群論入門part9 同型(おまけ、二面体群)
※part10を投稿するかどうかはわかりません
※前回の記事はこちら
※誤植、間違いがあれば教えてください
9.1.同型
定義1
群G, G'と準同型F:G→G'に対し、Fが全単射であるときFをGからG'への同型写像、もしくは単に同型と呼ぶ。また、群Gから群G'への同型写像が存在するならGとG'は同型であるといい、G≅G'と表す。
※準同型の定義は群論入門part8の定義1を参照
※全単射の定義は群論入門part2.2の2.6節を参照
例1
整数全体の集合ℤは足し算について群である。また、偶数全体の集合2ℤも足し算について群である。このとき、写像F:ℤ→2ℤ:n↦2nは全単射である。(各自確かめよ)
さらに、n,m∈ℤに対しF(n+m)=2(n+m)=2n+2m=F(n)+F(m)が成り立つので、Fは準同型。よって、Fはℤから2ℤへの同型写像となる。
例2
集合{1,-1}は掛け算について群となる。写像F:{1,-1}→ℤ/2ℤをF(1)=0、F(-1)=1と定めると、Fは同型写像となる。
※ℤ/2ℤの定義は群論入門part5の例6を参照
命題1
群G,G'と同型F:G→G'に対し、Fの逆写像F⁻¹:G'→Gも同型写像となる。
※写像Fは全単射であるから、Fの逆写像が存在する。詳細は群論入門part2.2の命題2と定義4を参照。
証明
元g',h'∈G'に対し、Fは全単射であるからF(g)=g', F(h)=h'を満たすGの元g,hがそれぞれ(唯一)存在する。このとき、
F⁻¹(g'h')=F⁻¹(F(g)F(h))=F⁻¹(F(gh))=gh=F⁻¹(g')F⁻¹(h)となるのでFは準同型。さらに群論入門part2.2の命題2より全単射写像の逆写像も全単射となるので、F⁻¹は同型写像。▢
命題2
群全体からなる集合をJとするとき、同型を表す記号≅はJ上の同値関係となる。
※同値関係の定義は群論入門part5の定義1を参照
証明
(反射律)
任意の群G∈Jに対し恒等写像id:G→G:g↦gはGからGへの同型写像となるため、G≅Gが成り立つ。
(対称律)
群G,G'に対しG≅G'が成り立つとする。すなわち同型写像F:G→G'が存在する場合、命題1からFの逆写像F⁻¹:G'→Gも同型写像である。したがってG'≅Gが成り立つ。
(推移律)
群G,G',G''に対しG≅G'、G'≅G''が成り立つとすると、同型写像F:G→G'、E:G'→G''が存在する。まず、写像E,Fは全単射なので、合成写像E◦Fも全単射。また、E, Fは準同型であるから、g,h∈Gに対し
(E◦F)(gh)=E(F(g)F(h))=E(F(g))E(F(h))=(E◦F)(g)(E◦F)(h)
が成り立つ。以上からE◦F:G→G''は同型写像となるためG≅G'が成り立つ。▢
9.2.二面体群(S₃と同型な群の一例)
定義2
自然数nに対し、2次実正方行列T,Rₙを以下のように定める。
このとき、Dₙ=〈T,Rₙ〉を二面体群という。
※生成される群〈・〉の定義は群論入門part3の定義5および命題4のRemを参照
Rem
Dₙの単位元は2次単位行列。
問1
Tの位数は2, Rₙの位数はnである。
※元の位数の定義は群論入門part3の定義7を参照
※問1のヒントと解答はこちら
Rem
問1から、i,j∈ℤに対してiを2で割った余りをk, jをnで割った余りをhとすればTⁱ=Tᵏ, Rₙʲ=Rʰが成り立つ。特に、T⁻¹=T, Rₙ⁻¹=Rₙⁿ⁻¹である。
命題3
TRₙ⁻¹=RₙTが成り立つ。
証明
TRₙT=Rₙ⁻¹を示せばよい。左辺を計算すると
ここで上の計算式で得られた行列をRとすると、行列の積および三角関数の加法定理により、RₙR=RRₙ=Iを得る。(各自確かめよ)これよりR=Rₙ⁻¹となるのでTRₙT=Rₙ⁻¹を得た。▢
命題4
Dₙの任意の元は整数i, jを用いてTⁱRₙʲと表される。
証明
Dₙ=〈T,Rₙ〉の各元は、自然数i(1),i(2),...,i(m),j(1),j(2),...,j(m)を用いて、Tⁱ⁽¹⁾Rₙʲ⁽¹⁾Tⁱ⁽²⁾Rₙʲ⁽²⁾...Tⁱ⁽ᵐ⁾Rₙʲ⁽ᵐ⁾と表される。ただし、i(k)(kは1からmまでの自然数)が奇数ならばTⁱ⁽ᵏ⁾=T, 偶数ならばTⁱ⁽ᵏ⁾=Iとなるため、便宜的にi(2)=...=i(m)=1として議論を進める。
これより、Tⁱ⁽¹⁾Rₙʲ⁽¹⁾Tⁱ⁽²⁾Rₙʲ⁽²⁾...Tⁱ⁽ᵐ⁾Rₙʲ⁽ᵐ⁾=Tⁱ⁽¹⁾Rₙʲ⁽¹⁾TRₙʲ⁽²⁾...TRₙʲ⁽ᵐ⁾。
(i)m=1のとき、i(1),j(1)はともに整数であることより成り立つ。
(ii)m=hのとき、Tⁱ⁽¹⁾Rₙʲ⁽¹⁾TRₙʲ⁽²⁾...TRₙʲ⁽ʰ⁾=TⁱRₙʲで表されると仮定する。
m=h+1のとき、
Tⁱ⁽¹⁾Rₙʲ⁽¹⁾TRₙʲ⁽²⁾...TRₙʲ⁽ʰ⁾TRₙʲ⁽ʰ⁺¹⁾=TⁱRₙʲTRₙʲ⁽ʰ⁺¹⁾=TⁱTRₙ⁻ʲRₙʲ⁽ʰ⁺¹⁾=Tⁱ⁺¹Rₙʲ⁽ʰ⁺¹⁾⁻ʲ
となり、i+1, j(h+1)-jはいずれも整数であるからこの場合も成り立つ。▢
命題4の系
Dₙ={TⁱRₙʲ|i=0,1、j=0,1,...,n-1}と表され、位数は2nである。
証明
命題4からDₙ={TⁱRₙʲ|i,j∈ℤ}と表されることが分かったが、問1およびそのRemからi, jの範囲はそれぞれ0≦i≦1、0≦j≦n-1で十分であることがわかる。ゆえにDₙ={TⁱRₙʲ|i=0,1、j=0,1,...,n-1}。またこれより、位数が2nであることもわかる。▢
命題5
S₃≅D₃。
※S₃の定義や互換の定義は群論入門part2を参照
証明
写像F:S₃→D₃を次のように定めると、これは全単射な準同型となるから同型。
F(e)=I, F((1 2))=T, F((1 2)(2 3))=Rₙ,
F((1 2)(1 3))=Rₙ², F((2 3))=TRₙ, F((1 3))=TRₙ²。▢
問2
気になる人は、命題5の証明で出てきた写像Fが実際に全単射な準同型であることを確かめよ。
以上
追記
この記事のやや補足的な内容の記事を投稿しました
追記
part10を投稿しました。準同型定理、同型定理についてです。