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第37回「小説でもどうぞ」応募作品:ひまわりを君に

第37回「小説でもどうぞ」の応募作品です。
テーマは「すごい」です。
いつもながらなかなか悩んだのですが、個人的にはほのぼのするお話になったかなと思います。
楽しんでいただけたらさいわいです。

ひまわりを君に

 高校時代の後輩から手紙が届いた。
 生物部の後輩でとにかく愛想が良くてひとなつっこくて、二学年上の俺にも良くなついていたやつだ。
 先日送った暑中見舞いのお返しなのだけれども、こちらから送ったのは絵はがきだったのにもかかわらず、便箋二枚にわたる丁寧なお返しだ。
 後輩から届く手紙からは、いつもさまざまな良い匂いがする。封筒の中に同封されている、ちいさな袋から匂いがうつっているようだった。
 この袋はなんなのだろうと思って、ずいぶんと前に調べた。調べるのには難儀したけれど、どうやらこれは文香というものだというのがわかった。
 俺じゃあなかなか調べられないようなこんな小物を使いこなすなんて、後輩もなかなかに風流だ。高校時代はこんなイメージなんて無かったのに。
 もう何年も続けている年に数回のやりとりで、実は後輩はお香が好きだということを知ったのはいつのことだったっけ。
 なるほど、部屋でお香を焚くから制服にその匂いがうつって、学校で近くにいる時、かすかにいい匂いがしていたのか。あの時は、気のせいかそうでなければ香水かと思っていたけれど。
 俺の記憶にある後輩は、とても元気でやんちゃで、でも、今思い返すと静かに読書をしてることもある、少しギャップのあるやつだ。
 読書が好きだというのも意外だったけれども、お香が好きだという一面があるなんて想像もしていなくてとてもおどろいたっけ。
 後輩からの手紙の匂いを嗅ぐ。甘い木のような匂いだ。とても心が落ち着く。
 こんな気遣いができるなんてすごい後輩だな。そのことを少し誇らしく思いながら、もしかしたらあいつは良家の生まれなのかもしれないという考えが頭をよぎる。
 まあ、良家の生まれだろうがそうでなかろうが、後輩と俺の関係は変わるものではないけれど。
 いつも丁寧な手紙を送ってくれる後輩に、送り返す夏の返事は決まっている。
 こちらから送った暑中見舞いの返事に、さらに返事を返すのもなんだかおかしいなとは思うけれど、後輩が手紙の中でお返事待ってますなんて書いているのだから、つい張り切ってしまう。
 ふと、アルミのサッシ越しにベランダで咲いているひまわりの花を見る。そっぽを向いて黄色い花びらと大きな葉をを風になびかせている。
 今年も撮ったひまわりの写真をフォトアルバムから取り出して、机の上に広げる。
 さて、どのショットを送ろうか。
 毎年種から育てたひまわりの写真を撮って、どんなふうに咲いたかを後輩に知らせている。
 ひまわりを育てるようになったきっかけは悲しいものだったけれども、俺は毎年ひまわりの花が咲くのを楽しみにしているし、後輩もひまわりの便りを楽しみにしているようだった。
 今となっては写真をスマートフォンで送ることもできるし、そっちの方が簡単だというのはわかっている。それでも、スマートフォンが無かった頃のように、わざわざ現像して送っているのだ。なんとなく、その方が風情がある気がして。
 これは多分、手紙でのやりとりを後輩と続けているからそう思うだけかもしれないけれど。
 後輩のことを思い浮かべながら、ひまわりの写真を選ぶ。散々写真の上で手をさまよわせた末に、後輩と過ごした高校時代を思い出すようなショットにした。
 こんなチョイスももう毎年のことだな。思わずくすりと笑ってしまう。
 写真を送ると、毎年ひまわりを咲かせてすごいと後輩からまた返事が返ってくる。少なくとも去年まではそうだった。
 後輩はひまわりの写真を見て、今年もすごいと言ってくれるだろうか。
 いや、それよりも、今年こそ夏のうちに、ひまわりが咲いているうちにうちに遊びに来てくれないだろうか。
 後輩の屈託のない笑顔を目の前で見たい。
 ベランダの向こうにそっぽを向いているひまわりを見て、すごいと言う声を生で聞きたい。
 後輩と手紙でやりとりをしていると、気持ちが高校時代に戻る。
 一緒に過ごせた時間はすごく短いはずなのに、こんなに長く関係が続いていることにおどろいてしまうけれど、お互いに忘れ去って他人になったり、険悪になったりするよりはよっぽど良いだろう。
 前に後輩がうちに遊びに来たのはいつだったっけ。去年の冬頃だっただろうか。
 その時のことがひどく遠い昔に感じる。後輩とまた会えるというのはわかっているのに、その時が待ちきれなくなる。
 それでも手紙でのやりとりを続けるんだ。なかなか届かなくてもどかしい、アナログな言葉のやりとりを。
 このゆっくりとした時間の流れがあるから、俺と後輩は今でもつながっていられる。
 たしかにもどかしく思うことはあるけれど、これってすてきですごいことじゃないか。

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藤和
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