0か1か
時々、人の気持ちが分からない。
「貴方って本当に優しいのね」
妻が言う。確かに僕はあまり怒らないし優しい方だ。
「お前は本当に凄いやつだよ」
会社の同僚が言う。確かに僕は幼い頃から、人より少しだけ、何でも出来た。
それでも時々、人の気持ちが分からない時があるー。
人生に、運命に、正解はない。
それなのに理不尽にも、そのことに対して不平不満を言う人がいる。
そんな時、僕はその人の気持ちが全く分からず困惑してしまうのだ。
どうしようもない事に対して憤っている人の言葉が、僕には0と1の羅列に感じる。
無機質で柔軟性がない。
それでいてどこか命令的な数字の羅列。
なんとか余白を見つけたくて必死に探るのだが、そのうちに思考はザーザーと音を立てて、一昔前のテレビの砂嵐になってしまう。
「優しすぎるのよ」
妻は言う。そうなのだろうか。
「お前、どことなく超人ぽいもんな」
同僚は言う。いや、そこまでじゃないだろ。
この砂嵐の先に、何があるのか見つけたい。
でも同時に、これは見つけるとヤバイ、と本能的に感じている。
見つけたら僕は変わってしまうだろう。
それが良いものなのか悪いものなのかわからなくて、僕は今日も考えあぐねてしまうのだ。
「素晴らしい出来だ」
科学者は目の前の1人をまじまじと観察しながらこう言った。
「思想も感情も、限りなく人である。いいや、これはもうヒトだ。AIロボットは、新人類だ」
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