(アクチュアリー数学)確率漸化式の立式テクニックと隣接3項間漸化式(2024早大理工入試より)
アクチュアリー数学の試験では素朴な確率の問題や確率漸化式等, 高校数学からの出題も見受けられます. 今回はその中でも確率漸化式の立式テクニックと隣接3項間漸化式について, 今年行われた入試問題を題材に確認したいと思います.
解答
(1)
3試合の勝敗は$${2^3=8}$$通りあります. 樹形図を書くと, 勝ちを〇,負けを×として(〇,〇,〇),(〇,〇,×),(〇,×,〇),(×,〇,〇),(×,〇,×)の5通りが連敗しない場合であることが分かります. 1通りにつき$${(1/2)^3=1/8}$$の確率で発生するので, 答えは$${p_{3}=5/8}$$です.
(2)
通常, 確率漸化式を立式する場合は最後の1~2回を除いた結果で場合分けを行いますが, 本問はそれだと上手くいきません. そのような場合, 最初の1~2回の結果で場合分けを行うと上手くいくことがあり, 難関大の入試ではよく見られるパターンみたいです(私は難関大受験の経験がなく基本的な問題しか解いていなかったので, 受験生時代知りませんでしたが).
このような手法を取るタイプの問題は, アクチュアリー数学でもよく見られます.
本問も最初の1~2回に着目することによって, $${n+2}$$回の中で連敗しないのは以下のいずれかのときであることが分かります.
1回目で勝ち, かつ残り$${n+1}$$回で連敗しない
1回目で負け, 2回目は負けると連敗になってしまうので勝ち, そして残り$${n}$$回で連敗しない
この2つのケースは排反なので, それぞれの事象が起こる確率の和を考えることで
$$
\begin{equation*}
p_{n+2} = \frac{1}{2}p_{n+1} + \frac{1}{4}p_{n}
\end{equation*}
$$
を得ます.
(3)
与式を変形すると, 両方とも
$$
\begin{equation*}
p_{n+2} = (\alpha + \beta) p_{n+1} - \alpha \beta p_{n}
\end{equation*}
$$
となります. これと(2)の漸化式を比較することで,
$$
\begin{cases}
\alpha + \beta = 1/2 \\
\alpha \beta = -1/4
\end{cases}
$$
を得るので, 解と係数の関係から$${\alpha, \beta}$$は$${x}$$に関する二次方程式
$$
\displaystyle x^2 - \frac{1}{2}x -\frac{1}{4} = 0
$$
の2解です. これはいわゆる特性方程式といわれるもので, 本問は特性方程式を考えることで漸化式が解ける根拠を与えています. 上記の方程式を解の公式を用いて解くことにより,
$$
\displaystyle x= \frac{1/2 ± \sqrt{1/4 + 1}}{2} = \frac{1 ± \sqrt{5}}{4}
$$
なので, $${\alpha < \beta}$$より
$$
\begin{align*}
\alpha &= \frac{1 - \sqrt{5}}{4} \\
\beta &= \frac{1 + \sqrt{5}}{4} \\
\end{align*}
$$
となります.
(4)
$${p_{n+2} - \beta p_{n+1} = \alpha (p_{n+1} - \beta p_{n})}$$より, $${p_{n+1} - \beta p_{n}}$$は初項$${p_{3} - \beta p_{2}}$$で公比$${\alpha}$$の等比数列です. 同様に$${p_{n+2} - \alpha p_{n+1} = \beta (p_{n+1} - \alpha p_{n})}$$より, $${p_{n+1} - \alpha p_{n}}$$は初項$${p_{3} - \alpha p_{2}}$$で公比$${\beta}$$の等比数列です. $${p_{2} = 1 - (1/2)^2 = 3/4}$$なのでそれぞれの初項を計算すると
$$
\begin{align*}
p_{3} - \beta p_{2} &= \frac{5}{8} - \frac{ 1 + \sqrt{5} }{4} \times \frac{3}{4}
= \frac{7 - 3 \sqrt{5}}{16} \\
p_{3} - \alpha p_{2} &= \frac{5}{8} - \frac{ 1 - \sqrt{5} }{4} \times \frac{3}{4}
= \frac{7 +3 \sqrt{5}}{16} \\
\end{align*}
$$
となります. したがって
$$
\begin{align*}
p_{n+1} - \beta p_{n} &= \frac{7 - 3 \sqrt{5}}{16} \alpha^{n-2} \\
p_{n+1} - \alpha p_{n} &= \frac{7 + 3 \sqrt{5}}{16} \beta^{n-2}
\end{align*}
$$
となるので, 辺々引いて
$$
\displaystyle
(\alpha - \beta)p_{n} = \frac{7 - 3 \sqrt{5}}{16} \alpha^{n-2} - \frac{7 + 3 \sqrt{5}}{16} \beta^{n-2}
$$
となります. これを整理することで, $${n=2,3, \ldots}$$に対し
$$
\displaystyle
p_{n} = \frac{15+ 7 \sqrt{5}}{40} \left( \frac{1 + \sqrt{5}}{4} \right)^{n-2} + \frac{15- 7 \sqrt{5}}{40} \left( \frac{1 - \sqrt{5}}{4} \right)^{n-2}
$$
を得ます. なお, 一般に隣接3項間漸化式
$$
a_{n+2} - A a_{n+1} - B a_{n} = 0
$$
の一般項は特性方程式$${x^2 - Ax -B=0}$$の2つの解を$${\alpha,\beta}$$として, ある定数$${K,L}$$を用いて
$$
a_{n} = K \alpha^{n} + L\beta^{n}
$$
で与えられます. ここで$${K,L}$$は最初の2項を直接求めて上式に代入し, 連立方程式を解くことによって求めることができます. また, 特性方程式の解が重解になる場合には, その解を$${\alpha}$$として
$$
a_{n} = (Kn + L) \alpha^{n}
$$
となります. 高校数学では毎回律儀に本問のような手順で解かされていましたが, アクチュアリー試験はマーク式なので, この公式により大幅に解答時間を短縮することが可能です(逆にこの公式を使わないと試験時間が足らなくなる).
また, 統計検定1級においても2014年統計応用(理工学)の問題の公式解答例において, この公式を用いて隣接3項間漸化式の一般項を求めています.
なお, 本問は早稲田大学の入試問題でしたが, これとほとんど同じ問題が, アクチュアリー試験対策本として有名な「弱点克服 大学生の確率統計」(藤田岳彦著)の問題09に掲載されています. 統計部分の内容が若干薄いですが, 確率部分の内容は結構充実しており, 良書です. アクチュアリー試験を受けない方であっても, 確率論・統計学を勉強する際の最初の1冊としておススメです. 実際私も最初の1冊はこの本でした.
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