ナンセンス:特殊相対論/パラドックスについて
今回は特殊相対論の話をするとよく出てくるパラドックスについて.このパラドックスを持って特殊相対論が間違っていると主張したい人が(今でも)いるらしいが,パラドックスをパラドックスだと思っている時点で特殊相対論を理解していない.
時間の遅れと長さの縮み
特殊相対論を受け入れると,三次元+時間の各成分だけを見ると,他の慣性系と比較して時間が遅くなったり,三次元的な長さが縮んだりする.
Lorentz変換の式
をじっと見る.t_青=t_赤=0で二つの慣性系の軸(の方向)が一致していたとする.要は同じ所,同じ向きにいたとする.
重なった瞬間の原点x=0に赤と青の人間がいたとしよう.するとt_赤=t_青*γとなっている.青系での1秒は赤系の時計ではγ秒になる.要は等速で移動する系の時計は止まって見える系の時計に対して遅れているのだ.
先の式をまたじっと見る.t=0の瞬間,x_赤=x_青*γになっている.γ>1だから,x方向の物差し(=xの値)は赤青系で変わってしまう.赤で測った長さLのものは青では長さL/γに見えるのだ.
これがどう言うことかと言うと,赤(等速で青に対して移動する)系のものは,青系の人間が見ると縮んで見えるのだ.同じように,赤に対しても青は動いているから,青系で測った長さが赤系の人間には縮んで見える.
えぇ!そんなこといいの?時間が遅れて,ものが縮むってあり得るの?と思うだろうか.そんな人は次を考えてほしい.自分に対して横向きに棒が置いてある.見える横幅を覚えておいてほしい.それから棒をちょっと回して同じように横幅を見ると縮んで見えないだろうか?...当たり前じゃん.
そこで思い出してほしい.boostとは時間方向への回転なのだ.回転すれば,見える横幅が変わって見える.時間tと位置xが棒の例の横幅なのだ....あぁそう言われれば.となってもらえれば嬉しい(棒の真の長さは見る方向を変えても変わらない.それはboostでも同じで,その変わらない長さが四次元の"長さ"なのだ).青から赤に移るのが回転だと思えば,赤から青に移るのも回転だ,回転が(速度が同じ大きさ逆向きだから)同じ大きさ逆回転なのだ.そう言われればどちらから見てももう一方が縮んで見えるのも納得だ.
また,復習だが,同時と言う概念も崩壊する.離れた二点での同時という概念は見る人の二点との速度で変わってしまう.これも棒で例えれば,見る方向によって棒の端,どちらが近いかが変わってしまう.
まとめ
Lorentz変換を受け入れると
・移動して見える系の時間は遅くなる
・移動して見える系のものの長さが縮む(Lorentz収縮)
ハシゴの"パラドックス"
まずは何がパラドックスに見えるかを話そう.
今、長さ l のハシゴ と奥行き L < l のガレージがあるとし、ハシゴは高速でガレージに近づいてきたとする。ガレージが静止してい見える慣性系から見ると、ハシゴがローレンツ収縮するので、ハシゴはガレージに入ってしまう。一方、ハシゴが静止して見える慣性系からみると、逆にガレージの方がローレンツ収縮してしまうので、ハシゴはガレージに入らないはずである。正しいのはどちらであろうか。wikipediaより
要は同じものを見ているはずなのに,観測者によって起こって見えることが違うと主張しているのだ.そんなことはいいのか?というのがこのパラドックスの言わんとしたいことだと思う.
これはパラドックスと思うこと自体が問題を理解できていない証拠なのだ.どうだろうパラドックスに見えるだろうか(裸の王様に素敵なお召し物ですねという必要はないが,この場合王様は服を着ている).
問題をもっと物理として見ると,こう言い換えれる.
青系から見た二点AとBはlの長さを持っている.他方赤系から見た二点CとDはLの長さを持っている.青系がハシゴが止まって見える慣性系で,赤系がガレージが止まって見える慣性系だ.ABはCDに対して等速で移動している.これが問題のセットアップだ.検証したいのは,ACが重なる時刻とBDが重なる時刻のどちらが先にくるかである.
Lorentz収縮というキャッチーな現象に気が散るが,この問題の本質はそこではない.時刻のどちらが先にくるかという問いなのである.もうわかっただろうか.相対論の世界ではこの手の質問はナンセンスである.三次元空間で棒を見る角度によってどちらの端が手前にくるかと悩んでいるようなものなのだ.それは見る人によって変わる.当たり前だ.だからこの問題への解答は,どちらも正しいなのだ.
当然ぶつかってハシゴがガレージに対して止まってしまえばハシゴははみ出す.しかしそれには止まるという減速が必用なのだ.特殊相対論は等速で動く系の関係は教えてくれるが速度が変化する時には使えない.理論の適用限界なのだ.
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この手の物理の解釈は飲み込めない人には飲み込めない.そんな人がいてもいいと思う.また時間を置いて考えればわかるかもしれないし,わかっている人に改めて聞いてもいい.
質問はいつでも歓迎だ.