ある日の僕ら
人は変わるものだ。
結婚すると、益々変わる。
それは妻ではなく、僕のこと。
「ねぇ、俺って変わったと思わない?」
僕はスマホをいじる妻に尋ねる。
僕らは食卓に向かい合って座っていて、夕食を食べ終え、互いに食後の飲み物を飲みながら寛いでいた。
「結婚する前に実家に住んでた頃はさ、家事なんて一切しなかったのに。それが今や、俺は掃除も洗濯も食器洗いも出来る」
僕は、えへんと胸を張った。
しかし妻はちらっとこちらを見るだけで、冷ややかに答える。
「料理はしないじゃない」
僕はその言葉を聞いて勢い勇んだ。
「それそれ。料理はしないんだよね。でも俺が料理しない方がいいでしょ?料理も出来たら、俺、一人で生きられるようになっちゃうよ?いいの?」
ワクワクしながら妻の返事を待つ。
けれど妻の視線はスマホの画面のままだ。
「いいよ。大歓迎だよ」
僕は、えーっと声を出した。
「なんで?」
僕が一人で生きるようになってもいいの?
すると妻は顔を上げた。
数分ぶりにみる妻の顔は、相変わらず眼鏡がちょっとずり落ちている。
鼻が低くて目が小さい。
そして小さな口が開くと、いつもの細くてのんびりした声で妻は言った。
「一人で生きられるのに、それでも一緒に生きることを選んでるってのが良いじゃん」
僕の目を見ると、ね?と首を傾げる。
目の前の緑茶を手に取ってちびちびと飲む妻の眼鏡は、少し曇って白い。
やがて妻はまたスマホの世界に戻っていった。
僕は黙って食卓の下の妻の足を、ツンツンと突つく。
妻もツンツンと突き返してくる。
僕は暖かい溜息をつきながら、確かに良いね、と頷いた。
こうして
僕はまた明日からも変わっていくのだった。
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