犠牲 /第13話
「やっぱり戻ってきてくれたね」
近づいてい来る零の瞳は、虚ろだ。
笑顔が怖い。
この笑顔を私は知っている、と菜々子は思う。
これは零ではない。アイツに支配されている時の零だ。
「さ。菜々ちゃんが来てくれたことだし、始めようか」
何を?と言う間もなく、零が菜々子の腕を掴む。
「おい、零。ちょっと話を聞け」
ピヨがその腕を抑えて言うと、零はピヨを一瞥した。
「君はNo.1だね。君には用はないよ?何しに来たの?」
ピヨと菜々子は頷いた。
まずは俊の作戦通りに。
「サイバーシティの住民の記憶を元に戻すよう命令するように、零を説得しろ」
俊の作戦はこうだった。
元々、菜々子は住民とのコネクションを作る役目。零は住民に命令をする役目として作られたアンドロイドだ。
「だったら、零が菜々子を通じて住民たちに『思い出せ!』って言えば、思い出せるはずだろ?」
理屈上は確かにそうだ。
その為には零の協力が不可欠だけど。
「零。サイバーシティの人たちの記憶を元に戻したいの。協力して」
菜々子はできるだけ落ち着いた声で言った。
零の中のアイツを刺激しないように。そして本当の零に、自分の声が届くように。
「どうして?」
零は言った。
「せっかく、辛い記憶を消してあげたのに。わざわざ辛いことを思い出させる必要なんて、ないだろ?」
零の言葉に、菜々子は何も言い返せない。
「くだらないこと言ってないで、いいから早く世界を平和にしに行こうよ」
零は再び笑顔を作ると、菜々子の腕を引こうとした。
「やめろ!」
零の腕を遮ったのはピヨだった。
「菜々子、やっぱり作戦は失敗だ。こいつはだめだ。俊のところに合流しよう」
ピヨが菜々子の腕を掴んで、走ろうとしたその時、突如としてピヨが動かなくなった。
「アンドロイドが動けなくなる電磁波。君も知ってるよね?」
零の手にはスイッチらしきものが握られている。
零が近づいてくる。
ピヨは言った。
「菜々子。お前は石を持ってるから動けるだろ。一人で俊のところに行け」
菜々子が首を振るとピヨは笑った。
「安いドラマみたいな行動しないでよ。ここで菜々子が捕まったら、だめじゃん。
後で必ず追いつくよ。約束する」
菜々子はピヨをじっとみた。
「友達でしょ?」
ピヨの言葉に、菜々子は頷いた。
零がそばにきたその時。
菜々子の腕を持ったまま、ピヨがぐっと零の腕を掴んだ。
菜々子はその瞬間、部屋を飛び出す。
ピヨの手は零の腕を掴んだ状態でピタッと強く固まった。
「あ、くそ!」
零の声が響く。
菜々子は夢中で駆け出した。
今はとにかく、俊の元へ。
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