮 #ミナミヌマエビ #イトトンボ


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