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【デザイン、ブランディングの話】コンセプトから抜け落ちがちなもの

ブランディングやデザインについて、クライアントと話すときに、必ず話題にしなければならないのが「コンセプト」について。でも、ほとんどの場合、クライアントが考えているコンセプトは、重要なことが抜け落ちています。すごく簡単で当たり前なんだけど、言われるまでなかなか気づけない、コンセプトの話。


コンセプトにおけるスペック

「この商品のコンセプトはなんですか?」「このサービスのコンセプトはなんですか?」そうクライアントに問いかけるのだけれども、このときに返ってくる答えを聞く前に、私はだいたい想像できています。

「地元の農家さんが作った素材だけで作ったお菓子」や「肌に優しい素材でできた洋服」、「天然の素材だけで作った注文住宅」など。コンセプトとして、決して間違っているわけではないし、嘘を表現しているわけでもない。でも、コンセプトとしてほとんど機能しないのが実際です。

こうしたコンセプトで表現されているのは商品・サービスの「スペック」です。”地元の農家が作った”、”肌に優しい”、”天然素材”など、こうした表現は商品・サービスの性能・性質(スペック)を表したに過ぎないのです。スペックだけで表現したコンセプトの商品・サービスははどこにでも存在するようなものになり、誰に向けたものなのか曖昧になってしまいます。これでは、コンセプトとして機能させることが難しい。決定的に足りないものがあるんです。

スペックの裏側にあるもの

わたしたちは、なにかものを買うときにどんなことを考えて購入しているでしょう。例えば、車を買うときにどんな風に考えを巡らせて購入しているかをなぞってみましょう。

とあるビジネスマン。そろそろ車検が近く、車を買い換えるか検討している。これまでは、子供の部活の送り迎えなどがあってワンボックスカーに乗っていたが、子供が自立したのでその必要はなくなった。会社ではそれなりの役職につくことになり給与もアップした。部下を多く抱えることになり、これまで以上に責任も重くなった。これからは安っぽい車には乗れない。ワンランク上のセダンを購入しようか、と想いを巡らせる。最終的に購入したのはトヨタのクラウン。

単純に車がほしいのであれば、安いほうがいい。でも、この人が車に求めたのは移動手段としての機能だけではなく、その裏側にある何かです。

クラウンをスペックだけで表現しようと思うと「2.5リッター高性能エンジン搭載の贅沢な内装デザインもこだわった国産セダン」となるでしょうか。わたしは車に詳しいわけではないけど、だいたいこんな表現に収まるのではないかな。でも、さっきのビジネスマンが購入したかったのはこういった性能ではないですよね。この車を所有することによって得られる羨望の目、周囲からの憧れといったステータスです。かつて「いつかはクラウン」と言われたように、憧れの車として購入するのです。

コンセプトにおけるベネフィット

わたしたちはものを購入するときには、その商品の性能や効果がもたらしてくれるその先にある何かを求めて購入するはずです。その何かを「ベネフィット」といいます。利益や便益という意味。このベネフィットがなければコンセプトはどこにでもあるようなものになり、他と差別化することは難しくなります。

あなたはどうしてコメダ珈琲ではなくスタバに行くんですか?コーヒーが飲めるならどちらでもいいですよね?

あなたはどうして高級ブランドのバッグを持っているんですか?ものを入れて持ち運ぶだけれであれば、トートバッグで事足りますよね?

あなたはどうしてジムで体を鍛えるんですか?健康になるためだけだったら他にも色んな方法がありますよね?

自分の行動でも、よくよく考えてみると、ベネフィットが潜んでいることに気づくはずです。

ベネフィットとスペックの関係性

ここまでの話だと、スペックは不要でベネフィットは必要、と感じるかもしれないですが決してそういうわけではないんです。スペックはとても重要で、ベネフィットを生み出し、支える重要な役割をもっています。優れたスペックがあれば、より優れたベネフィットを生み出すことができるとも言えます。

ベネフィットがどのように導き出されるかを知れば、スペックがいかに大事なものか理解できるはずです。

ベネフィットは、商品・サービスがもたらす価値を指します。高級車ならステータス。大きなソファであればくつろぎの時間。かっこいい洋服はかわいい恋人をもたらしてくれるかもしれません。

でも、どんな車でもステータスをもたらしてくれるわけではありません。安い中古の軽自動車はステータスをもたらしてはくれません。どんなソファでもくつろげるかというとそういうわけでもありませんし、ダサい洋服を着ていれば彼女はきっとできないでしょう。”高級”車だからステータスになるし、ソファが”大きい”からくつろげる。”かっこいい”服だから彼女ができるのです。

実はベネフィットの根源はスペックなのです。なんの楽器も弾けない歌えない人がロックスターにはなれないように、ベースになるものがないとベネフィットも生み出せません。優れたスペックによって正しくベネフィットを導き出せれば、すばらしいコンセプトが作れるはずです。

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