第11回W選考委員版「小説でもどうぞ」応募作品:未必の殺意
第11回W選考委員版「小説でもどうぞ」の応募作品です。
テーマは「善意」です。
今回はすんなりネタが浮かんだ気がします。
供養しますので楽しんでいただければさいわい。
未必の殺意
最近うちの子の面倒をたまに見てくれる人がいる。私と同い年くらいで、きれいな女の人だ。
聞いた話だと、その人は他の地域に住んでいるらしいのだけれども、たまにこのあたりに遊びに来るとのことだった。
このあたりは特に遊ぶところもないのに。という疑問を彼女にこぼしたところ、彼女はくすくすと笑って、このへんに仲のいい知り合いが住んでいるし、その人たちにも子供がいるから、ついつい他の子供達のことも気にかけてしまうとのことだった。
彼女には子供がいないらしい。だからなのかはわからないけれど、彼女はこのあたりに来るたびに、公園で遊ぶ子供達のことを見守ってくれた。彼女がいてくれているときは、私たち母親も子供たちを置いてスーパーに買い物に行ったりできて、ほんとうに助かっていた。
近所のママ友も、彼女がいてくれて助かると言っている。いつだったか不審者が公園に入り込んだとき、彼女が不審者を追い払ってくれたこともあったようで、ママ友達から彼女に対する信頼は厚くなっていた。
知り合いの子供がいるって言うだけでこんなに子供達を見てくれるなんて、ほんとうに善意のあるいい人だと話題になっていた。
私も、あの人のことを気がつけば信頼していた。なかなか言うことを聞かないうちの娘のことを、彼女ならうまく扱ってくれるからだ。彼女に娘を任せている間、私はどれだけ気が楽になるか。これはきっと、他のママ友も同じだろう。けれども、誰も彼女の名前を知らなかった。
ある日のこと、娘があの人と一緒にピクニックに行きたいと言い出した。
いくらお世話になってるとはいえ、名前も知らない人をどうやって誘うのか。
すこし悩んだけれど、私としても彼女にはお礼をしたい。連絡先も知らないけれど、今度あったときに誘うだけ誘ってみよう。そう思って、娘には今度誘ってみるね。と言う。
娘はうれしそうに跳ね回った。
そして数日後、なんとかあったときにピクニックに誘うことができ、私たち家族と彼女の四人で、近所の土手までピクニックへと出かけることになった。
いつもの公園で待ち合わせる。彼女は娘がよろこぶようなお菓子をしっかりと用意してくれていた。
さっそくじゃれつく娘を見て、彼女は娘に言い聞かせる。
「水筒を落とさないように、ちゃんと首から下げてないとだめだよ」
キリッとした顔で頷く娘が微笑ましくて、思わずほっこりした。
そして家族と彼女で土手へと向かう。土手の上の道を歩いているときに、ふと娘が躓いて転んでしまった。
かなり派手に転んだので大けがをしていないか心配だったけれども、彼女がすぐに助け上げてくれた。
「大丈夫?」
私が屈んでそう訊ねると、娘は頬を膨らませて答える。
「だいじょうぶ! きょうはおねえさんとあそぶの!」
そして、ずんずんと歩きはじめた。
ああ、なにごともなくて良かったな。そう安心して、助け上げてくれた彼女に頭を下げた。
事態が急変したのはそれからしばらく経ってからのことだった。
娘の元気がだんだんとなくなっていったのだ。
はじめは風邪かと思ったけれども、それにしてはようすがおかしい。ごはんも食べようとしないし、しまいにはおなかを抱えてうずくまって動かないのだ。
病院に行こうにも病院はもう閉まっている。私は慌てて救急車を呼んだ。
そしてかつぎ込まれた病院で検査を受けた結果、内臓破裂をしていると告げられた。
どうしてそんなことに? 混乱する私に医者が訊ねる。
「娘さんは最近、なにかにぶつかられたり転んだりしてませんか?」
「えっと……」
記憶をたどって思い出す。ピクニックの時に転んでいたけれど、あの時はなにごともなっそうだったはずだ。それでも一応、そのことを医者に告げる。
すると医者は眉をピクリと上げる。
「その時に、水筒を首から下げていませんでしたか?」
私は黙って頷く。すると医者曰く、首から下げていた水筒が転んだ拍子で内臓を圧迫して、破裂したのだろうとのことだった。
まさかあの人の善意がこんなことになるなんて。私は泣くことしかできなかった。
それから間もなく娘は亡くなった。
葬儀も終わった頃にあの人がいつもの公園に現れたので、娘がピクニックのあとに亡くなったことを告げる。
きっとこの人なら一緒に悲しんでくれると思ったのだ。
なのに、彼女は不気味に笑ってこう言った。
「きっと罰が当たったんですよ」
何を言っているのだろう。娘はなかなか言うことを聞かない子だったけれど、なにも悪いことなんてしていないのに。
感情がぐちゃぐちゃになって何も言えないでいると、彼女はさらに言う。
「あなたが小学生の頃いじめていた人に、呪われたんじゃないですか?」
何を言っているんだろう、私はいじめなんてしたことがないのに。そんなことをした覚えはないのに。
そう思って彼女の顔を見ると、小学生の頃よく私が遊んでやるたびに泣いていた、男の子の面影があった。