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千変万化

【千変万化】•••さまざまに変化すること

角川 最新国語辞典  山田俊雄 石綿敏雄 編


急に朝晩の気温が下がってきた。
日射しは暖かいけれど風は冷たくなった。
枯れ葉が風に舞う、カサカサという音が聞こえてくる。
見上げると、夏よりも空が高くなったことに気づいた。

ああ、秋だ。

近頃の秋は、気づかないうちにゆるりとやって来るということはあまりない。急に秋になったと、はっきりと見て取れることが多くなったように思う。

それでも、私は気づいてなかった。
いや、私が周りを見ていなかっただけか。

気忙しく日々に追われて、気にかけることもなかった。
やれやれ。と溜息をつく。
それほどに、私は余裕がなかったのか。

目に見える変化はわかりやすい。
見えない心は気づきにくい。
思考に遮られ、注意することすら、簡単に忘れてしまう。
人の言葉にはすぐ反応して、引きずってしまうのに。


考えが行ったり来たり、ぐるぐる回ったり。
こうしようと思っても、もっといい案はないかと考え始める。
決められずにあれこれ迷って立ち止まる。

今年の終わりが近づくにつれ、幾つもの出来事が重なって、もういいかげんにしてほしいと思った。

そんな時、ふと空を見上げた。

高く、真っ青な空。
吸い込まれそうな、何かが降りてくるような、青。
ごちゃごちゃした思考が止まった。

自然に呼吸がゆっくりに、そして深くなっていた。
鼻腔から喉を通り、胸までひんやりとした空気が届くのがわかった。

白く薄い雲や、灰色がかった少し厚い雲が漂っていた。
雲は、見る見る風に流され、形を変えた。
動物のように見えたり、何故か不気味に思えたり。
けれどそれもすぐに変わっていった。

ああ、美しいな・・・

他の言葉は出てこなかった。
常に何かしら考え事をしていたのに、出てこなかった。

しばらく、ただ空を見ていた。
空と、何も考えない時間に救われた。

汲汲として、いろいろなことを見落としていた気がする。
けれど、見落としてしまったものを想像するのは止めておこう。

せっかくの空が、時間が台無しになってしまう。

日が沈んでゆく。
オレンジの雲が広がり朱色へ、青い空が群青色へ。

全く同じ光景は、きっと見られない。

人間の世界の変化は、この空のようには美しくないことも多いけれど、美しいものがこの世界にあることを覚えていよう。

人だけの世界では無いことを覚えていよう。
常に変化する大きな世界の、ほんの小さな一部であることを、覚えていよう。






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