猫になる
彼は決めた。
「今日から俺は猫になる」
猫の1番の仕事は寝そべることだ。
彼は寝そべる場所を探すことにした。
真っ白な太陽の光が身体を焼いてくるから、とても日向にはいられない。
汗だく木陰に入って彼はひと息ついていた。
葉の隙間から木漏れる光と髪を揺らす柔らかな風。
蝉の声、葉の擦れ合う音。汗をかいていることが気持ちよく感じる瞬間。
地面にお腹をつけてみると、奥にある水の湿り気が感じられた。
よし、ここにしよう。
寝そべったら次は観察だ。
人も虫も光も木々も土も、なんもかんも観察する。
観察は面白い。
1ヶ月経って、1年経って、8年目のある日。一羽のツバメが彼のところにやってきた。
なにやら好いた相手がいるのだが、告白する勇気がないと言う。
「大丈夫。向こうも君のこと好きだと思うよ」
彼は自信たっぷりに言った。
「僕は四六時中観察してるからね。見ていたら分かるよ」
程なくして、若いツバメのカップルが誕生した。
いつしか彼の元には、悩みを相談したい生き物たちが集うようになっていた。
ところがある日、皆が今日も彼の元を訪ねると、彼はいなくなっていた。
どうやら旅に出たらしい。
「気ままだね」
「猫だもの」
皆は妙に納得して、それからは彼の寝そべっていたその場所は、悩みや願いを吐露する場所になったとさ。
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