パチパチパチ。
それは弾けるサイダーの泡のようで
儚くて、淡い。
トントンカンカン矢倉を建てる音を聞きながら、僕はぼんやりと海を見ていた。
いつもだったら、波音だけの静かなこの場所は僕のお気に入りで、夜に1人で眺めるのが日課だった。
今年もまた夏祭りの季節だ。僕は祭りに興味がないが、矢倉を建てる音は悪くない。
潮風を髪に感じながら僕は独りごちてみる。
「気持ちいいね」
ふと声がして顔を上げると、女の人が立っていた。
長い髪が月の光をいっぱいに浴びて、足首には波が打ち寄せては引いている。
あぁ、人魚だ、と僕は思った。
こうこうと明るい月の下、僕たちは海を眺めていた。何か沢山話をしたのだけれど、何も覚えていない。ただ彼女はよく笑ってくれた。
「また、会える?」
僕が聞くと、彼女は少し首を傾げて答えた。
「また、会えるかも」
あとはずっと2人で矢倉が建つ様子をみていた。
朝になると彼女は消えていた。
海へ帰ったのかもしれない。
ピーヒョロヒョロ、と祭りの音がする。あれから1週間、もう彼女に会うことはなかった。
「祭りは行かないのかい?」
窓から外をぼうっと見ていると、おばあちゃんがこう言った。
「人魚が来てるかもしれないよ」
知らないの?
夏祭りは、海の恵みを祝う祭り。それを海辺で行うのは、人魚を祭りに呼んで一緒にお祝いするためなんだよ。
気づくと僕は海に向かって走っていた。
潮風と祭りの火の焼けた匂いが僕の身体を駆けていく。
「気持ちいいね」
彼女の言葉を思い出す。
走れ走れ走れ。
僕よ、君を目指して走れ!
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