その②海外富裕層の調査レポートから学ぶ「お金のリテラシー」
アジアの富裕層やファミリーオフィス※にサービスを提供するロンバー・オディエ社の調査レポート、の解説の第二弾です。
"The long game: Understanding APAC HNWI's real goals"
訳:「長期ゲーム:アジアの超富裕層の真のゴールを理解する」
第一弾はこちら。今回も読者にとって有益な情報と思えるものを、紹介していきます。460名の日本を含む、アジアの富裕層へのアンケートに基づいています。
まず「富に関してのゴール」についての調査。
全て日本語訳にしなくて申し訳ないですが、日本語だけでも分かるように書いていきます。
富裕層の主要なゴールとしてトップに上がっているのは、「現在の生活スタイルを楽しむ、それを維持する」というのも。ついで、「死ぬまで豊かでい続けること」、「配偶者や子孫へ富を残す」が続きます。
面白かったのは、国ごとに大きな違いがあること。日本とアジアの違いでは、
・オーストラリアの富裕層では不動産で収益を得ることが重要と答えたのは20%しかいなかったのに、日本の富裕層が44%がそう答えている。
・日本では44%が自分の新しいビジネスを始めることが重要と答えているのに対して、シンガポールでは15%しかそう答えなかった。
という点。この辺りが、アジアの中での日本の富裕層の特殊性のようです。日本の富裕層は不動産が好き、そして新しいビジネスに関わることが好き、と考えているということになりますね。
日本で不動産所得がある人は約150万人と人口の2%未満ですが、不動産は確固たる資産として富裕層から確固たる支持を得ているということでしょうか。私の感覚だと、アジアの華僑の人たちは日本以上に不動産が好きな印象があるのですが、実は日本人はそれ以上に不動産が好き、信頼しているのかもしれません。
新しいビジネスに関わるのが好きというのも興味深い。日本人は富裕層になっても働くのが好き、ということなのかもしれないな、と思っていたらこんなデータも出てきました。
ライフワークバランスについての各国の違い。
・仕事と生活のどちらを優先するかの質問では、タイとオーストラリアの富裕層ははそれぞれ3%と4%が仕事を優先すると答えた一方、日本では31%が仕事を優先すると答えた。
日本には勤労への美徳はやはりあるのでしょう。ただし、タイと日本の富裕層のライフワークバランスの満足度はほぼ同じということです。
次に、「現在の資産額に満足しているか?」の質問についてです。
アジア全体では20%が完全に満足している、53%が概ね満足していると答えていますが、国別の特徴ではこんなのも出ています。
・香港では1/3が完全に満足していると答えているのに対して、日本では12%しかそう答えていない。
他のアジアの国と比べても日本が1番低く、そして概ね満足しているまで合わせた比率も、日本が1番低くなっていますね。自己肯定感が低いのか、欲張りなのか、と考えさせられます。そして、驚くことに
・日本の富裕層では、自らのゴール達成のための資産ポートフォリオの構成を考えているのは、わずか3.5%である。ただし回答者は、ゴールに対しての資産ポートフォリオの構成が重要であることはよく認識している。
としています。うーん、、、これは本当ならば非常に良くないですね。ゴールが明確でないのか、資産運用のリテラシーが低いのか、資産運用サービスの質が良くないのか。。。いずれにしても、わざわざこの数値を述べているので、アジアの中ではこれらは目立つ特徴であるのでしょう。
次に、ビットコインへの暗号資産への投資について。
日本では暗号資産の話題がとても多いことは、外国人と話していても常に感じています。日本人は、自国の円通貨に対して絶大な信頼を寄せているにもかかわらず(金融資産の50%超が預貯金です)、新しいリスクのあるアセットを好むというのは、上で見たローリスクの不動産好きだがハイリスクの新事業も好きという、特徴にも似て見えます。
この調査では、アジアの富裕層においては、過去2年では暗号資産は人気を失っているようです。暗号資産への投資を増やしたという人は10%程度。ただし、45歳以下の若年層では15%が暗号資産への投資を増やしたと述べており、46歳以上ではそれが5%と、年齢層によって違いが見られますね。
次に、ゴールベースの重要性が紹介されています。
・Essential Goal: 人生として必要なゴール(教育資金や早期退職など)
・Aspirational Goal: 夢や願望を踏まえたゴール(子孫への相続含む)
このようにゴールは二つに分けて考えるべきだと。そしてゴールについては、Peronalized、つまり個人や家族で違うことを認識して、Holistic、つまり総合的なアプローチが必要としています。
ゴールに対しての必要な戦略を立てよう、バランスシートベースで考えていくことが大切である、とのこと。本当にそう思います。資産運用はゴールありき、その上で、時間軸、リスク耐性などからポートフォリオの組み合わせて考えていくのです。そうしないと、お金の無限増殖を考え始めます。儲かるのは何ですか?的な思考から入るのは本当にやめましょう。
残念ながら、彼らの調査によると、アジアでは日本人の富裕層が「ゴールベースでの資産運用」が1番できていないということでした。伸び代があると捉えましょう。
しかしこのレポート、今までに見たことのない調査項目が非常に多いし、価値が高いと思います。また時間がある時に解説していきますので、皆さんも新しいお金のリテラシーを身につけていってください。
次回に続く