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rain

傘というのものは、古来よりその形を変えず200年以上もの間使われてきた。

しかし、2022年、遂に新しい傘が開発されたのである。

「これは時代を変える大発明だ」

そして実際、この傘は世界を大きく変えることになる。


新しい傘の名前は「rain pocket」

その名の通り、雨を入れるポケットだ。

それはまるでシャボン玉。通常時は液体になっていて小さなボトルに入れて持ち歩く。使うときにストローでふーっと膨らませると、大きくなって自分の頭上を覆ってくれる。

そして、シャボン玉は雨を玉の中に溜め込んでくれるので、その下にいる自分は濡れないというわけだ。

使い終わったら一言「レイン!」と言えばいい。

シャボン玉はたちまち弾けて、中にあった雨水はその場に落ちるという仕組みだ。

この発明は大ヒットし、たちまち世界中に広まった。
さらに拡散させた要因は、この液体を作るのがとても容易であることだった。
作り方さえ知っていれば、子どもでも手に入る材料、作れる代物だった。
そうして、世界中の老若男女がこの新しい傘を使うようになった。

しかしそのうち、人びとは傘ではない使い方をするようになってきた。
まず、rain pocketで溜めた雨水を使って、自宅の排水や飲料水、お風呂の水として使い始めた。
そのうち、沢山集めて水力発電を行ったり、販売する人たちも現れた。
そうなると、いよいよ雨をいかに得るかが重要視されるようになった。もはや雨を沢山持っている事は貨幣を持つことと同じ。雨で物の売買は行われるようになり、既存の貨幣はその価値を失った。
rain pocketを作る事が簡単であったことが災いし、皆がrain pocketを大量生産し、ありったけの雨を奪い合い、争うようになっていった。
そうして世界経済はあっという間に崩壊してしまった。

一方とある小学校では、別の変化が起きていた。今まであったイジメは一切なくなり、子どもたちは自力心が高まり、子どもたちのコミュニティは大きな力を持つようになっていた。
そこでは、皆がrain pocketを持っていたが、生産には一定の秩序があった。
そして子どもたちは雨をお礼の気持ちとして使っていた。給食当番の友達に、掃除をいつも積極的にやってくれる子に、皆が与え合っていた。

1人の少年は言った。
「rain pocketは貯めることより、消費することの方がずっと重要なんだよ。だって、雨は地面に落とさないとそのうち地球の気候がおかしくなっちゃうじゃん」
その通り。この小学校では、皆が如何に雨を有効に使うかを考えている。

新しい時代がやってきた。

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持田瀞 Mochida Toro
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