カラーとモノクロ 15
知人に似顔絵描きが三人いるんです。
ひとりは色紙に筆ペンと朱で描く昔ながらのやり方でした。その後、絵の具を使うようになり、色彩が豊かになりました。今でも輪郭を筆ペンで描くので、迫力があります。
ひとりは色鉛筆やマーカーを使い、やさしくほんのり色を付けたほのぼの系似顔絵描きです。その後、LINEスタンプを手がけたりして、はっきりした線のスタイリッシュな似顔絵も描くようになりました。
ひとりはペンタブを使い、キラキラした瞳につやつやの頬、天使の輪を冠した髪といい、リアルといえないのに実在感がある。背景に花や星をあしらい、描かれた人はまるで少女漫画の主人公になった気持ちになれる。
みんな素晴らしい才能をお持ちだと思います。
さて、今日はその筆ペンの似顔絵描きの話をしたいと思います。
彼は父親がとても厳しくて、絵が好きであるにもかかわらず、外で自分の絵を発表したり、絵描きたちと交流したりすることを禁じられていたそうです。
家にこもって、テレビで映画やドラマを山ほど見て、登場人物たちを次々と描いていきました。
それらは、誰にも見せないで溜まっていきました。
50歳を過ぎたあたりから心境が変化して、父親に反発してでも自分のやりたいことが出来るようになりました。
外に出て会った人を描く。描きたくて止まらない。
絵描きが集まるところへも行く。
個展もする。
企画展にも参加する。
やっとやりたいことが出来るようになった。
絵を描くスピードも上がって、どんどん作品が生まれるから、個展もつぎつぎと計画する。
なのに、彼は突然右目を失明してしまったのです。
糖尿病が原因ということでした。
私はそれを知ったとき、とてもショックだったし、気の毒に思いました。
やっとこれからというときに、そんな目に遭うなんてひどすぎます。
でも、彼は生きていることの意味、時間の貴さを考えたようです。
悲しいし、悔しいけれど、人生はうまくいかないものだ。うまくいかなくて当たり前のものだから、なんていうことはない。ただ、時間を大切に生きること、それだけだ。
個展の色紙に書かれていました。
その個展の似顔絵は、どれも今までの作品よりも明るい色で塗られて、海外ぽいというか、うんと垢抜けた爽やかさを感じさせました。
私は彼の失明にショックを受けたのに、それらの絵を前にするとなぜか自分が励まされた気がしました。彼が落ち込んでいないはずはないのに。それなのに。
ただ在ることをそのまま受け入れる、ということは昔から禅の世界でもいわれていることです。
でも、ありのまますべてを受け入れることが難しいのが人間です。
すごいなあ、彼は。
実は私も母親が厳しくて、幼児期に絵を描くことを禁じられました。
私は絵を描くことが大好きだったのに、母親は私から絵の世界を取り上げたのです。私は母に隠れて絵を描き続け、家を出てからは自由に絵が描けるようになりました。
そんなこともあって、彼に親近感を抱いていました。
彼の右目はもう治らないかもしれないけれど、絵は描き続けられるでしょう。だってそれが彼のアイデンティティだから。
私は6年前に大きな怪我をして、絵が描けなかった時期がありました。でも、描くために努力をして、つらいリハビリも頑張って、また描けるようになりました。
誰もが自分の自分らしい生き方を全うするために、毎日頑張っています。
あなたもですよね。
あなたの人生があなたらしく輝きますように。
時間は永遠のものではないことを、忘れないようにしましょう。
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