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カミナリさまの子

ここはカミナリさまの国。
雲の上のさらに上の雲にあり、たくさんのカミナリさまが住んでいる。
カミナリさまの国の王さまは今、あることでとても悩んでいた。
それは、王子のやんちゃが過ぎることである。


「こんな授業、つまーんない」
カミナリを起こす授業中、王子はそう言い放ちすぐに外に遊びに行ってしまう。
「俺はすごい音が出せるぞ!」
太鼓を叩く授業では、一体いつの間に練習したのやら、すごい速さで太鼓を打ち鳴らし太鼓に大穴を空けてしまった。
周りの子まで一緒になって王子と遊ぶものだから、先生はいつも癇癪を起こしてヘトヘトだ。


ある日の授業で先生は教科書を読んだ。
「雲の下の世界には、色んな生き物がいます。その中でも人間というのは、とても賢くとても危険です」
王子はガタンと椅子をならして立ち上がった。
「え?そうなの?」
そして学校を飛び出すと、ぴょーんと雲から飛び降りた。



着いたのは雲の下の世界の学校。
でも王子よりもずいぶん大きい子達が通っている学校のようだ。
学校にはいくつもの建物があり、校庭も食堂も沢山ある。
王子はそのうちの建物の1つに入ってみた。

「えー、カントールの定理とは任意の集合 Aに対して,|A|<|2A|であるからに…」

広い教室は円のように教壇を囲んでいて、その中央にある黒板には、沢山の数字と記号が並んでいる。

「うわぁ、意味わかんねぇ」
王子がそう声に出すと、先生はジロリと王子を睨んだ。
クスクスと笑い声が聞こえる。
授業が終わると隣の青年が王子の肩を叩いた。
「意味わかんないよな、この授業」
そして笑って隣の建物を指差した。
「僕、バンドサークルに入ってるんだ。寄ってかない?」


薄暗い部屋の中には、ツヤツヤした楽器が並んでいた。
その中の1つは王子も雲の上で見たことがあった。
「ドラムだよ。叩いてみる?」
青年は2本の細い棒を王子に手渡した。

トントン。
それは雲の上で叩いてる太鼓とは全く違う音だった。
シャーン。
金ピカの平たいお皿を叩くと世にも不思議な音がする。
王子は夢中になってドラムを叩いた。
散々叩いて、はっと顔を上げると、物凄い拍手の音が王子を包んだ。
周りにはいつの間にか沢山の人だかりが出来ていた。
王子は頬が熱くなった。



「ねぇ、雲の下はどうだった?」
上の世界に戻ると、子どもたちが王子の周りを取り囲んだ。
「あんまりここと変わらなかった」
王子は言いながら、指で雲にするすると絵を描く。
「こーんな楽器があってね、それでここがピカピカしてて…」
そのうち、先生たちも集まってきて王子の話を興味深そうに聞いていた。


遠くからその様子を見ていた王さまは、やれやれと頭をかいた。
隣で大臣が目を細める。
「将来が楽しみですね」
ため息まじりに王さまは笑う。
「先が思いやられるよ」

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持田瀞 Mochida Toro
お読み頂きありがとうございます⸜(๑’ᵕ’๑)⸝ これからも楽しい話を描いていけるようにトロトロもちもち頑張ります。 サポートして頂いたお金は、執筆時のカフェインに利用させて頂きます(˙꒳​˙ᐢ )♡ し、しあわせ…!