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CLONE

もうすぐだ。
もうすぐ、あの人にまた会えるー

西暦2050年。クローン技術は発達し、それは人においても同じだった。
身体の一部であれば、本人の細胞から作ることは可能で、見た目上の老いはなくなった。
癌になっても取り除いて、失った臓器はまた作ればいい。
人間の平均寿命は100歳まで延び、人々は繁栄の一途を辿っていた。

しかし、それでも人は死からは免れない。

クローン技術は、脳を作ることだけは出来なかった。
そのため、脳に異常をきたすような病気や、クローン治療の前に脳の機能が止まってしまうと、人は死んでしまう。
平均寿命が100歳なのは、100歳を過ぎると脳に病が起きやすくなるからだ。

一方で、若くして亡くなることはほとんどなくなった。
交通事故にあっても処置が早く脳が無事なら生存できるし、病気であっても同じだった。
そして、ほとんどない可能性だからこそ、若者がなくなるとそれに耐えられないほどの悲しみがその家族を覆った。

脳医学の権威、ナナ教授もその1人だった。
結婚したばかりで幸せの絶頂だったはすが、旦那は深夜に、轢き逃げにあい死んでしまったのだ。
ナナ教授は、後を追うことを、真剣に考えたが、やがて一心不乱に研究に打ち込むようになる。
「必ず彼を生き返してみせる」
それが彼女の口癖となった。

そうして遂に、脳のクローンも可能となった。さらにナナ教授が拘ったのは、記憶の再生。
クローンする脳の皺の形を完璧に再現することによって、記憶も再生することに成功した。
こうして、ナナ教授は遂に自らの最愛の人のクローンを作り上げたのだった。

顔も背格好も、体温もまるきりあの人のままだった。目覚めたクローンは真っ直ぐな瞳でナナ教授を見ている。
ナナ教授は期待と緊張で震えながら彼の、両手をしっかりと握り見つめ返した。

やがて彼がゆっくりと口を開いてこう言った。

「ごめんね。俺は、もう俺じゃないよ。君の好きだった俺じゃないんだよ」

ナナ教授は膝から崩れ落ち声を上げて泣いた。
それはまさしく、彼が生きていたら言ったであろう言葉だった。

実験は成功した。

しかし、もう誰も、クローン技術で死んだ人間を生き返らせることはしなかった。

#ショートショート
#小説


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持田瀞 Mochida Toro
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