あさりのこと
思い出したことがある。
うちの猫は、あさりという。
「あさり です」と答えると、たいていの人は「え?」と聞き返す。
あさり…猫の名前にしては珍しいのか。そんなことはないと思う。
そして「どうして、あさりちゃんなの」と聞かれるけど、答えられない。
あさりはうちに来る前からあさりだった。
「愛護センターでの名前が、あさりだったから」と答えると、不思議そうな顔をされる。ペットをお迎えしたら、自分たちで名前を付けるのが一般的なのかもしれないと気づいたのは、ずいぶんと後だった。そういえば、子どもたちが一生懸命名前を考えていたのに、私が「あさりはあさり」と宣言した時、悲しそうだった。
あさりは、2歳の時に動物愛護センターから我が家にやった。
小学4年生からアフタースクールがないので、子どもたちが帰ってきたときに誰かがいてくれると嬉しいだろうなと思ってお迎えした。
あさり という名前は、愛護センターでつけられていた名前だった。
由来は知らない。
センターで「あさり」と呼ばれていたかどうかもわからない。
もしかしたらただの(仮名)だったかもしれない。
けれど、出会った時からあさりは、あさりだった。
どうして、そのまま「あさり」こだわったのか。
それを思い出した。
アルプスの少女ハイジだ。
私はアニメ「アルプスの少女ハイジ」が大好きだった。
自然の中で無邪気に走って転げまわって笑うハイジは、私の憧れだった。
そのハイジのお話の中で都会に連れていかれたハイジが、教育係のロッテンマイヤーさんに「ハイジ」でなく「アーデルハイド」と呼ばれる話がある。
自分の慣れ親しんだ名前ではなく、別の名前で呼ばれて返事をすることを強いられるハイジは、やがて夢遊病になっていく。可哀そうで観ていてつらかった。後で、「ハイジ」は愛称で「アーデルハイド」が正式な名前なので間違いではないらしいと知ったけれど、それでも、慣れ親しんだ名前は、その人にとって真実の名前。それを奪ってはいけないと思った。
それが私が、あさりを「あさり」のままで、いてほしかった理由。
あさりは、先月血尿に気づき病院に行きましたが腫瘍を取り除くことができず、本日20時過ぎに旅立ちました。14歳でした。
家に人が来ると隠れてしまう恥ずかしがり屋さんでしいたが、オンラインでは人の声に反応して、しっぽで画面を占拠する出たがり屋さんでした。
可愛がっていただき、ありがとうございました。