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私の選んだ13日。

「あの、ちょっとやめてもらえませんか」

どうしようもなくなって声をかけると、私を跨ぐようにして言い争っていた二人の男性が勢いよく顔をこちらに向けた。
ちょっと待って。どうして私が邪魔をしているみたいになっているのか聞きたい。そもそも、あなたたち立っている場所がおかしいことに気づいて。

男性二人は道路の端っこ、つまりはコンクリートの上に仰向けに倒れ込んでいる私の上に立っている。
踏んではいないけれど、どう考えてもおかしい。

「今大事な話をしているんだ。後にしてもらえないか」
「そうそう。こっちも色々と忙しいからね? あと5分でいいから黙っててくんないかなー」

私だって、黙っていられる状況ならこんな二人に声をかけたくはない。
でもね? あなたたちには私の額から流れるこの綺麗な赤色の液体が見えていないの?
頭っていうのはちょっと切っただけで血がたくさん出るとは言うけど、この量は正直どきどきしてしまう量だ。
できれば早々に病院に行きたい。

それにもう一つ。
どうしてこの人たち、コスプレをしているの。
居丈高な口調の男性は高級そうな真っ黒なスーツに同じく黒いネクタイ。ついでに言うと黒いフレームの眼鏡をかけている。そこまではいい。これから冠婚葬祭の用事があるのかもしれない。
けれど、その背中に生えている黒い羽はなんですか。
頭からはご立派な角が二本、生えている。わずかにカーブした角は頭の左右にバランスよく配置され、空を自信たっぷりに指している。

その男性と先ほどから言い争っているちょっとチャラい方。
ダボっとしたカーキ色のコートに鎖骨が適度にチラ見できる薄手のニット。下は細身のブルージーンズにゴツイエンジニアブーツとごく普通の若者に見える。
けれど、やっぱりその背中には羽が生えていた。こっちは真っ白な羽だ。
そして私の目が数秒前に蛍光灯を凝視したんじゃないとしたら、頭の上に光る輪っかをつけている。

体をまたがれていなかろうと、すれ違うだけで思わず振り返ってしまうような二人組だ。
それなのに、今私が倒れている道には私とこの二人以外の人がいない。
非常に、非常に残念です。きっと誰かが通りがかっていれば、今ごろはTwitterで写真が出回りRT数もすごいことになっていたはず。
だってこの二人、コスプレしても霞まないほど顔がいい。
整った中性的な美形とややワイルドな色気のある美形。組み合わせ的にも女子の心を鷲掴みにすること請け合いだ。
むしろ私が写真を撮って全国に発信すべきなのではと使命感のようなものを感じ始めた頃、冷たい風に体が震えた。
もしかして。……寒さからの震えじゃなくて出血多量からくる震えなんじゃと思い至り、一気に血の気が引く。

「ほんと、どいてください!」
「うわっ! 足を蹴らないでくれないか」
「っと……いきなり何すんの」

何するんだとはこっちが言いたいけれど、まともな話し合いができないことはすでにわかっている。
私は二人を無視して立ち上がり、斜めがけの鞄をしていることを確認してから足早に歩き出した。
とにかく、今は病院に行きたい。心なしか足もふらついている気がする。

「おい、どこに行く気だ」
「そうそう。きみに行かれると困るんだよね」

二人同時に肩に手をかけるものだから、体が回転することもなく真っ直ぐに後ろへと引かれた。しかも案外力強く。

「ちょっと! また頭打ったらどうするんですか!」
「なんだ、そんな心配か」
「そんなってあなたね……」

振り返った視界の先に、さっきまで私が倒れていた場所にかなり大きな血だまりがあるのを見てしまった。
できれば、見たくなかった。
あれは私から流れたもののはずで、とすると、今の私にはあそこに流れてしまっただけの血が足りないはずだ。

「だめだ、気が遠くなってきた……」
「もうさ、本人に決めてもらえばよくね?」
「しかしそれは規定違反だ」
「誰も見てないんだから大丈夫だって。あんただってオレとずっと言い合いしてんの嫌でしょ」
「それはそうだが……」
「……なんの話ですか?」
「だからね? 選んでほしいって話。オレかーこっちの人か」
「間に合ってます」

美形というのは遠目から眺めて楽しむもので、近くでキラキラされると目が痛む生き物である。触らぬ美形に祟りなし。
急いで踵を返そうとしたけれど、やはり両肩を二人から掴まれていて身動きすらとれなかった。

「間に合ってないんだって。どっちか選ばないときみ、あんな感じになるよ?」

あんな、と指差された方を見ると、そこには小さい頃映画の中で見たマシュマロみたいなお化けがもっふもっふと歩いていた。
ここはいつから仮装パーティー会場になったんだろう。

「あれはまだいい方だな。どっちかと言うとあっちじゃないか」

あっちとまた指差された方を見ると、そこには非常に……非常に顔色の悪いというか、どう見ても肌の生命維持をできない感じの元人が何かを引き摺りながら歩いていた。
そうか。わかった。思い出した。そうでした。
今日は10月31日。つまり──ハロウィン!
人を脅かすのもいい加減にしてほしい。まだ肩にのせられたままだった手を丁寧にひとりずつ払い落とし、口を開く。

……開こうと努力はした。
でも、バッサバッサと大きな羽で浮いている美形二人に、何を言えと言うのだろう。

「これから13日の間、あなたにはどちらか一方と過ごしてもらう。その行い次第では再び人としてここに戻ってこられることもあるだろう。だが、失敗すれば14日目はない」
「え」
「わかりやすく言うと、きみはさっき死んじゃったから、13日の間に天国か地獄どっちに行くか見極めさせてほしいって話ね。で、ぶっちゃけるときみの寿命が微妙なとこだから、13日の間にオレたちのどっちかが認めれば敗者復活のチャーンス! ってわけ」
「え」
「……この場合は敗者になるのか?」
「一度死んでるんだからそうでしょ」
「いやしかし、それでは寿命を全うした人間に失礼だろう」
「相変わらずかったいなー。誰も気にしないって。そんなことより、ちゃっちゃと決めてもらわないとオレ腹減ったわ」
「まあ、それもそうだな。というわけだ、悪いが早急に決めてもらえるか」
「オレか」
「俺」
「「どっちにする?」」


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