コーヒーにまつわる話 その1

小学校高学年の頃に、豪徳寺に住んでいた。休みの日になると父親とよく散歩に出かけた。ずっと続く住宅街の道を、庭木に咲く花の名前を教えてもらったりしながら、散歩した。ごくたまに、豪徳寺商店街の中の喫茶店に寄り道することがあった。私と妹が、プリンアラモードやフルーツパフェを食べているときに父親はブラックコーヒーを飲んでいた。子ども心に”どうしてこんなおいしいものじゃなくて、コーヒーなんか飲むんだろう”と思ったことをよく覚えている。

コーヒーについて次に思い出されるのは、中学生の頃。近所に母親の友達が喫茶店を開いた。母は、少しの間そこで手伝いをし、ペーパードリップの方法を覚えてきた。父親は日の当たる広縁のソファに座り、母の入れたコーヒーを「おいしい」と言って、とても満足そうに飲んでいた。そういえば、登山好きの父親は、山道具の一つとして、パーコレーターを持っていた。コーヒー好きだったのだ。それでもドリップコーヒーを飲む生活は、母親の喫茶店でのアルバイトが終わるとすぐに収束してしまう。母親はあまりコーヒーが好きではなかったんだと思う。私はそのころ覚えた『バンホーテン』で作るココアや牛乳を沸かして作るミルクティーにはまっていった。そして、コーヒーは、『ネスカフェ ゴールドブレンド』!クリープと砂糖を入れて飲んでいた。

どちらかというと紅茶派だった私が、いつからドリップコーヒーを好んで飲むようになったか、実はそこははっきりしない。が、付き合いだした相手は、手廻しのコーヒーミルを持っていて、自分でドリップコーヒーを入れるような人だった。結婚してすぐに、ナショナル(!!)のミル付きコーヒーメーカーを購入した。この器具はとてもお気に入りで、壊れてもずっと同じ機種を使っていた。(調べたら、パナソニック沸騰浄水コーヒーメーカーNC-A56Kのようだ)

共働きだった我が家の朝はとても忙しかった。コーヒーメーカーのセットの時間も惜しまれた。そこで、そのセットは、まだ保育園の長男の仕事となった。長男は、教えるととてもきっちりと仕事をこなす子どもで、本当に助けられた。大人になってから、「自分が飲むわけでもないのに、よくやってたなあ」とは言われたが。

家では、ブラックでしか飲まないので、家庭訪問でコーヒーを出そうと思っても、ミルクも砂糖もなかったことを思い出す。子どもたちがいつごろからコーヒーを飲むようになったか記憶にない。高校生の頃には、長男は普通にブラックコーヒーを飲むようになっていた。(次男はあまりコーヒー好きではなかった。そのことについては、また後日)

そして、事件は起こった。

大学生になりアルバイトを始めた長男がある日ぽつんと言った。「バイト先で、インスタントコーヒーの入れ方がわかんなかった。インスタントコーヒー飲んだことない。」・・・・衝撃の告白!!どんだけお坊ちゃんだったんだ。長男よ。申し訳ない。

自分たちは職場で飲むことは普通にあったから、子どもたちがインスタントコーヒーを飲んでいない、ということに気づきもしなかった。なんだか常識外れの子どもに育ててしまったようで本当にショックだった。

この出来事は、実は、十数年も前のことだ。あまりの衝撃に忘れられない思い出なのだ。最近は、スティックのインスタントコーヒーは常備している。もらったりすることも多いが、この間長男が「たまに甘いの飲みたくなるよね。」と言った。そう、最近のインスタントコーヒーは、おいしいと思う。

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