空白期間②
無職になってから優に半年が経とうとしている。
クレーム処理で稼いだ貯金残高はこの半年で徐々に、そして確実に減っている。
仕事のストレスが無いのはありがたいが、そのうち経済的ストレスが代打、登板の流れになることは明らか。
7月の半ば、我々が計画している今後のビジネスプランの進捗をVに問い詰める。
予定としては彼の叔父が所有する物件を借りてのレストラン立ち上げ、しかしこの期に及んで賃貸契約は終了している前テナントが居を据えており、まだまだ出ていかない様子。
そんなわけだからさ、実店舗を持つのはもうちょっと先になりそうだよねぇ
を悠長なVのトーンで繰り返されて、もはや1年近くになる。
それさ、なんなら2年前から言ってるよね?
先延ばしを続けるだけで、叔父さんにプッシュかけたり、他の物件視野に入れるとか、具体的に動こうとはしないの?
そうなんだけどねぇ、
依然すっきりしないVの回答に業を煮やして7月の頭、
私は半ばブチ切れたトーンでVに畳み掛ける。
今年中に具体的な行動に移す気が無いなら、VISAの件は一旦なしにして日本に半年でも帰ろうと思ってる。リンギットも目減りするばかりだし。
具体性のないビジネス計画を練り続けるのは精神上不衛生だし無意味、そして何よりも30代後半の自身のキャリアにこれ以上の空白期間は不要。
生きるには何よりもお金も必要だから。
と、結構な緊張感を持って。
Vは動揺して、同時にかなり落ち込んでいた。
実行力の無い人間とビジネスを展開できないとのオブラートに包んだ暗喩が、しっかり届いた様子。
このずっしり重い不穏な空気、おちゃらけなどではぐらかすことなぞ許されるえわけもなく、プレッシャーなのか低気圧のせいなのか、Vは私に返す言葉なくベッドに突っ伏してそのまま入眠した。
何日かして、彼がアイディアを出してくる。
ホームキッチン、ゴーストレストラン形態のなら、すぐにはじめられると思う、と。
実店舗を持たない、デリバリーに特化した専門のレストラン。
これなら少額投資で始められそうだし、後々実店舗を持ったときにも器具機材はそのまま使用できる。
善は急げ、使えるアイディアは実行のみ。
だったら、あなたともうしばらくKLで暮らします。
こうして7月下旬にやっと、Vは2年という月日+私という存在を歩行器に凝り固まった重い腰をようやくあげて、飲食事業プランのウォームアップをはじめるのだった。
過去を振り返って、人生で本当にやりたいことは全部やってきた私に取って、チャンスが来るのをただ寝て待つなんてことは到底できない。
愉しいことは、急げ。
10年に及ぶ放浪生活に取って代わる、新しい航海の幕開けである。
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