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第9回W選考委員版「小説でもどうぞ」応募作品:友だちと幼なじみ

第9回W選考委員版「小説でもどうぞ」の応募作品です。
テーマは「友だち」です。
なんだか難しいテーマでしたががんばりました。
ちょっと消化不良感はありますが……

友だちと幼なじみ

 ちいさな頃から一緒に育った友達がいる。僕が生まれた日に、お父さんがうちに連れてきた柴犬で、当時この子もまだ赤ちゃんだったと聞いている。
 僕も友だちも、赤ん坊の頃から一緒に過ごしてきた。小学校に入ってから、友だちと一緒に毎日散歩もした。
 友だちはとても元気で優しくて。だから僕は、学校でどんなにいじめられても頑張れた。
 友だちがいるから泣かずにいられた。
 いつも通りの休日、友だちと近所を散歩する。一時間くらい散歩をして家の前に帰ってくると、お向かいさんの孫、つまりは僕の幼なじみとばったり会った。
「久しぶり」
 僕がそう声をかけると、幼なじみはいつものようににっと笑って返す。
「おう、久しぶり」
 幼なじみは幼稚園に入る前に他県に引っ越していて、月に一回会えるか会えないか。中学に入ってからは数ヶ月に一回会えれば良い方になっていた。
 幼なじみが心配そうに僕に訊ねる。
「最近、学校はどうだ?」
 その問いに僕はうまく答えられない。学校でいじめられているなんて、そんなこと言えそうにないのだ。
 だから、僕は幼なじみに訊ね返した。
「そっちはどう?」
 すると、幼なじみは困ったように笑ってこう答える。
「まあ、授業はともかく、部活は楽しいよ。
 友だちも何人かいるし」
「そっか。良かった」
 幼なじみは昔から人当たりが良いし、人懐っこいから友だちがいること自体になんの疑問もない。でも、何人も友だちがいることがうらやましく感じられて、僕は友だちの柴犬を抱き上げてこう言った。
「友だちがたくさんいるのは良いね。
 僕の友だちは、この子だけだから」
 すると、幼なじみが少しむっとした顔でこう言った。
「なんだよ。俺はお前の友だちじゃないのかよ」
 その言葉に僕は戸惑った。
 幼なじみのことが嫌いなわけではない。むしろ好ましく思っている。でも、今まで幼なじみのことを友だちだを思ったことがなかったのだ。
 予想もしていなかった幼なじみの言葉に思わずうつむく。
「あの、君のことを友だちって呼んで良いのか、わからなくて……」
 抱えている友だちの後頭部に顔を埋めて僕がじっとしていると、幼なじみの声が聞こえてくる。
「俺は、お前のこと友だちだと思ってるけど」
 その言葉に、なにも返せない。僕が今、この言葉をどう受け止めているのか自分でもわからないのだ。
 幼なじみが言葉を続ける。
「お前が俺のことどう思うかはお前の自由だけど、それはそれとして、今まで俺のことなんだと思ってたんだよ」
「え? 幼なじみ……」
 僕がそう小声で答えてそっと顔を上げると、幼なじみは頬を膨らませてむくれている。
 僕にとっては、友だちになるということはあまりにもハードルが高くて、そう簡単になれるものでもないと思っていた。
 今腕の中に抱えている友だちは、紛れもなく友だちだと言える。だって、毎日一緒に過ごして、毎日一緒に散歩をして、毎日お互いのことを必要としているから。
 でも、目の前の幼なじみはどうなのだろう。
 毎日顔を合わせているわけでもない幼なじみを、友だちと呼んで良いのかがわからない。
 友だちになりたくないわけじゃない。僕はたしかに、幼なじみと友だちになりたいのだ。でも、自信がなかった。
 僕はふわふわの友だちをぎゅっと抱きしめて、緊張しながら幼なじみに訊ねる。
「僕も、君のことを友だちって言っていい?」
 すると、幼なじみはうれしそうに笑ってこう言った。
「もちろん。ずっと友だちだと思ってたって言ったろ?」
 その言葉にひどく安心する。腕の中の友だちも、僕のことを見上げてうれしそうに笑ってる。
「……ずっと友だちって言えなくてごめんね」
 僕が幼なじみにそう言うと、幼なじみは僕の頭をわしわしと撫でて言う。
「気にすんなって。まあ、今までとなにか変わるわけじゃないしさ」
 頭を撫でるやさしい感触に、僕は思わず涙をこぼす。
 学校でいじめられていることを話しても、きっとこの人は受け入れてくれる。

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藤和
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