捨て猫かしら
ある冬の日。
その日は雪がはらはら降っていて、家路を急ぐ彼女の吐く息は白くなっていた。
にゃーん、にゃーん。
ふ、と声がする方へ歩いてみるとそこには寒そうな猫が一匹。
「捨て猫かしら」
彼女は吸い寄せられるように猫を手に取ると、家に連れて帰ることにした。
次の日は月曜日。
彼女が起きると、猫はすでに先に起きていて、床の上に散らかしっぱなしだった服たちに、散々粗相をした後だった。
「あらまぁ、なんてこと」
彼女は服をみんな捨てた。
猫は意に返す様子もなく、綺麗になった床を我が物顔で歩いている。
「お前、綺麗な毛並みをしているのねぇ」
彼女は猫にブラッシングをしてやった。
火曜日、彼女が勤め先に行くと、雇い主は大きなくしゃみを3回も続けてした。
「僕は猫アレルギーなんだ。猫を飼ってる奴を雇うわけにはいかない。仕事か猫か、選びなさい」
それで彼女は勤め先を辞めた。
帰りに彼女は駅ビルに寄ると、猫に赤い首輪を買った。
「あんまり好きな職場じゃなかったから、ちょうど良かったわ」
首輪は猫によく似合っていた。
水曜日、猫はテーブルの脚で爪を研いでいた。
彼女はテーブルを捨てた。
木曜日、猫はどうやったのか、彼女の髪を絡めて鞠のように丸めてしまった。
彼女は美容院へ行き、何年振りかに髪を短く切った。
金曜日、アパートの大家に猫を飼っていることを咎められ彼女と猫は家を追い出された。
そして土曜日。
彼女は猫を連れて、あてもなく街をぶらぶらと歩いた。
「やることも住むとこもなくなっちゃったわ」
着るものも一着、髪も短く、他にあるのは猫とその首の輪っかだけ。
と、あの日のように真っ白な雪が降り出した。
彼女と猫はすぐ側の店先で雪宿り。
雪はどんどん降ってくる。
彼女と猫は寄り添い合って、互いに暖をとった。
猫はすべすべでじんわりと温かく、とっても気持ちが良いのであった。
次の朝は日曜日。
彼女が目を覚ますとそこは見知らぬ部屋だった。
いつのまにか猫はいなくなっている。
窓からは明るい朝の光が差し込んでいた。
そうっと部屋から抜け出すと、見知らぬ男性が一人。そして足元には見知った猫。
「大丈夫ですか?」
男性は言った。
「朝、店に来たら、貴方が倒れているので中に運んだのです」
男性は彼女にコーヒーを、猫にはミルクを差し出した。
猫はぴちゃぴちゃと音を立ててミルクを美味しそうに飲んでいる。
「その猫は貴方のですか?」
彼女が尋ねると、男性は頷く。
「と言っても、ふいに出掛けては帰ってくるような猫ですが」
彼女は驚いたけれど、猫はにゃーん、にゃーんと鳴いただけ。
一体これはどうしたものかしら。
彼女は壁に貼ってある店の求人募集を見やりながら、コーヒーをペロリ飲み干した。
special thanks ---
このお話は、セロリー子さんをモデルに描かせて頂きました。
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