【非高学歴・データ分析職向け】統計検定1級を目指す際の心構え

私は2021年度に統計検定1級の試験を受けて手も足も出ずに不合格を経験, 以降2022年度と2023年度の試験を経て, 最終的に合格することができました. その経験を踏まえ, 合格を目指すうえで意識した方がいいこと等をまとめてみます. 

筆者経歴

  • 非高学歴大学理系学部卒

  • データ分析関連の業務経験なし

成績優秀者のリストを見る限り, 本資格試験はその性質から, 旧帝一工や医学部, あるいはそれに準ずる高学歴の方か, 大企業でデータ分析関連の業務を専門にしている方が受験者の大半を占めていると予想されますが, 筆者はそのどちらにも全く当てはまりません. 
高学歴とは到底言えない大学を卒業し, その後は文系就職したので統計学や数学には全く触れない生活を送り5年以上経過している状態からの受験でした(ただし, 勉強を進めるうえで最低限必要な, 一通りの高校数学と大学の微積・線形代数の初歩的内容ぐらいは覚えていました). 
本記事は, このようなバックグラウンドを持っていながらも, 統計検定1級の合格を目指したいかなり異質な方向けに書いていることを先に断っておきます. また, 具体的な勉強方法について本記事では触れません. 

受験歴

2021年度試験:統計数理不合格(不合格者上位2割), 統計応用(理工学)不合格(不合格者上位2割~4割)
2022年度試験:統計数理不合格(不合格者上位2割), 統計応用(社会科学)合格
2023年度試験:統計数理合格(優秀成績賞)

2021年度で200時間, 2022年度と2023年度で各400時間程度勉強しました(合計1000時間程度). 

受験するうえでの心構え(非高学歴・データ分析職向け)

SNSやネット上の合格体験記を見ない

この試験の受験者は, その大半が高学歴または仕事で毎日データ分析に触れている方です. そのような方と, 大した大学を出ておらず就職後数学や統計学から長年離れている方(勿論この中には私も含みます)とでは, 生まれ持った数学的センスに大きな差があります.
そしてインターネット上の合格報告あるいは合格体験記は, そのような方が短期間で合格したことを自慢したいが故に書かれている場合が大半であり, 読んでも能力の差に絶望して自己嫌悪に陥るだけなので見るのを辞めましょう. 
そのうえ, 書かれている勉強方法はどれも似たり寄ったりの内容で, そこから得られるものなんか何もありません. そもそも, 試験に合格するうえで勉強方法の裏技なんか存在しません. 短期間で合格する方は何か超効率的な勉強をしている訳でもなんでもなく, ただ元々生まれ持った能力が高いだけです. 

まずは1科目取ることを重視する

統計数理, 統計応用の両方で不合格になってしまうと, 次の試験に向けて勉強を継続するのがかなり精神的に厳しくなります. そもそも勉強すれば誰でも受かる難易度の試験ではないですし, そこに2科目2連敗の失敗経験が積み重なることで「本当に自分でも合格することができるのだろうか」という不安が常に付きまといます(経験談です). 試験が年1回しかないため, そのような精神状態でかなり長い期間を過ごすことになりますが, これは可能な限り避けたいところです.  
一方で, どちらか片方に合格するだけでも精神的にはかなり救われます. 統計数理と統計応用でそこまで合格率に差がある訳ではないので, どちらかに合格することができればもう一方も頑張れば合格できるという気持ちを持てるのは大きいです. 
私はとにかくこの安心感が欲しかったので, 2回目(2022年度)の受験の際には統計応用の勉強をかなり重視し, 応用で合格できれば数理は不合格でも構わないという気持ちで臨みました. なお, 数理ではなく応用を優先したのは

  • 統計数理よりも出題内容による運要素が大きいため, 統計数理よりも受験回数を稼ぐ重要性が大きいと判断したため(数理を優先して応用をほぼ捨てた状態で受験するのは受験回数を稼ぐという観点でかなり損と判断)

  • 統計応用は勉強方法を確立するのが難しくどうしても手さぐりになりがちなため, あまり後に残したくない(大変な方を先に片づけたい)

といった理由からです. 一方で, 統計応用の勉強にあたっては統計数理の知識がある程度前提として必要になります. 私は1回目(2021年度)の受験時に, 不合格とは言えある程度統計数理の勉強をしていたので, 2回目(2022年度)の受験時に統計応用を優先するという戦術を取ることができましたが, これから勉強を開始する方は1回目の受験では統計数理の合格に専念するのが得策かもしれません. 

