カラーとモノクロ 18
ソープカービングを目の前で見ると、繊細な透かし彫りやデザインの豊かさに驚く。使用される石けんの色も香りも様々で、見る人の心を和ませる。
石けんの堅さは欠けや剥離を誘わないのだろうか。
石けんのなめらかさがナイフの刃を滑らせそうだ。
そんな心配をよそに、作家はあの小さな固形物からアートを生み出してゆく。
カービングの発祥は13世紀のタイに始まる。スコータイ王朝時代の儀式に、果物に装飾として彫刻を施したのが始まりという。現在も、タイの伝統工芸として知られている。
専用ナイフで彫刻をする材料が、果物ならフルーツカービング、野菜ならベジタブルカービング、石けんならソープカービングということになる。
そのためのカービングナイフはいろいろな種類があるようだ。
ソープカービング用の石けんは、スーパーやドラッグストアで売っているのとは違い、削りやすく柔らかな材質、何色もあって美しい。
ソープカービングの技術を持っていると、石けんよりさらに柔らかな果物や野菜などはお茶の子さいさいでカービングできるようで、私の友達のKyokoさんはスイカやメロンのような大型の果物を結婚式のテーブル飾りのようにすることができる。
こういうことが出来る人は少なく、プレゼントにたいそう喜ばれることから、教室を持って教えたらいいのにと彼女に言ってみたが、カービング用のナイフは鋭く、なかなか扱いが難しいらしい。手を切るとなかなか大変なのだということで、あまり素人には教えたくないようだった。経験がない人はみんな素人なので、経験してみてから(教えてみてから)考えてもいいのではとも思うが、大怪我をされたら大変(なにしろ鋭い刃物なので)という気持ちは理解できる。彼女は優しい人なのだ。
売る気もなく、作るのが楽しみで続けているソープカービングも、数がたくさんできてしまうので飾り棚がいっぱいになる。そうすると家族や友達(私とか)の家に配られる。繊細でよい香り(香りもそれぞれ違う)、プレゼントとして喜ばれる。
ずっとひとりでやっていると、好きでやっていることでも、努力の成果を誰かに見て欲しいときがある。誰でもそう。そういうときは作品展をして見てもらったあと、やっぱり誰かに差し上げてしまう。
透明ケースに入れると飾りになる。日の当たらないところに置いておけば色もあまり褪せない。引き出しに入れておけば衣類に移り香が残る。香りも色も悪くなったら石けんとして手を洗う。もちろん、作るときの削りかすも手を洗うときに使っている。捨てるところのないアート作品だ。
石けんが空洞になる透かし彫り、バラやプルメリアなどの美しい花びら、桜や格子の複合デザインなど、見る人が驚いたり微笑んだりするような作品展を、コロナの流行が収まる頃に、また見せて欲しいと願う。
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