母方の祖母の話
母方の祖母は祖父が亡くなってから悠々自適に一人暮らしを満喫してた。
近所の馴染みの店で小物を買っては母や私の元へ寄越し、そしてまた新しく買ってとその頃に流行ってた民芸品に始まりバスタオルや半纏、羽毛布団までかなり気前よく与えてくれたもので。
そのお金はどこからきたかといえば亡くなった祖父が質素倹約して貯めた老後資金だったから、まぁ一人娘である母は死ぬまでに使い果たしたりしないでよなんてヤキモキしてたのを見てる。
祖父は本当に無駄を好まない人だったので生きてた頃は、遠くに出かけたりすることもちょっとした日常で買う必要はないけど気分が上がるようなものを買ったりすることもなかったからその反動だったのかもなと今は思う。
そんな祖母の身にも高齢者によくある転んで大腿骨を折って寝たきりになるという事件が起きた。
それを発見したのはまだ元気だった頃の母で、たしか何回かけても電話に出ないとか異変に気付いて様子を見に行ったはず。
その頃の私は進学で遠方にいたので経緯は伝聞でしか聞いてないし、祖母の事件が起きた頃には母はがんの闘病中だったので意識はそっちへと向いていた。
だから進学先から帰ったきた時とかほんのたまにしか見舞うことも出来なかったし、その後に母が亡くなりドロップアウトして実家に帰って来ても母の話題を出される度に誤魔化すのがしんどくて(祖母には母が亡くなったことを伏せていたから)足はあまり向かなかった。
祖母が亡くなったのは母が亡くなった3年後で、その頃はフリーターではあったけどそれなりに稼ごうとはしていて自動車免許をようやく取ろうとしてた頃だったと思う。
通ってた自動車学校が祖母の入院している病院の目と鼻の先にあったので何かしら届け物や用事があると、父に頼まれて祖母の元へ顔は出していた。
最後に顔を見に行ったのは亡くなる一週間くらい前だったかな。
いつもの見舞いなら30分くらい話して帰ってたところをやたらと引き止められた。
いつも帰る時は握手してまた来るからねとバイバイしていたのだが、その時はなかなか握手した手を離してくれなかった。
引き止めながら祖母が静かに涙を流していたのだけは今も覚えてる。
もしかしたら祖母はとっくに母が亡くなったことを悟っていたのだと思う。
そこまで仲が良い親子じゃなかったけれど、好きそうな番組がやっていたら電話して知らせてあげるくらいの距離感でいたから、その母からの電話すらないのはきっと状態が悪いか亡くなってしまったかと気付いてしまったかもしれない。
そのことだけ心残りというか知らせておいた方がよかったんだろうと思ってしまうけど、その時に祖母のことを面倒見てたのは父だったから(両親共に一人っ子だったので結婚するときに最後まで面倒を見るとかその辺は決めてあったらしい)父が伏せておけと言うのに従っていたのだから仕方ないとも思う。
結局はもう関係者みんな彼岸の人だから、父はきっと向こうで祖母に怒られてるんだろうなって思うことにしよう。なんて生者の慰めの理屈なんだけど。
なんで祖母のことを思い出したかというと上皇后美智子様が転倒して骨折されたというニュースを見たから。
幸いにも手術は終わってこの先はリハビリを始められるそうなのだけど、かつて身内が骨折から寝たきりになった1人の人間としては、美智子様が無事に退院されて上皇様と過ごす日常に戻られることを願いたい。