3浪(=4度の受験)程度は覚悟する

非高学歴・データ分析職の方が1発で数理・応用の両方を取り合格するのはかなり厳しい試験です.  そもそもSNSを調べると, かなりいい大学を出ていたり, データ分析の専門職に就いている場合でも2~3回受験のうえ合格しているケースがそれなりに見られ(公式HP掲載の合格体験記を見てもそのことが分かります), 自己顕示欲を満たすために書かれた短期間1発合格は声が大きいから目立つだけで, それが多数派でないことが分かります. 
私は1回目の試験での不合格でこのことを痛感し, 以降は3浪(=4回目)まで試験を受け続けることは覚悟のうえで勉強を進めました. 結果的には2浪(=3回目)の試験で合格し, そのうえ統計数理では優秀成績賞を取ることもできましたが, これはかなり幸運だったように思います. 優秀賞を取った際も試験の手ごたえ的には5分5分で, 試験結果を見て優秀賞が取れていることにかなり驚きました. 様々な要素の中のいずれかが少し異なっていただけで, 3浪あるいはそれ以上の長期戦になっていた可能性も全然あったものと思います.  

統計応用は人文科学か社会科学

インターネット上では統計数理と出題が被ることから理工学1択のように語られており, 実際試験会場でも理工学受験者が圧倒的に多いことを確認できます(応用で何を選択しているかで教室が分かれているため). 
しかし, 個人的には非高学歴・データ分析職の方の場合, 理工学を選択するのはあまり得策だと思っていません. 
まず, この試験の採点方法は公になってはいないものの, 受験者全体での得点分布により何らかの調整が入っているのはほぼ間違いありません. すなわち, 出来が悪い大問は部分点を甘めにするか配点調整により合格ラインが低く設定され, 逆に出来の良い大問は部分点が厳しくなるか合格ラインが高く設定されていることが予想されます. 
そういった中で, 理工学で出題されるような応用とは名ばかりで, 実質統計数理だったりほぼ計算力だけを見ているような問題は他の高学歴受験生が強みを活かしてそれなりに点を取ることが予想されるため, 他分野よりも多くの問題に解答する必要が生じているものと考えられます. 
この試験で必要な数学の前提知識は中堅大入試+大学教養数学の基礎程度であり, 難関大の入試や講義でしか扱わない数学の前提知識が問われることはほとんどないです. そのため,  受験層の多数派である高学歴と非高学歴で最も差が出るのは計算力の部分であり, 理工学で受験することは相手の土俵で戦っているようなものです. 大人しくこの試験のために学んだもので勝負がしやすい他分野を選択しましょう. 
また, 理工学と医薬生物学は特定の職種に就いていないとイメージが湧きにくい内容が多く, 勉強のモチベーションが保ちにくいという問題点もあります. そのため, 誰でも馴染みのあるようなテーマを取り扱っている人文科学か社会科学での受験を強く推奨します. 

(余談)統計応用(理工学)に対する反対意見

他の3分野において年々問題の質が高まっている一方, 理工学からはそれを全く感じられません. 統計応用として試験を実施する意義を鑑みれば, ひたすら最尤推定量や期待値, 分散, 数値解析スキームだけを求めさせて, ほとんど計算力のみで勝負が決まってしまうような試験は適切とは認められないです.
そのような出題がなされるために, 統計応用対策として真面目に勉強してきた受験生がその事前準備をほとんど発揮することができず, 逆に高学歴が持って生まれた計算処理能力を活かし, 統計数理の知識だけで合格するといった事象が最も多く発生しているのが理工学であることは想像に難くありません. 真剣に試験に取り組んでいる受験生を愚弄しています. 
理工学でも一度, 2019年度および2021年度にはこのような状況から脱却しようとする出題が見られましたが, 2022年度は再び元の出題に近づき, 2023年度の試験にいたっては応用と言えるような大問が1つもない, 統計応用の試験としては的外れも甚だしい出題がなされました. 私も後日全問解きましたが, 全ての問題が統計数理の知識で完結しており, 拍子抜けしたのを覚えています.
この回の試験問題作成者は, 2014年度統計応用(人文科学)問2[1]の解答例「各問題が学生の同じ能力を測定していることを表してもいて, それでは問題を複数個用意する意味はない」を1億回読み返した方がいいです. 問1にいたっては統計学の問題ですらありません. 
突出した才能を持つ方がその才能の暴力によりいとも簡単に合格してしまうことを完全になくすことはできないでしょうが, 可能な限り時間をかけて対策をしてきた受験生から順番に合格するような出題ができるように尽くすべきです. それが今の理工学問題作成者に不可能なのは明白なので, 問題作成者を変更してほしいとすら思っています. 
色々と書きましたが, 私はこの試験のことが好きですし, 合格するまで辛いと感じることもありましたが, それでも続けられたのは楽しいと感じていたからです. 合格した後も時間を見つけて過去問を解いたりしてますし, 私が受験した際にカバーできなかった内容について勉強することもいまだにあります. だからこそ, 2024年度統計応用(理工学)の出題が今のような腐敗しきったものではなく, 適正な出題がなされることを切に願います. 



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