見出し画像

その④海外富裕層の調査レポートから学ぶ「お金のリテラシー」

アジアの富裕層やファミリーオフィス※にサービスを提供するロンバー・オディエ社の調査レポート、の解説の第4弾です。

"The long game: Understanding APAC HNWI's real goals"
訳:「長期ゲーム:アジアの超富裕層の真のゴールを理解する」

第一弾はこちら。第二弾はこちら。第三弾はこちら。今回も読者にとって有益な情報と思えるものを、紹介していきます。460名の日本を含む、アジアの富裕層へのアンケートに基づいています。

さて、次はプライベートアセットの投資についてのトピックが取り上げられていました。これは非上場の株や債券、新エネルギーを産み出す資産などへの投資です。

まず、この中で特に規模が大きいのが非上場の市場の2/3を占めると言われる非上場株式への投資。スタートアップ企業などへの投資や、既に成熟してしまって上場を止りやめ会社を再構築してスタートを切るような会社への投資です。

まずはアンケート結果。調査対象となった富裕層の58%が非上場の株式に投資したいと思っているのですが、実際に投資をしている人は19%にとどまるというのが全体像とのこと。。

かなりのギャップですね。たった26%のみが「自分達のファイナンシャルゴールの達成に資する」と考えているからでして、継続性がないので、自信がないので、よく分からないので投資をしていない、という姿が浮かびあがっていました。

2023年は、非上場市場にとって、これは特にスタートアップ企業の資金調達額で表現されるのですが、非常に厳しい年でした。好調であった上場株式市場を見ている多くの人にとっては「え、そうなの?」と思われるのだと思いますが、コロナ禍前期の超低金利下で「利息がつかないならば、少しでも成長があるものを買おう」とまた「お金余り」で非上場市場に資金が流れていた反動が、ハイ・インフレと利上げを伴うコロナ禍後期に逆流したからです。上場株でもスモールキャップやマイクロキャップは軒並み厳しい状況が続き、一般的にはさらに小さい非上場株は大きなダメージを受けたのです。しかもスタートアップ企業は、まだ赤字の状態で資金流入が途絶えると経営が非常に厳しくなることもあるので事は深刻でした。

話を戻しましょう。投資の原点は、それが社会を豊かにすること。その点で言うと、世の中の「付加価値」や「イノベーション」の多くは非上場の企業から多く生まれています。そして従業員の多くも非上場の企業に雇われています。アメリカの場合は、87%のGDPの付加価値は非上場企業から生まれており、また雇用の3/4は非上場企業によって作り出されいるとのこと。

これらを個人のポートフォリオに取り込むことは、大枠としては正しい行動に思います(ただ、アクセスが難しかったり、手数料が高かったりで進んでいない訳ですが)。

貸付型の非上場モノもあります。ダイレクトレンディングというカテゴリーが1番大きく、当調査レポートでは非上場市場の11%を占めるとのこと。投資期間は比較的短く、金利も高めであり、投資対象として良い可能性があるとされていました。また、景気が落ち込んだ時などはディストレスド・デッドも考えていけると。実際、倒産寸前の企業の債券は非合理に投げ売りされて二束三文になることがよくあるのですが、ただ何らかの優良なビジネス資産があればそれなりに企業の買い手は見つかるので(不動産や古美術の競売とかイメージしてもらえれば良いと思います)、そういう非合理に投げ売りされた債券では大儲けできる可能性があるのです。もちろんハイリスクですけどね(ちなみに、金融周りで1番稼いでいる人は、このディストレスド市場での法律家だと、教えてもらったことがあります)

また代替可能エネルギーの普及に伴い、インフラ資産も非上場市場の大きなセクターになってきました。過去5年で$160bn(20兆円ぐらい)のファンドが新エネルギーで設定されているようです。

さて、非上場市場は全ての投資家に薦められるものではありません。理由は、投資期間が一般にとても長く、流動性(換金性)がとても低いからです。通常は投資してから5年や10年など待たなくてはならないし、約束の期間の後に滞りなく現金で返してもらえるとも限りません(一方的に延長を言い渡される場合も多いです)。

ただし、投資戦略とはそもそも長期で考えるものですし、上場モノとは全く違うタイプの投資資産にアクセスできる機会があることは、その通りです。

既にそれらの投資を取り込むのが当たり前になっている投資家もいます。例えばですが、世界で最も卓越した投資家と言われるエール大学の基金(エンダウメント)は、その大半の資産を非上場モノに投資をしています。個人では圧倒的に人気な上場モノの株式パッシブファンドなどには、もうほんの僅かしか持っていません。結果、過去20年で年率15〜20%の恐るべきリターンを叩き出していたりします(公開データあるので、どっかで書きますね)。

ただ、そのようなことができるのは、トップクラスの運用者を選別できる目利き能力や、そこにアクセスできることが必要になります。これはロンバー・オディエ社も最後に強く強調しています。

今日はこんなところで。さて、ここから先のレポートでは、家族でお金のパーパスを作る、ファミリーオフィス(一族の資産管理会社です)の役割とは、などユニークなトピックが続きます。

では、また時間がある時に解説していきます!

<英単語メモ>
palatable おいしい

いいなと思ったら応援しよう!