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ジョグジャカルタ思い出し日記⑮|西田有里

私たちの身近な動物であるペット。可愛がる気持ちは一緒でも、ペット事情はジョグジャカルタと日本では少し違う様子です。
どんな動物が飼われているの?人気のペットとは?
今回はルジャール爺さんの飼っていたペットにまつわるお話です。

ペットの話

 ルジャールじいさんは、動物が好きなようだ。豆鹿のカンチルが活躍する民話を題材とした影絵人形劇ワヤン・カンチルを、自ら人形を作って上演するくらいだから、きっとそうなんだと思う。私がマタラム通りのルジャールじいさんの家に通っていたときは、カメが水槽に2匹飼われていた。ルジャールじいさんの仕事場の片隅に年季の入った水槽が置いてあり、砂利や石とともに水が少し入れてあって、その中で20㎝くらいの大きなカメと5㎝くらいの小さなカメがもそもそ動いている。近所の人か親戚かが川で釣りをしていて捕まえたのをもらったものらしい。小さいカメがときどき大きいカメの上に乗って休んでいる様子などを、ルジャールじいさんは仕事の合間にお茶を飲み一服しながらよく眺めていた。この亀をモデルにワヤン(影絵人形)も作っていた。
 ときどき水槽から出して洗ったり、外に出して日光浴させたり、ルジャールじいさんは結構まめにカメたちの世話を焼いている。ある時は、買い物に行くからバイクの後ろに乗せてほしいと言われて、どこに行くのかと思ったら、カメの餌を買いに行くのだという。言われるままにバイクに二人乗りしてやってきたのは、とある賑やかな通りの一角、バイク修理の店の隣にある薄暗い小さな場所で、魚や魚の餌を売っている専門店だった。街中でいわゆる日本のペットショップのような店を見かけたことがなかったし、てっきりカメには残飯などをあげてるのだと思っていたから、ジョグジャカルタにもカメの餌を売る店があるのだなあと妙に納得して印象に残っている。
 今はカメ2匹だけだけど、ルジャールじいさんもかつては小鳥やオウムや猫などいろいろな動物を飼っていたという。猫は勝手に出歩いて汚いという理由で近所の人たちにとても嫌われて、生まれた子猫を近所の人たちが勝手に捨てたりするうちにすっかりいなくなってしまったらしい。そういえば、当時のジョグジャカルタでは猫をペットとして飼っている人はほとんどいなかったように思う。私が下宿していた家で野良猫をかわいがっていたら、近所の人たちに変な目で見られ、汚いからやめなさいと注意されたこともあった。でも、最近では猫をペットとしてかわいがる人も増えてきて、猫カフェなるものもできたという話をきくので、ペット事情も時と共に変化する。
 一方、小鳥は昔も今も飼う人がとても多い人気のペットだ。マタラム通りの長屋の住人の一人ギトさんも小鳥をたくさん飼っていて、鳥かごを軒先に何個も吊るしていたので、いつも素敵な鳴き声が長屋一体に響いていた。ギトさんは、毎日鳥かごを清潔に保つだけでなく、時間をかけて生餌を与えたり、太陽の当たり具合に合わせてこまめに鳥かごを吊るす位置を変えたり、それはそれはかいがいしく小鳥たちの世話をしている。ジャワでは一般的に、小鳥を飼う趣味は何故か男性のものであるようだった。鳴き声の美しさを競う大会なども開かれていたりして、声の美しい鳥に魅了され、より素晴らしい鳥を手に入れ育てることに情熱を傾ける人が大勢いる。ルジャールじいさんによると、小鳥はすごくお金がかかるからやばい、とのことだったが、エサ代だけでも馬鹿にならない額になり、あまりにも鳥に入れ込むと一財産を失くしてしまうくらい危険らしい。
 さて、ルジャールじいさんのカメである。とある日の深夜、ルジャールじいさんはワヤン人形製作の締め切りに追われて作業をしていた。長屋の住人たちは皆寝静まっている時間だが、ルジャールじいさんは集中して作業に没頭している。私は何を手伝う訳でもないけれど、何となくルジャールじいさんの作業に付き合っている。ふと私がカメの水槽に目をやると、大きい方のカメが後ろ足をおもいっきり延ばしてすっかりリラックスした様子で眠っているのが目に入ってしまった。足がびろーんとなって脱力しているそのカメの様子がおもしろすぎて、仕事の邪魔をしては悪いと思いながらもルジャールじいさんならきっとこういうのは好きだろうと思って声をかけてしまった。案の定ルジャールじいさんもなんとも無防備なカメの姿をすごくおもしろがって、大声出さないように気を付けながらも深夜に二人で大笑いしてしまった。すっかり作業を中断されてしまったルジャールじいさんだったが、煙草に火を付けながら「人間もカメもほんまいっしょやなー」と言ってまた笑った。

ジョグジャカルタ市内のペット市場 鳥の他に爬虫類も人気のよう

「ジョグジャカルタ思い出し日記」は月1回連載です。
次回の更新は2024/10/19(土)を予定しています。


著者プロフィール

西田有里 Yuri Nishida
ジャワガムランの演奏家。2007 年〜2010 年インドネシア政府奨学生としてインドネシア国立芸術大学ジョルジャカルタ校伝統音楽学科に留学し、ガムラン演奏と歌を学ぶ。2010年からガムラン演奏家として関西を中心に複数のグループで活動。ガムランとピアノと歌のユニット「ナリモ」にて、CDアルバム「うぶ毛」を発表。現在はインドネシア人の夫と共に結成したマギカマメジカにて、インドネシアの影絵人形芝居ワヤンを基にした活動を展開している。

https://magica-mamejika.tumblr.com

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