ぼくはなににもなれない
きみが横で泣いている時、うまい慰めの言葉が見つけられない。
大丈夫だよ、とか、ぼくがいるよ、とか。
言っても気休めにしかならない気がするし、きみが泣いている本当の理由を知らないから怖くて言い出せない。
だって、もしきみが泣いている理由がぼくだったら、声をかけることすらいけないことのような気がしてしまうから。
だから、今日もぼくは何も言えない。
そんなぼくを見かねて、きみはたまに顔を上げる。
「……どうしてなにも言わないの?」
どうしてと言われるとやっぱり困る。
「だって、きみが泣いてるから」
公園のブランコの上は、こんな夜中に泣きに来るところじゃない。
ブランコは2つあるんだから、ひとりで揺らさなくてもいいと思う。
だから、ぼくはきみの横に座ってブランコを漕ぐ。
ぼくがブランコを漕ぎだすと、きみは「ふうん」と言ってから同じようにブランコを思い切り足で蹴った。
もう子供というほど子供じゃないぼくたちには、このブランコは少し低い。
それでも、足を折り曲げてうまく漕げばまだまだ遠くにいけるような気がした。
「ねえ」
「なに」
「なにも言わないのに、どうしていつも来るの」
「……なにか言えないと来ちゃだめかな」
トサッ、と軽い音を立てて、きみがブランコから飛び降りる。
ブランコ前の柵なんて軽々と飛び越えて、くるりときみが振り返った。
「ううん。いいよ」
振り返ったきみの頬はもう濡れていなくて、口元には笑顔が見えた。
だからぼくは「そう」とだけこたえて足をついてブランコを止め、ゆっくりと降りる。
「……今日は帰るね」
「うん。気をつけて」
「うん。あと……ありがとう」
小さくなっていく君の背中。
ぼくは、怖くてブランコから飛び降りることなんてできない。
そんなちっぽけな勇気もなければ、口べただとも思う。
そんなぼくを、ぼくはあまり好きじゃない。
それでも、きみが泣いてると胸が痛くてせめてそばにいたいと思う。
きみが笑っているとうれしくて、そばにいたいと思う。
ぼくはぼく以外のなににもなれないけど、それでも。
きみのことが好きなんだ。
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