カラーとモノクロ 19
先日訪れた抽象画家の個展にて、いつも作品を拝見するだけでお会いすることができなかったご本人と、ようやくお話しすることができた。
海外へも勉強に行き、国内では個展を始め画廊、仲間との展覧会、出版物の挿絵や装丁など、とてもご活躍されていて、作品はたくさんのひとに愛されている。
フランクで腰の低い方であった。学校で教諭をされてきて、たくさんのひとと話をしてきたのだろう。
そんな方が、最近また具象絵画(写実的な絵)を描きたいと思うようになったという。その作品が会場に飾ってあった。
たぶん絵のはじめは具象画であったはずだし、そこを越えて抽象を選んだのだろうに。それを自分のものにするために頑張ってきたのだろう、と思うのに。
やはり自然の風景にとても心惹かれるという。普段から、風景写真もお撮りになっている。
抽象画と言っても、かの人の作品は常に風土から生まれるような、清涼な空気感、凍える雪原、春を待つ裸の樹木などを連想させる。清涼、は現地で言うなら芳しい土の香りに堆肥のにおいも含まれるかもしれない。凍える、を現地で言うならシバレる、だ。北の大地は冬が長く、その分春が待ち遠しくうれしいものだ。長い寒さを乗り越え、凍えた心を温めるもの、それは食べ物だけじゃなくて人の心でもある。人が生んだアートでもある。
もう一度立ち返ることにどんな意味があるのだろう。抽象画はやりつくしたということか、いや、アーティストは決してやり尽くしたと思うことがない生き物だ。ならば、新たな表現への旅に出るということだろうか。アートの旅路は厳しいが楽しいだろうと想像する。もちろんアートを続けるということは苦しいこともある。つらい時期もあるだろうけれど、たくさん楽しんでください、と願う。その旅のあとの作品を、またみんなに見せてください。
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