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おおざっぱな男のはなし

あたし、ちょっとおおざっぱなところがありまして。
自分では気に入ってるんですよ? そんなところも。
けどこれが、仕事のこととなるとめっぽう困る。
相手様がいる仕事なんで、そちらに迷惑がかかるってこたぁあるんですが、
それだけじゃあない。
あたしも困ったことになるんですよ、これが。
つい最近もそんなことをやっちまってね。ちょっと聞いてもらえますか。

あれは大ぶりの雨の日でした。
近頃じゃあ、豪雨とかっていう話であっちでピコピコこっちでピコピコ……え? なんの音ですって? そりゃあ、豪雨警報のアラートですよ。
え、入れてないんですか、アプリ。
便利なんですけどねぇ。

なんの話でした?
ああ、そうそう。あたしのおもしろ話でしたっけ。
おっとこれは失敬。ちがったちがった。世にもおそろしい話でした?
どうも最近もの忘れがひどくってこまります。
はぁ。はぁ。ああ、なるほど、その続きですか。
ようやく思い出しました。それじゃあ話しましょう。

大雨の中、あたしは仕事のために渋谷を歩いていました。
渋谷は人が多くていけません。お客さんを見つけるのが大変なんですよ。
あたしたちの仕事はね、相手様が誰だっていいってわけじゃない。
むしろ間違えたら上へ下への大騒ぎってなもんで。
まあ、よく考えればそんな大層な仕事にあたしがついてるのがそもそもの間違いだったのかもしれませんねぇ。
転職した方がいいですかね? あ、はいはい。わかってます。
今度はまだ忘れちゃいませんよ。

まあそれで、そんな人混みの中、3時間かけてようやくお客さんを見つけたわけです。3時間ですよ、3時間!
言い訳をするつもりじゃあありませんけどね、大雨の中3時間も渋谷をうろうろしてみなさいな。想像しました? え? ほらちゃんとしてください。慣れてるってまぁそうか、そうですよね。あなたも大変ですねぇ。
とにかく、あたしはへとへとでね、真面目にやろうと思ってた仕事もつい、ついついおおざっぱになったってわけなんです。
こうちょおっとおおざっぱにしたもんだから、お客さんの横にいた人まで一緒にこう、ずばっといっちゃったわけです。
2人一緒ってこともないわけじゃあないんですけど、その時は1人って決まってたからもう大変。
上司に見つかる前になんとかしようとしたんですけど、それがまたうまくいかない。飛べなかったんですよ。
いやいや違いますって、タクシーなんか使いませんよ。お金がないとかあたしたちには関係ありませんからね。

これがなんで飛べなかったかっていうと、あたし、自分の足までばっさりやっちゃってたんですよ、ええ。
不完全になっちゃったもんだから飛べるわけがない。想像できないんなら、小鳥の羽をちぎってみてくださいな。それと同じことですよ。
なんでそんないやそうな顔をするんです? 誰もやれなんて言ってないでしょうに。あたしだっていやですよ、まだ契約前の魂を持っていくだなんて。ただ働きじゃあないですか。

だからね、おまわりさん。
この大鎌は仕事道具であって銃刀法違反なんかじゃあないんですよ。
近くに倒れてた2人のうち1人は寿命ってやつです。そっちはあたしの仕事ですからね。そりゃあ、もう1人はあたしのおおざっぱのせいですけど、それだってちょっと待ってもらえれば問題なくなりますから。
そういうわけで、この手錠はずしてもらえませんかね?

──おあとがよろしいようで。


#小説 #短編小説 #ショートショート

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